日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’20』(毎週日曜24:55~)では、JR福知山線脱線事故の遺族とJR西日本の職員を取材した『兄ちゃんのために ―JR脱線事故15年 鉄路の安全を求めて―』(読売テレビ制作)を、26日に放送する。
普段と変わらない朝の通勤電車で起きた、突然の事故…乗客106人の命を奪ったJR福知山線脱線衝突事故から、25日で15年がたった。被害者も加害企業も、そして現場も大きく変わっている。電車が衝突したマンションは一部が解体され、追悼施設「祈りの杜」が完成。建物は大きな屋根で覆われ、一見すると、悲惨な事故が起きた場所とは思えない姿に変貌してしまった。
運転士は死亡し、業務上過失致死傷の罪に問われたJR西日本の歴代4社長の刑事裁判はいずれも無罪が確定。106人も死亡しながら刑事責任は誰も問われていないこの事故は、社会に一体、何を残したのか。番組では、今改めて問い直す。
事故の犠牲者の1人である上田昌毅さん(当時18)の父・弘志さん(65)と弟・篤史さん(30)は今も、葛藤を抱えながら生きている。昌毅さんは、入学したばかりの大学に通うため、05年4月25日の朝、電車の2両目に乗って事故に巻き込まれた。弘志さんにとって現場は、息子が最期を迎えた「第二のお墓」のような場所。現場のマンションの解体工事が進む中、「今すぐにでも工事を止めさせたい」という気持ちでカメラを片手に工事の様子を記録し続けた。
一方の篤史さんは、兄を失った経験から、「命の瀬戸際にある人を1人でも多く救いたい」と看護師を志し、2012年から神戸市内の病院に就職。19年4月から救急救命病棟に配属され、大規模災害で負傷者らの治療に当たる災害派遣医療チーム(DMAT)の隊員の1人になった。生死の狭間をさまよう患者に相対する日々で、仕事をしながらも兄のことが頭をよぎる。
事故の後、専門家により指摘された運転士に対する懲罰的な「日勤教育」や、民営化により利益を優先した安全軽視の隠ぺい体質が明らかになったJR西日本は、08年に「安全基本計画」を策定し「何か異常があれば、すぐに電車を止める」という安全最優先の方針を掲げている。また、被害者遺族と加害企業ともに検証活動を進め、16年から、鉄道事業者としては初めて外部監査の目を入れ、ヒューマンエラーを「懲戒処分」の対象から外すなど、かつての企業体質からの脱却を目指している。
その一方で、17年に新幹線で台車が破断寸前になるまで運転を続けるという、あわや大惨事となるような問題も発生。改革はまだ道半ばともいえる。
JRの運転士を長年務め、7月に定年を迎える青木達夫さん(60)は、すでに運転士の一線からは退いたが、現役運転士と情報を共有しながら「生まれ変わったJRが西日本」を願う1人だ。青木さんは、懲罰はなくなったとしても、ダイヤ遅延に対する現場運転士へのプレッシャーは今なお残っていると、懸念を隠せない。
「安全最優先」を掲げるJRが西日本は、企業風土を変えられたのか。事故を風化させまいともがき続ける遺族とJR西日本の職員それぞれの姿を通じて「平成時代最悪の鉄道事故」が残した教訓を伝える。