ムチャなロケにも寛容で、バラエティ番組の制作現場から人気の静岡県熱海市。新型コロナウイルスの感染防止対策でほとんどの番組収録が休止している状況だが、熱海のロケはどうなっているのか。
ロケ支援事業を推進してきた、熱海市役所観光建設部観光経済課メディアプロモーション戦略室長の山田久貴氏に、現状と収束後に向けた展望などを聞いた――。
■3月26日のロケを最後に…
熱海市では、民間の商社から転職した山田氏が旗振り役となって、12年6月に市の公式ウェブサイトに「ADさん、いらっしゃい!」というページを開設し、若者層の来訪を目的にバラエティのロケを積極的に誘致。それまで年間20~30本程度だったロケが、ここ数年は100本ペースに急増し、19年度(19年4月~20年3月)は111本に上った。
3月5日には、4月にレギュラー放送を開始した『有吉の壁』(日本テレビ)が“聖地”と呼ぶ熱海駅前の商店街で、「一般人の壁を越えろ! おもしろ熱海商店街の人選手権」のロケが行われ、中には山田氏に「熱海市のおかげで我々も仕事ができています」と声をかけてきた芸人もいたそう。
他にも『水曜日のダウンタウン』(TBS)など、さまざまなバラエティロケで芸人が熱海を訪れるケースが多くなったことを示すエピソードだが、ほとんど番組が収録を休止したのに伴い、3月26日を最後にテレビ局がロケに来ることはなくなった。
■体制強化で新たに部下配属
このため、山田氏は現在「観光経済課」の業務として、コロナ禍で大きな打撃を受けている飲食店や宿泊施設など、市内の事業者に向けた家賃補助や休業協力金の受付といった事務作業に連日従事。そんな中でも、緊急事態宣言や都道府県間の移動自粛が解除されたときに備え、「ロケを受ける体制は整えています」(山田氏、以下同)という。
3月末には、神奈川県南足柄市から研修で山田氏のもとに派遣されてきた職員が1年で帰任したが、4月からロケ支援事業強化のために新たに部下が配属された。
4月上旬には早速その部下を連れて、バラエティロケでよく利用される廃校やビーチ、森林、グラウンドなどを車で回り、「『ここでこういうロケが行われたんだよ』と説明したり、『ここだったらどう使う?』とシミュレーションしたりしていました」と情報を共有。昨年廃止された青少年教育宿泊施設「自然の家」など、新たにロケで使えそうな場所にも目をつけている。
さらに、「観光客向けのお店は厳しい状況なので、新商品などの情報交換もしています」といい、Twitterでは干物、たくあん、スイーツなど、通販可能な熱海の逸品も紹介した。
■番組スタッフから収束後の引き合いも
昨年の市区町村魅力度ランキング(ブランド総合研究所調べ)で、過去最高の12位に入るなど、観光地として復活を遂げている熱海。国内でコロナが収束しても、海外からのインバウンドが以前の水準に戻るのは時間がかかる見込みだが、熱海は外国人観光客が全体の2%程度ながら宿泊客数を伸ばしてきた実績があり、他の観光地に比べて早期に立ち直る可能性が高い。
最近ではテレビ番組のスタッフから「件数はもちろん少ないですが、『事態が収束したら、こういうロケができないか』という引き合いもあります」とのこと。
「熱海でロケをした番組が放送されると、SNSで『コロナが落ち着いたらまた熱海に行きたい』と投稿してくれる方の声が目に付きます。収束した後には、バラエティロケの聖地としてもっと万全の体制で受け入れて、熱海というブランドを訴求していくことによって、観光復活の起爆剤のひとつになれば」と意気込んでいる。