KDDIは5月14日、2020年3月期の決算説明会をライブ中継で実施しました。新型コロナウイルスの感染拡大による影響が懸念されましたが、今期も増収増益を達成しています。質疑応答では、コロナが事業に及ぼす影響について、UQ mobile事業をKDDIに統合したことについて、楽天モバイルについてなどの質問が記者団から寄せられました。
増収増益を達成 - 来年度の業績予想は?
2020年3月期の連結業績は、売上高が前年同期比3.1%増の5兆2372億円、営業利益が同1.1%増の1兆252億円。登壇した高橋誠社長は「ライフデザイン領域、およびビジネスセグメントの成長領域で増益しており、引き続き業績を牽引しています」と説明しました。
今回の決算を振り返り、「2020年3月期はなんとか増収増益で乗り切れたと安心しているところです」と高橋社長。新型コロナウイルスの影響が懸念される2021年3月期の連結業績予想ですが、売上高は5兆2,500億円、営業利益は1兆300億円と、前年度と同水準を見込んでいます。
この理由については「3月、4月の段階で集中的に社内で検討し、いろいろと議論を重ねてきました。ネガティブなポイントをピックアップしていった。通信におよぼす影響はどうか、あるいは子会社なら、英会話のAEON(イーオン)の教室がすべて閉まったときの影響など、洗いざらい検討していった。それらを見込んでも、何とか増収増益に持っていけるのではないか、との結論になりました。その宣言の意味も込めての業績予想です。プラス要素としては4G、5Gを使ったテレワークが浸透して、新しい需要を生んでいくことが挙げられます。この4~6月でしっかり見定めたうえで、このままいけるのかどうか、検討していきます」(高橋社長)。
UQ mobile事業の統合は3つのメリットが
このあと、記者団の質問に高橋社長が回答していきました。
折しも同日、UQ mobile事業をKDDIに統合したと発表がありました。これについて、元の鞘に収まったということか、どんなメリットがあるのかと聞かれると、「元の鞘に収まったという感じでは捉えていません。これまで、auとUQ mobileは別会社で運営していたので、今回の統合で大きく変わる部分があります」として、次の3つの観点でメリットを説明しました。
「まず、営業体制を統合してグループID増を狙います。いま市場では、多様性が進んでいます。多様化された市場では1ブランドで対応するよりも、複数のブランドでアプローチするのが自然な流れです。安心してたくさんの動画を見たいユーザーにはauを、とにかく低料金にしたいユーザーにはUQ mobileを、ということですね。そして新しい価値として、KDDIでは通信とライフデザインの融合を進めています。auだけでなく、UQ mobile、BIGLOBE(ビッグローブ)、J:COM(ジェイコム)にもサービスを乗っけていくことで、グループとしてのエンゲージメントを高めていけます。最後に、グループ事業の効率化というメリットがあります。重複する業務を効率化する、5Gに向けて経営資源の効率化を図る、といった側面です」。やっと統合というカタチがとれた、UQのメンバーを迎え入れてチームワークでお客さんに接していきたい、と高橋社長は意気込みを見せます。
統合後のUQ mobileのモバイル事業については、「WiMAX 2+など、コンシューマ向けサービスを引き続き提供していきます。(KDDIとしては)UQ mobileというMVNOに向けて回線を提供していく。今後は全リソースをブロードバンド事業に集中することで、安定した収益が見込めます。ちなみに、WiMAXで利用するBand 41は周波数の利用効率が高いので、5Gへの対応を進めることによって、お客様の高速無線通信のニーズにも応えられます」と説明しました。
寝耳に水だった!? 楽天モバイルのプラン
