女優の吉岡里帆が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。今回読んだのは、パチスロとギャラ飲みで生計を立てるお笑い芸人に密着した『52歳でクビになりました。~クズ芸人の生きる道~』(19日放送)だ。
下積み時代は演劇の勉強のためにアルバイトを掛け持ちするなど、努力家で知られる吉岡の目に、“クズ芸人”はどのように映ったのか。収録後に直撃した――。
■強く感じた“自分を許す力”
今回の主人公は、毎日パチスロにあけくれ、「仕事」と称して“ギャラ飲み”で生活する芸人・小堀敏夫(52)。貯金ゼロ、家賃2万8千円のアパートはガスが止められ、スーパーで割引になったとんかつ弁当と一緒にカップヌードルを食べる…という暮らしにもかかわらず、芸人として何一つ努力をせず、ついに所属するワハハ本舗をクビになってしまう。
大ピンチに追い込まれるが、全く落ち込む様子がない小堀。そんな姿を見て、吉岡は「底抜けた明るさというか、“自分を許す力”の強さをすごく感じました。だから、ナレーションを読んでいても重くなりすぎず、むしろその明るさを見ていたら、笑って顔がほころんでしまう感覚になるドキュメンタリーでした」と感想を語る。
それでも、収録では吹き出してしまうことなく読み切り、プロ意識をのぞかせた。「『ザ・ノンフィクション』は、密着を受けている方にパワーがあって、どの人生もすごく濃厚なので、ナレーションはあまり感情移入せず、色がないほうがいいと思ってるんです。遠いところから見させてもらってるような感覚で、冷静な気持ちで読んでいました(笑)」。
普段、演技で見る吉岡よりも、ナレーションのトーンは落ち着いており、「ちょっと声を低くするように意識しています。長時間しゃべらせていただくので、視聴者の方も、そのほうが聴きやすいかなと思って」と、工夫したそうだ。
■52歳の大人を“クズ芸人”と呼ぶのは…
番組では、老舗お笑い劇団「ワハハ本舗」の様子を通じて、芸人たちの世界も垣間見えるが、「(主宰の)喰始(たべ・はじめ)さんの存在感がすごく素敵だなと思いました。小堀さんに対してだけじゃなく、長い間一緒にやってきた芸人さんの面白さをずっと愛して、少しでも良くなるようにアイデアを出してらっしゃって。ああいう方が見守ってくれるのは、大きいですよね」と感心する。
それでも小堀は、そんな喰のダメ出しにいつも言い訳ばかり。「せっかく師匠がアドバイスをくれたのに否定してしまう感じを見ると、『もう、なんでそうなるのー?』と言いたくなります(笑)」というが、「でも、ああやって憎まれ口をたたくのも、喰さんと長いこと一緒にやってきた関係性を感じましたし、きっとそういうことを言っても許してくれる親みたいな存在なんでしょうね。ちょっと甘えん坊なのかな…と感じられる、今回の中でも好きなシーンでした」と振り返った。
喰はいつまでも仏ではなく、ついに小堀にクビを言い渡す場面が待っているが、「そうなっても『クビのほうがいいですよ』とか、やっぱり切り返しが面白くて(笑)。その沈みきらない感じが、小堀さんの魅力だなと思いました」。
それだけに、52歳の年上の大人を、あくまでナレーションではあるものの、「クズ芸人」と呼ぶのは「ちょっと心が痛かったです」と漏らす。ただ、「この作品においては“クズ芸人”っていうのは愛情を込めた言葉だと思うんです。たぶん喰さんも嫌な意味ではなくて、その個性が愛おしいという気持ちが入ってそう呼んでいると思うので、私も気持ちを込めて、恐縮しながら言わせていただきました」と気持ちを切り替えたようだ。
努力家の吉岡と小堀は正反対の人間に見えるが、「お客さんにウケたときに褒められても、『お客さんがいいからさ』って、自分が頑張ったからだと思えない感覚は、分かるなあと思って見てました」と、意外な共感点が。
一方で、全く共感できない点を尋ねると、「ズル休みは絶対ダメ(笑)。休む連絡の文面が軽くて、逆にすごいなと思いました」とあきれていた。
■「生き方の方向転換」を教えてくれる番組
『ザ・ノンフィクション』のナレーションは、『娘がシングルマザーになりまして… ~29歳の出張料理人 彩乃~』(19年11月24日放送)以来2回目となるが、番組への印象を「知らなかった人たちと、会わせてくれる番組。そして、生き方の方向転換の仕方を教えてくれる番組というイメージがあります」と表現。
今回についても、「生活はギリギリでも、芸人が好きでずっと一緒に喰さんとやってきたのに、クビになったらすごく悲しくなるはずなんですけど、それも面白いことという感じにしちゃう小堀さんのパワーに元気づけられました。その後の方向転換も、舵の切り方が本当にさすがです。もし、自分がピンチになったり、どうしたらいいか分からないと悩んだりしたときに、ちょっと思い出しちゃいそうですね。あの空気の持っていき方は、人生において大事なことだと思いました」と学びがあったようだ。
新型コロナウイルスの感染拡大で、自粛生活が続く状況だが、“クズ芸人”の超楽天的な生き方が、沈みがちになっている心を癒やしてくれることも、もしかしたらあるのかもしれない。
●吉岡里帆
1993年生まれ、京都府出身。16年、朝ドラ『あさが来た』にヒロインの親友役で出演したことで注目を集め、『ゆとりですがなにか』『カルテット』『きみが心に棲みついた』『健康で文化的な最低限度の生活』などのドラマ、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』『パラレルワールド・ラブストーリー』『見えない目撃者』などの映画に出演。