政府による緊急事態宣言が延長され、自粛生活にそろそろ限界を感じている人も多いことだろう。連日のニュースは新型コロナウイルスの話題ばかりで、先の見えない不安な日々が続いている。

体験したことのない状況の中、眠れなくなったり、不安で苦しくなったりと体や心の不調が現れている人たちは「コロナうつ」に当てはまるかもしれない。今回、精神保健指定医で精神科専門医の髙木希奈医師にコロナで疲れた時の3つの対処法や、コロナへの不安によって現れる症状について伺った。

  • コロナうつを解消する方法とは?

    コロナうつを解消する方法とは?

うつってどんな症状?

精神疾患の世界的な診断基準「DSM-5」によると、“うつ病”の定義は、以下の症状のうち5つ以上が2週間以上持続し、なおかつ、それが仕事などの社会活動や日常生活に支障をきたしている場合、となっている。

「抑うつ気分」
特に朝方の気分の落ち込みが激しく、午後~夕方になると徐々によくなってくるパターンが多い

「興味・関心の低下」
今まで好きだったことや趣味などに興味を持てなくなる、楽しめなくなる

「食欲低下」「体重減少」
増加の場合もあるが、だいたいは減少

「不眠」
多くは朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」。過眠の場合もあるが多くは不眠

「不安焦燥」「精神運動制止」
不安で落ち着かずソワソワする、もしくは、頭の働きが鈍くなり、いろいろなことが考えられなくなり、会話が少なくなる、話し方がスローになったり、動作が緩慢になったりする。

「易疲労感」「意欲低下」「活動性の低下」
些細なことで疲れやすくなる、今までできていたことがやれなくなってしまう、気力がわかない

「自責感」「罪責感」「無価値感」
自分がすべて悪いと思いこむ、自分は価値のない人間だと思いこむ

「集中力や注意力の低下」
仕事のペースが落ちる、ケアレスミスが増える、集中して物事に取り組めない

この他にも「希死念慮」「自殺企図」など

「それ以外にも、将来への不安や悲観、性欲減退、だるさや吐き気、頭痛、動悸、めまい、口渇、手足のしびれ、冷感、肩こりなど身体的にも影響が出てくる『身体症状』が出現します」(髙木医師)

当てはまる症状が5つ未満であったり、2週間以内であったり、症状が毎日持続せず一時的なものであったりするような、 “うつ病”の定義を満たさないけれども、上記の症状がある場合は、“うつ状態”になるとのこと。

「コロナうつ」とはどのような状態?

うつ症状をチェックしたところで、「コロナうつ」はなぜ起こるのだろうか。髙木医師は、誰しも症状が現れる可能性があると語る。

「人は、得体の知れないもの、未知のもの、対処法がないもの、先が見えないものや見通しが立たないものについては、過度の不安や恐怖を感じるものです。まさに、新型コロナウイルス感染症はこの状態で、なおかつ、これが世界的に広まっており問題となっていることで、集団心理が形成され、ますます不安に陥ってしまう、という悪循環になっています」

さらに、在宅勤務やテレワーク、外出自粛で家にいる時間が増え、テレビを見てもコロナのニュースばかり。ネットではいろんな情報があふれ、何を信じていいのかも分からない生活が強いられている。

人と話す時間が減り、プライベートと仕事の境目がなくなり、ライブやイベントなどの楽しみもなくなり、気が滅入る一方……。ということは、誰にでも当てはまることだろう。

「家にいる時間が長くなることで、ストレスも溜まりやることもなく、お酒やタバコの量が増え、昼間から飲むようになり、アルコール依存症になってしまった……という危険性もあります。

それ以外にも、食事の時間が不規則になり夜中に飲食したり、レトルト食品が増えたりと、食生活が乱れている人もいるでしょう。生活リズムが不規則となったり活動量が減ったことで、睡眠がとりづらくなったり、通勤がなくなり、ジムが閉鎖されて運動不足になるなど体調を崩してしまう方もいると思います」

また、中等度~重度のうつ病になると、味覚障害も出現するという。

「患者さんは『何を食べても味がしない』『食べ物の味が分からない』『砂を噛んでいるよう』という表現をします。呼吸困難感、息苦しさ、倦怠感、易疲労感とともに、COVID-19の症状にも当てはまりますので、注意が必要です」

コロナで不安のまま働くとどうなる?

テレワークが推奨されているが、業種や状況によっては出社をしないといけないという人もいるだろう。電車に乗らなくてはいけない、もしかして感染したらどうしようと強く不安を感じながら働く時、私たちの体にはどのような影響があるのだろうか。

「うつ病の定義の中で述べた『不安焦燥』が当てはまり、不安で落ち着かない、ソワソワする、という精神的な症状が出現します。不安焦燥が著明になると、じっとしていられずに、常に歩き回って落ち着かない、寝たり座ったりしていられない状態になります。また、不安感によって引き起こされる『身体症状』が強く出てくるのではないかと思われます」

身体症状の例としては、動悸、吐き気、頭痛などの体の痛み、めまい、耳鳴り、呼吸困難感、息苦しさ、口渇、手足のしびれなどありとあらゆる様々な症状が出現する。これはあくまでも精神的な不安感によって引き起こされているため、実際に身体的に問題があるわけではなく、精神症状が安定してくれば、このような身体症状も軽減したり消失したりしていくという。

コロナうつやコロナ疲れを軽減させるには?

自覚症状がなくても、この状況に知らず知らずのうちにストレスを感じている人は多いだろう。自粛生活が続く中、心身の健康を保つ

3つの対処法を最後に紹介しよう。

(1)規則正しい生活

まず、生活のリズムを整えることが大事だという。

「在宅勤務の場合、普段の会社への勤務と同じように始業、終業、休憩の時間を決めて働くこと。バランスのよい食事を心掛け、食事の時間も普段と同じ時間に一定にしましょう。

睡眠時間も、普段と同じ時間に寝て起きることを意識してください。寝る時間は多少前後しても構いませんが、少なくとも起きる時間は毎日一定にしましょう。

また、軽い運動やストレッチを取り入れてください。運動不足になると、不眠になるなど健康にも影響を及ぼしてしまいます。できれば、午前中の早めの時間に太陽の光を浴びながら、3密を避けて近所の散歩やウォーキングをすることが望ましいです。自宅内でできるストレッチやヨガなどもおすすめです」

(2)情報に振り回されない

テレビやネットを見過ぎると不安につながるので、気にし過ぎないようにすることが大事だという。

「情報がないことでの不安もあるかもしれませんが、いろんな情報を取り込んでかえって不安を煽ることにもなりかねません。それで調子を崩すのであれば、情報をある程度シャットアウトすることも大事です」

(3)社会との接点を持つ

「孤独」はメンタルに影響を及ぼしやすいという。

「とにかく、人とコミュニケーションを取ることが大事です。こういう時だからこそ、家族や恋人、仲のいい友人、離れて暮らす両親など、信頼できる人と密に連絡を取るように心掛けてください。

学校が休校になり、子どもの世話をしたり、自分や家族の仕事が在宅勤務となったり、家族と一緒にいる時間が増え、仕事と家事のやりくりが大変で、余計にストレスが溜まる……という方もいるかもしれませんが、こういう時だからこそ、家族との時間を大切にしてください。普段、忙しすぎて子どもと一緒に遊ぶ時間がない、家族と過ごす時間がない、という方は、家族とゆっくり過ごすいい機会です。とはいえ、自分の趣味や好きなことをする一人の時間も大切にして、息抜きもしてくださいね」