『news every.』(日本テレビ系)でメインキャスターを務める藤井貴彦アナウンサーのコメントに、連日「心が温まる」「外出自粛を頑張ろうと思える」などと称賛の声があがっている。
藤井アナは、新型コロナウイルスの感染者数などを伝えたあとに、用意されたコメントに留まらず、思いを込めた自らの言葉を発信。「感染者数に一喜一憂しないでください。この数字は2週間前の結果です。私たちは2週間後の未来は変えることができます」「命より大切な食事会やパーティーはありません」「たくさんのものを我慢してあきらめる日々を過ごしていますが、他人を思いやる心まで失わないでいることが大切です」などの言葉が人々の心をとらえ、視聴率も連日15%前後をマークしている(世帯、ビデオリサーチ調べ・関東地区)。
このように支持を受けているのは、藤井アナだけではない。『Live News it!』(フジテレビ系)の加藤綾子アナも、「『it』は買いだめをあおりません」と宣言して好意的に受け止められた。また、情報番組でも『ヒルナンデス!』(日テレ系)が毎日13時45分ごろに滝菜月アナと梅澤廉アナが交代で自身の言葉を交えた等身大のメッセージを発信し、視聴者の支持を集めつつある。
なぜ今、アナウンサーたちの言葉が人々の心をとらえているのか。緊急事態だからこそ、彼らのメッセージが届きやすい3つの理由が見えてくる。
■アナウンサーたちの微妙な立ち位置
「緊急時にアナウンサーのメッセージが心をとらえる」ベースとなっているのは、彼らの立ち位置であり、これが1つ目の理由。アナウンサーは多くの人に名前と顔が知られた有名人ながら、タレントではなく会社員であり、通常時は「タレント気取り」「アナウンサーのクセに」などと批判されることが少なくない。そんな「タレント級の有名人だが会社員」という微妙な立ち位置が、緊急時には「みなさんと同じ1人の会社員としてメッセージを伝える」ことにつながっている。
たとえば、藤井アナと同じメッセージを『バイキング』(フジ系)の坂上忍や『スッキリ』(日テレ系)の加藤浩次などのタレントが発信しても、ここまで心をとらえることはなかったのではないか。緊急時のアナウンサーに求められるのは、人々に寄り添う等身大のコメントであり、それが今、それが各局のアナウンサーに試されているのかもしれない。
1つ象徴的な例を挙げると、人の少なくなった繁華街を映したときのコメントが分かりやすい。多くの番組は「いつもとはまったく違う風景です」と異例さを口にしてばかりだが、藤井アナは「ありがとうございます」と外出自粛中の人々に感謝の言葉を発していた。
外出自粛を伝える客観的な立場ではなく、人々と同じ目線から感謝を伝える主観的な立場であり、「仕事とはいえ自分は外出して申し訳ありません」という思いも伝わってくる。常に自分事として考え、しかも「私」ではなく「私たち」という意識で話していることが人々に伝わっているのだろう。
■生放送の帯番組だけが持つ強み
緊急時にアナウンサーのメッセージが心をとらえる2つ目の理由は、生放送の帯番組が持つメッセージ性の強さ。「一発勝負で撮り直しが効かない」という生放送の緊張感は視聴者も分かっている。だからこそ、普段は決して言わないメッセージを自分の言葉で話そうとするアナウンサーたちの懸命な姿は、それだけで惹き付けられてしまう。
もともとアナウンサーは、研修のときから正確な言葉づかいとイントネーションを徹底して教え込まれ、それは入社後も撮影現場で変わらず延々と続いていく。その正確な言葉づかいやイントネーションに、時折感情を込めたフレーズを織り交ぜることで、ビジネスシーンにおけるハイレベルなプレゼンのような臨場感あふれるメッセージとなる。
実際に、藤井アナのメッセージでは、医療や宅配の現場で懸命に働く人、真面目に外出自粛している人、今もウイルスと闘っている人の姿を視聴者にイメージさせた上でねぎらい、いたわっているし、そうでない人も決して批判しない。北風ではなく太陽のような言葉をかけ続けることで、さまざまな人々に対応したメッセージになっている。
さらに、毎日同じ言葉を話さず、自分の言葉で少しずつメッセージの内容を変えていることも大きい。「昨日は伝わらなかった人にも今日は伝わるかもしれない」という真摯(しんし)な思いを感じさせるとともに、帯番組らしくそれを継続することの強さを感じさせている。