新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で、SNS上では、自宅でいかに楽しく過ごすかの「#おうち時間」や、新ドラマの放送延期を受けて様々な過去作が再放送されることで「#再放送希望」というハッシュタグが流行中だ。

そこで、テレビドラマの脚本家や監督などの制作スタッフに精通する「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、外出することを忘れるほど熱中してしまうおすすめのテレビドラマや、再放送してほしい思い出深い作品を紹介する。

今回は、『あなたの番です』や『テセウスの船』など、最近注目を集めている“ミステリー作品”。物語に仕掛けられた謎を、長い時間をかけて視聴者の“考察”と共にひも解いていけるのが、連続ドラマならでは楽しみ方だろう。20年以上前にも、視聴者を“考察”で熱狂させた作品があった――。

■衝撃的展開…安田成美『この愛に生きて』

安田成美

連ドラにおいてミステリーの先駆者と言えるのが、04年に急逝した脚本家・野沢尚氏だろう。90年代後半にミステリー作家としても活躍する野沢氏だが、連ドラ作品で早くもその片りんを見せているのが、安田成美主演『この愛に生きて』(94年、フジ)だ。

この作品は、平凡な主婦が夫の不倫をきっかけに売春の世界へと足を踏み入れ、そこで運命の男性と出会う…という一見ドロドロとした不倫ドラマのようにも思えるが、見どころは中盤以降のミステリー展開にある。平凡な主婦が夫とは違う男性との純愛を手に入れてしまった代償として、子供が誘拐され、殺人事件に発展し、その犯人は身近な人物だった…という衝撃的な展開を見せるのだ。

不倫ドラマから真犯人を見つけ出すミステリーへと転じる仰天の構成だが、「子供だけでつながっていた夫婦から、その子供を奪ってしまったら…」というテーマが内包されているため唐突感はなく、真犯人の動機も物語に大きく関わっており、そのミステリー要素こそがこの作品になくてはならない重要なエッセンスとなっている。

また、通常のミステリードラマでは味わえない、真犯人が判明した後に起こる物語も後半で丁寧に描いていくため、深く濃密な人間ドラマとしても楽しめる作品に仕上がっている。

今では考えられない重たい内容のドラマだが、映像化はVHS版しか存在しておらず、配信もされていないので、連ドラミステリーが流行中の今こそ再放送して、知らない世代にもぜひ見てもらいたい作品だ。

■見劣りしない映像美…中山美穂&木村拓哉『眠れる森』

中山美穂

野沢氏が『この愛に生きて』から4年後、より“犯人は誰なのか?”に焦点を当て、「初めて連続ドラマで1本のミステリー作品を成功させた」と言われているのが、中山美穂&木村拓哉W主演『眠れる森』(98年、フジ)。

初回の冒頭に提示される15年前に起きた“市議会議員一家惨殺事件”の犯人が、最終回の第12話で判明するという本格的ミステリー作品で、正月に放送されたスペシャルドラマ『教場』でも木村拓哉とタッグを組んだ中江功監督が演出を務め、20年以上も前の作品ながら今でも見劣りしない映像美が堪能できる。

また、撮影前に最後までプロットができ上がっていたこともあって、主題歌の歌詞やオープニングのタイトルバックの映像にも謎解きのヒントが散りばめられており、ドラマのパッケージングにまでミステリーが施されているという全体的に完成度の高い作品となっている。

未見の人は、主人公の“忘れていた記憶”が謎の鍵を握っているので、それが思い出されるたびに主人公と共に時間旅行をしているような感覚になれるだろう。

一方、当時の視聴者で犯人や謎を知っている人でも、物語に隠されたヒントに注目したり、出演者たちが先を見越した演技をしているので、さらに深みを増して見ることができるだろう。この作品もVHS・DVD化のみで配信がされていないため、ぜひ再放送してもらいたい作品だ。

■ネット上で賛否…竹野内豊&松嶋菜々子『氷の世界』

竹野内豊(左)と松嶋菜々子

『眠れる森』は、中盤以降で多くの視聴者が犯人を予測できる作りになっているが、それを踏まえて、野沢氏が最終回まで犯人が分からないミステリーに挑戦したのが、翌年の竹野内豊&松嶋菜々子W主演『氷の世界』(99年、フジ)だ。

保険調査員の男と、保険金絡みで浮上した謎の女をめぐるミステリーで、ファンタジックで寓話のようだった『眠れる森』とは異なり、ダークで大人びた世界観で構築されている。ただこの作品は、最終回で判明する犯人が意外すぎる人物だったため、当時ネット上で賛否を巻き起こした。

どのように謎を配置すれば、視聴者の興味と緊張感を保つことができ、どのように伏線を張れば意外な犯人でも視聴者は納得できるのか。『眠れる森』と『氷の世界』の両作を見比べるのも、違う目線からの“考察”になるのではないだろうか。この作品はFODで配信されているので、すぐにでもチェックできる。

余談だが、野沢氏はこの作品でネット上の大変なバッシングを経験したことから、翌年に夏川結衣主演『ネットバイオレンス~名も知らぬ人々からの暴力~』(00年、NHK)という単発ドラマを発表している。作家の視点からドラマ選びをしていくのも面白いのでは。