新型コロナウイルス感染拡大の影響で、生産と販売の両面に影響を受ける自動車業界。2019年度(2020年3月期)の期末決算で各社の現状と今後を見ていきたい。5月12日に決算発表を行ったトヨタ自動車は、今期の営業利益を約2兆円減益の5,000億円と予想しつつも、研究・開発費には前期並みの1.1兆円を割り当てる方針を示した。
減収減益も「新しいトヨタのスタートライン」
2019年度におけるグローバル販売台数を見ると、トヨタとレクサスを合わせた連結販売台数は前期比1.9万台減の895.8万台、ダイハツ工業と日野ブランド車を含めたグループ総販売台数は同14.6万台減の1,045.7万台だった。コロナの影響による連結販売台数の減少分は12.7万台。今期(2020年度、2021年3月期)の予想は連結販売台数700万台(約190万台減)、グループ総販売台数890万台(約150万台減)とした。
販売台数は2020年4月を底に徐々に回復していくとトヨタは見ている。4~6月は前期比で約6割、7~9月は同8割、10~12月は9割で、年末から2021年の年初にかけて台数は前年並みに戻るというのが同社の前提だ。
地域別にみると、中国ではすでに販売台数が回復基調を示しており、2020年4月は前年同期比100%超を達成した。北米は5月ごろからロックダウンなどの規制が緩和され、工場の稼働も少しずつ始まっているそう。コロナの収束後については「もともと経済が強いし、政府の強力な下支えもある」(トヨタCFOの近健太執行役員)ことから、2021年の早い段階で前年並みに戻ると見ている。欧州もほぼ同様で、販売は2020年7月ごろから回復し、2021年の早期に前年並みに回復する見通しだという。
2019年度の売上高は前期比2,956億円減の29兆9,299億円、営業利益は同246億円減の2兆4,428億円だった。今期の売上高は前期比約6兆円減の24兆円、営業利益は同約2兆円減の5,000億円を予想する。
2019年度は少し減益となった営業利益だが、その中身については、トヨタが進める収益構造の改善による効果が着実に現れているようだ。近CFOによると、営業利益の増減要因のうち、為替などの影響を除いた部分では1,250億円の収益改善が見られたとのこと。もしもコロナの影響がなければ、この改善幅は2,850億円に達していたそうだ。原価の作り込みやトヨタ生産方式(TPS)に改善がみられ、課題も明確になったことを踏まえ、今回の決算を同社の豊田章男社長は「新しいトヨタに生まれ変われるスタートポイントに立てた決算」だったと総括した。
実証都市プロジェクトも変更なし
とはいえ、今期は厳しい業績となる見込みのトヨタ。そんな中でも、研究・開発費には前期並みの1兆1,000億円を計上するとしている。このあたりについて豊田社長は「未来に向けた種まきについては、アクセルを踏み続けたい」と明言。2020年1月に発表した「コネクティッド・シティ」プロジェクトの「Woven City」(ウーブン・シティー、CASE、AI、パーソナルモビリティ、ロボットなどの実証都市を静岡県に整備する計画)については「やり続ける」(近CFO)考えで、計画に大きな変更はないとした。
厳しい業績見通しの中でも研究費を減らさないトヨタだが、この方針について、豊田社長から「番頭」と呼ばれる同社の小林耕士取締役・執行役員は「実は発表の前、経営陣の間で何度も議論した」と明かす。トヨタの番頭を務める小林取締役の研究・開発費に関する考え方は以下の通りだ。
「会社にとって大事なのは持続的成長。止めてはいけないのは未来に対する開発と投資だ。それは普遍的に実行すべきだし、そのための資金は持っているべき。手元資金は約8兆円(リーマンショック時は3兆円)あるが、アップルさんは20兆円以上だというし、これでも少ないと思っている。スマートシティに対する投資や試験・研究費については、少しも変えるところはない。ただ、私は『けち』ではなく『質素』なのだが、研究費を精査して、無駄なところがあれば遠慮なく削りとる。そうすれば、もっと有効なところに優先順位を付けやすくなる」
未来への投資については手を緩めないというのが社長と番頭の共通認識である以上、モビリティカンパニーへの変革を掲げるトヨタの路線に変わりはないということだろう。ちなみに、コロナの影響を受けて新車開発はスピードダウンするかとの問いに対しては、「少し遅れるケースもある」(近CEO)としつつも、新車投入計画に大きな変更はないとした。ただ、今回のコロナ禍を機に、「いつもなら(コロナ前なら)当たり前のように繰り返していたマイナーチェンなどについては、もういちど見直そうという検討が社内で進んでいる」(同)そうだ。