4月24日といえば、新しいiPhone SEの発売日。ですが、初代Apple Watch発売から5周年の日でもあります。新顔のプロダクトだと思っていたのにもう5年も経つことに驚くと同時に、すでに日常生活に馴染みすぎていて、もっと昔から付き合っているような気持ちになるのが不思議です。
筆者は仕事柄、比較的積極的にApple Watchを活用してきた方だとは思います。でも、もしかしたら今が一番Apple Watchの存在に日常を助けられているかもしれません。
ルーティーンの力
昨今、リモートワークを導入する企業が増えたことで、初めて「自宅が職場」になった方も多いでしょう。SNSや個人メディア系サイトなどでは、リモートワーク初心者向けに様々なハウツーやアドバイスが提供されています。リモートワークベテラン勢によると、自宅作業のポイントは自分なりのルーティーンを持つことだという意見が多いようです。
かく言う筆者もフリーランスのライターとして10年以上「自宅が職場」な状況で生活してきたわけですが、実は自分にはルーティーンを確立できないのではないかと、ずっと思っていました。
まず、仕事量が変動しやすく労働時間が安定しません。また、1つの仕事にかかる時間が全く違い、その大半が作業時間なこともあれば悩む時間なこともあります。一人暮らしなので掃除・洗濯・買い物・自炊などの家事、保険・年金・税金その他金融関係の手続きなど、仕事以外の用事もカバーしなくては健康で文化的な生活を維持できません。ついでに趣味も多くて、それらもまあまあ手間と時間がかかります。
5年前、そこに加わったのが「Apple Watchを使う」というミッションでした。
デバイスは増えたけれど
iPhone関係の記事をよく書いていた関係上、避ける理由はないだろうと、初代Apple Watch発売時に予約購入。実際に使用して、ハウツーや活用法などの記事を書くようになりました。
そこで必要になったのが「アクティビティ」や「ワークアウト」のデータです。操作方法を説明する図版を作るにしても、データが空っぽでは説明になりません。使用感のテストも兼ねて、ウォーキングを始めることにしました。
ワークアウトは、ランニングやウォーキングなど種目を選んで運動を行い、継続時間や速度、心拍数、消費カロリーなどを計測するアプリです。アクティビティは装着してから外すまでの活動量全般を計測するアプリで、3つの項目(消費カロリー/早歩き以上の強度の運動時間/1時間に1分以上立ち歩いた回数)について、目標値に対する達成度を3色のリングの形で表示します。
それ以前は「Nike Run Club」などiPhone用の運動計測系アプリを使用し、それなりに継続もしていましたが、iPhoneの大型化が進む中、ポケットに入れてワークアウトしづらい状況が生じていました。今後さらに大型化・高機能化へと進まざるを得ないiPhoneに対して、Apple WatchはiPhoneの情報へ手軽にアクセスする"窓口"になる。おそらくそのような位置づけの製品だろうと捉えていました。
アクティビティの「手段」化
その予想は半分当たり、半分外れていました。iPhoneとApple Watchの連携は、カレンダーやリマインダーなど様々なアプリをより実用的な方法で活用し、同時に余計な通知に気を散らさなくて済む環境を作ってくれました。iPhoneの窓口である以上に、デバイスをまたいでAppleのサービスをより生活に入り込ませる新たなルートになったという方が正しいかもしれません。
予想できていなかったのは、長期的な使用による生活習慣への影響です。先に述べた通り、仕事の量や趣味や雑用に振り回され、なかなかルーティーンを確立できない生活の中、「アクティビティリングを完成させる」ことが一つ確定した毎日の目標になりました。
昼まで寝ていた日も、1日14時間仕事をした日も、リングが完成すれば一定程度は活動したことがわかります。逆に言えば、今日はあとどれだけ活動するべきかが常時視覚化されているわけです。何をどこまでやればいいのか見通せないときは、どれだけ頑張っても不安になります。しかし「やるべきこと」と「その達成度」がわかると、人は行動を具体化できるのです。
筆者の場合、朝ウォーキングをするとリングを完成しやすいことがわかり、継続して行うようになりました。ついでに、午前中の仕事効率が上がるという副作用もありました。そして徐々に、アクティビティの完成が「目的」ではなく、調子をキープして毎日を過ごすための「手段」になっていったのです。
手段からルーティーンへ
仕事の変動が大きくても、生活習慣の土台をキープできている事実は、精神的に安定をもたらしてくれました。もちろんリングを完成できない日もありますが、できていない度合いが把握できることも大切です。ただ感覚的に「なんか毎日ダラダラしてる」と感じているだけでは、「正しい生活ができない」「自分はダメなヤツ」とマイナス方向に思考が暴走しがちです。何がどの程度足りなかったのかを認識することで、その他の部分まで否定せずに済み、日付が変われば過去を引きずらずにリスタートできます。
実際、筆者は現在もあまり規則正しい生活はできていません。しかし、自分なりに仕事と生活を守る程度には調子をキープできるようにはなったと思います。そしてこの1ヶ月、それを実感することになったのです。
3月中旬を最後に移動を伴う仕事はなくなり、緊急事態宣言の出た4月上旬からは私用で出かけることもなく自宅で過ごす生活になりました。「屋外での運動・散歩」は自粛要請に含まれていないため、辛うじて朝のウォーキングは継続。足りない分は室内で筋トレやストレッチをしたり、週2回程度の買い物は徒歩で行くなどして、活動量を補填しています。おかげで、朝起きて、歩いて、午前中から仕事をする形で、一応の"日常"を維持できています。思いがけず、ある程度ルーティーンが身についていたことに気付きました。
リングを完成できない日が多いのですが、それでも日々7〜8割程度は達成できているとわかると、まあ悪くないのではないかと思えます。生活習慣の土台を数字で築けていたことが幸いであったと、改めて感じます。
機能・便利さと「価値」
Apple Watchには仕事や生活に役立つ機能がたくさん搭載されています。例えば「通知」や「コンプリケーション」をうまく使えばiPhoneを手に取らずに大事な情報をチェックできたり、「LINE」や「メッセージ」にその場で返信できたり、マスクをしたままでもApple Pay払いができたりします。過去の記事でもいろいろとご紹介してきました。
ただ、今回は機能紹介では説明しづらい、「便利さ」とは違った部分で生活を変えるということについて、5年間を振り返ってみました。クルマや家電がそうであるように、道具は人の生活を変える力があります。それは道具の「価値」と言われます。少し気付くのが遅くなりましたが、Apple Watchも確実に生活を変えた道具の一つでした。その変化は緩やかで、現在進行形です。