楽天モバイルが、料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」におけるパートナー回線エリアの通信容量の上限を2GBから5GBに増量した件について聞かれると、「楽天さんがサービスを開始されるとき、急に2GBから5GBに変更された。寝耳に水だったので、正直なところ驚いた。これによって、我々のローミングネットワークもたくさん使われるようになる。そういう意味では設備の対応もあるので、楽天さんには、これはよく協議しながらやらないといけないとあえて申し上げた。5GBを利用いただけることについて、競争の観点では警戒しなければいけないし、ローミング収入という観点ではプラスの方向に動く。両面で捉えています」。
楽天モバイルがサービスを開始してからの状況については、「おおむね想定通りの動きと見ています。料金プランで5GBを定義されてから今まで、我々が何かをあわてて用意する状況にはなっていません」と回答。ユーザーの流出については「これまでauから楽天さんのMVNOに流れる動きがありましたが、その数がなくなり、それと同等くらいのお客さんがMNOに行かれているイメージ。MVNOに行く人たちが減ったぶん、MNOに行ったのかなという感覚です。ローミング手数料も、おおむね想定の範囲内。楽天さんのお客さんが増えるとローミング手数料が増える構造ですが、それはそれ、これはこれ。楽天さんは新しいコンペチター(競争相手)なので、シェアを奪われないように。そして楽天さんのMVNOから離れる人もいるでしょう、そうした方には来てもらえるように。UQ mobileとのダブルブランド化に向けて準備が整いましたので、しっかり対抗していきます」。
コロナの影響は?
コロナ禍により、ユーザーの利用動向はどのように変化したのでしょうか。「音声電話はビジネスマンの在宅利用、学生さんの利用増により上振れしています。一方でモバイルデータ通信は、自宅で使われるケースが増えました。ただ、光回線やWi-Fiが使われるケースも多く、オフロード率の高まりに食われている状況。外出が減っているので、通勤電車内の利用などがマイナスになりました。国際ローミングはもともと利用量が少なかったのですが、これもマイナス。25歳までの学生に向けた定額プランの利用率は上がり、データ量は増えています」と説明しました。
5Gの展開について
コロナの収束後、5Gをどのように展開・活用していくか聞かれると、「この春にサービスを開始した5Gですが、コロナの関係もあって穏やかなスタートになりました。5Gは技術の進歩だけではなく、auではAUGMENT(オーグメント)をキーワードに、いろいろな体験価値を広げていく活用方法を想定しています。デジタル・トランスフォーメーションのツールとして、遠隔医療、遠隔教育、テレワークといったものの体験価値が5Gでより強くなる。こういった面で積極的に活用して、5Gを盛り上げていく」。夏ごろには5Gスマホのラインナップもそろうとし、対応する法人向けソリューションもしっかり根付かせていく、と説明しました。
5G対応スマホの販売台数については、「まだ公表できるところではありません。ドコモさんと同様の傾向だとお考えいただいて問題ありません」。5G基地局の工事は、いまのところ順調とのこと。『基地局の工事に入ることを差し控えてほしい』という現場もポツポツとあるものの、パートナーさんと一緒になってリカバーしながら計画通りに進めていきたいとし、「コロナの影響でサプライチェーンが崩れて工事が遅れているという話は入っていません。いまのところ、大きな影響が出ることは想定していません」と話しました。
コロナの影響で代理店との付き合い方、役割に変化はあるか聞かれると、「こうした環境下にあり、ショップスタッフの方々には大変ご苦労をかけたという思いがあります。ショップは大事なユーザー接点であると、改めて思いました。Web手続きについても、比率が上がってきている。お客様が簡易に手続きできるような仕組みを強化していく」。
ショップスタッフには「いろいろな形で報いていかなくてはいけない。具体策はここでは申し上げられませんが、彼らの店舗経営に配慮するとともに、スタッフなどにはポイントを使った感謝などの施策を考えています」と話しました。
市場の流動性が落ちた
2019年10月1日に施行された改正電気通信事業法の影響について聞かれると、「改正により市場の流動性が落ちたのは明らかです。我々も端末の新規販売、および機種変更の需要が弱まり、売上が落ちた」と回答。そのうえで、端末の買い替えについては2月、3月でだいぶ盛り返した、と付け加えました。