外出自粛中の現在、スマートフォンのレビューはなかなか難しいところがある。普段の生活の中で通勤や通学、出先での仕事、打ち合わせといったさまざまな活動が制限されており、移動するなく自宅から取り組むことで1日が満たされるようになったからだ。
これまでのスマートフォンの発展を簡単にいえば、「移動する人のための情報化」のツールである。日本では、ケータイが若者のツールとして広まってスマートフォンへと移行した。米国では、デスクトップのインターネットアクセスがスマートフォンへと移った。途上国にとっては、個人が自由に利用できる初めての情報ツールとして広まった。
このように経緯は違うが、結果として同じスマートフォンを世界中の人々が使うようになったわけだ。
ただし、その経緯の違いは、どんなスマートフォンを使っているか?という差を生んでいる。先進国では、特に米国、日本、英国において、高付加価値のiPhoneが4~5割ものシェアを維持する。しかし、それ以外の国々では圧倒的にAndroidが優勢で、その理由は価格のバリエーションが豊富だからだ。
例えば、Appleが苦戦しているインド市場では、100~200ドルのAndroidスマートフォンが中心となっている。今回のiPhone SEは、iPhoneとしては破格の安さかもしれないが、インドでは2~4倍の価格のスマートフォンとしてしか見られない。
しかも、iPhoneにあってAndroidにないもののほうがその逆より少ないことを考えると、当然の結果というべきかもしれない。
新しいiPhone SEの魅力とは
iPhone SEは、iPhone 8のボディにiPhone 11の頭脳を搭載したスマートフォンである。
厳密にいえば、前面のガラスが変更されており、その内側にある3D Touchも省かれているなど、iPhone 8と完全に同じボディではない。ただ、カメラの数や画面サイズなどを含め、iPhone 8のアップグレード版と呼んで間違いではない。ケースや充電器などのアクセサリ類も、そのまま利用できる。
このスマートフォンの最大の魅力は価格だ。米国で399ドルから、日本では税別44,800円からという価格と、キャリアの割り引きを考えれば、初めてのスマートフォンを長く使っていきたい小学生にも、企業による大量導入にも、iPhoneユーザーがサブ回線を必要とする場合にもフィットする。
iPhone SEは、iPhone 8の登場時にはなかったデザイン上の魅力がある。それは、小ささと軽さだ。4.7インチディスプレイは、初代iPhone SEに比べれば拡大されているが、現在のラインアップの中では最小だ。
筆者は、5.8インチになったiPhone X以降、両手持ちが前提となったため、ならば画面がより大きなモデルを、と6.5インチサイズのモデルを選択してきた。そこから4.7インチに戻ったときのギャップはとても大きい。
端末を片手で握れ、手首への負担が明らかに軽減されることが体感できる。そして、多くの男性がそうするように、パンツのポケットにスマートフォンをしまう際、これもすんなりと収納できて快適だ。
ミドルレンジの底上げがiPhoneの優位性向上につながる
ただし、この感想を抱いている人にとって、果たしてiPhone SEがマーケティング上のターゲットになっているかは疑問が残る。
iPhone SEは最新のiOS 13を搭載するが、TrueDepthカメラを搭載するiPhone 11などのフルジェスチャーへと移行したデバイスとは操作方法が異なる。ホームボタンでホームに戻り、下から上のスワイプはコントロールセンターが開く。
確かに、ホームボタンに指を押し当てて指紋認証ができるTouch IDは、マスクで顔が覆われてFace IDが思うように動作せずにもどかしく思う現在においては有用かもしれないが、ロック解除以外の操作は不自由で非効率になる。
一方、iPhone SE第2世代のターゲットである、これまで4インチ、あるいはiPhone SEと同じ4.7インチの「ホームボタンがある」iPhoneを使ってきたユーザーにとっては、なんら問題がないものだ。そのうえで、こうしたユーザーにコストを抑えながら『優れたパフォーマンス』と『ここ数年で飛躍的に成長したカメラ体験』をもたらしてくれる。
A13 Bionic搭載のiPhone SE第2世代は、基本的にはiPhone 11、同Proシリーズと同じ処理性能を持つ、と考えてよい。ただし、メインメモリは4GBから3GBに減少しており、完全に同じパフォーマンスを発揮するとは見ないほうがよいだろう。
4K/60fpsのビデオをiMovieで編集したり、Apple Arcadeのゲームをやったりと、iPhone 11 Pro MaxでやっていることをそのままiPhone SEで行ってみたが、画面が小さいこと以外に大きな差を感じることはなかった。
消極的な評価かもしれないが、ハイエンドスマートフォンの体験が、価格が半分以下で済むミドルレンジスマートフォンで実現できることがどんな価値を持つのかを、iPhone全体のプラットホームで考えたほうがよいだろう。
すなわち、iPhone SE初代やiPhone 6などからiPhone SE第2世代への乗り換えが進むことによって、iPhoneのプラットホーム全体で処理性能が大きく向上する。iPhone 6からiPhone SE第2世代へ乗り換えれば、パフォーマンスは4倍、グラフィックスは10倍にも達する。
加えて、ギガビットLTE対応で6.5倍高速化されたモバイル通信、2.7倍高速化されたWi-Fiなど、スマートフォンの本分である通信速度も大幅な高速化が期待できる。さらに、防水やワイヤレス充電などユーティリティ性も高まる。
こうしたスタンダードの向上は、iPhoneを前提としてアプリやゲームを作る開発者にとって、ARや機械学習など、よりパフォーマンスが求められる先進的なアプリを安心して投入できる。結果的に、新しいアプリがiPhoneプラットホームに増え、プラットホームの優位性が維持されることにつながる。
iPhone SEそのものを評価すれば、安い価格で最新の性能を提供する、コストパフォーマンスに優れたミドルレンジモデルといえる。ただし、iPhone SE第2世代は、先代の売り方を踏襲するとなれば、向こう3年は価格を維持して販売され続けることになる。
だからこそ、最新のA13 Bionicチップを搭載したわけだが、裏を返せば、Appleは今後、iPhone SE以下の性能のスマートフォンを作らないし、この価格以下のiPhoneも、少なくとも先進国では登場させないことになるだろう。(続く)