Appleは米国時間4月15日、第2世代となるiPhone SEを発表した。iPhoneの発表はイベント開催を伴うことが常だったが、今回はウェブでの発表となった。

  • 第2世代となるiPhone SEが登場。日本では税別44,800円からという意欲的な価格が目を引く

    第2世代となるiPhone SEが登場。日本では税別44,800円からという低価格ながら、意欲的なハイスペックに仕上げられている

まずは、発表されたiPhone SEについて見ていこう。

ハードウェアデザインとしては、iPhone 8とまったく同じだ。4.7インチで高色域表示に対応するRetina HDディスプレイ、指紋センサーTouch ID内蔵のホームボタン、前面と背面に1つずつのカメラという構成だ。サイズなどはiPhone 8から変わらないため、純正も含めてケースはiPhone 8のものがそのまま流用できる。

細かく見ると、ディスプレイから感圧センサーは省かれ、長押しを認識する感触タッチへ変更された。また、背面からは「iPhone」などの文字が取り除かれ、ガラス面にAppleロゴのみとシンプル化されている。

  • サイズ感はiPhone 8とまったく同じ。背面に「iPhone」のロゴがないのは、最新のiPhone 11シリーズと同じデザイントレンドだ

ミドルレンジで圧勝を狙うA13 Bionicの採用

内蔵されるテクノロジーとしての注目は、iPhone 11と同じA13 Bionicプロセッサだ。先代iPhone SEと比べて、パフォーマンスは2.4倍、グラフィックスは4倍。iPhone 8と比べても、それぞれ1.8倍と2倍に達する。

それ以上に、ISP(Image Signal Processor)の進化や機械学習処理を担う8コアのニューラルエンジンが備わることで、ARや機械学習を活用するアプリを快適に実行できるようになる。

399ドル(日本では税別44,800円)から販売されるiPhone SEにA13 Bionicを採用することは予想できたが、実際に実現してきたインパクトは非常に大きいとみるべきだ。スマートフォン市場を劇的に変化させる可能性があるからだ。

AppleはAシリーズのチップを自社開発し、iPhoneとiPad、その他の製品のみに活用している。外販はしていないため、ローエンドのiPhone SEにハイエンドと同等のA13 Bionicを入れることができてしまう。

多くのAndroidスマホメーカーのように、チップを外部から調達している場合、低価格帯の製品には安いチップやカメラを利用しなければならない。それでも、薄利多売で利益を上げることに苦しんできた現状があった。つまり、競合となるAndroid勢には絶対にできないことをAppleは実現してきたことになる。

もちろん、パフォーマンスだけがスマートフォンの競争ではない。価格、カメラ、体験、アプリ、ブランドなど、善し悪しを決める視点はたくさんある。その中で「ミドルレンジ」という価格を固定して考えると、他のいずれの要素でもAppleは善戦以上の結果となる。控えめに見ても、“iPhone SEに敵なし”と評価すべきだ。

スマートフォン体験の基準を引き上げる

AppleがiPhone SEにA13 Bionicを導入したことは、ユーザー体験にも反映されていく。

例えばカメラは、iPhone SEのみで実現している「A13 Bionic」と「シングルカメラ」の組み合わせのためにソフトウェアが最適化され、前後のカメラでのポートレートモードの実現や、iPhone 11で実現した高度なシーン分析による写真の最適化により、上位モデルに遜色ないクオリティとなるだろう。

また、低価格iPhoneにニューラルエンジンが初めて搭載されることで、ARや機械学習アプリをより高度化できる。

iPhone 6/6sや初代iPhone SE、iPhone 7からの乗り換え需要を見込んでいる場合、プロセッサ性能とカメラ性能の向上は、iPhoneのカメラの品質の高さ、AR体験、機械学習による賢さといった、現在のスマートフォンのトピックとなっているテーマの基準をぐっと引き上げることになる。

例えば、写真を撮ってもビデオを撮っても、これまでより美しく記録され、自分のカメラロールを振り返っても満足度が上がる。Instagramの写真はより表現力が高まり、明らかにカメラが変わったと気づかれるはずだ。

開発者にとっては、あらゆるレンジのiPhoneで拡張現実の表現力が高まることで、安心してAR対応アプリの開発に踏み込める。iPhone SEの機械学習処理の賢さは、ローエンドスマートフォンがアプリ開発の足かせにならずに済み、AR対応アプリの増加につながるだろう。

結果的に、第2世代のiPhone SEの投入によって、ハイエンドだけでなく、ローエンド、ミドルレンジの体験の底上げが顕著となり、そうしたユーザーに対するiPhone、あるいはAppleブランドの向上は大いに期待できる。

手に届く価格と驚かされる体験が両立するiPhone SEは、「最新のiPhoneは高いから」と二の足を踏んでいたユーザーに対して大いに訴求することになるだろう。

この状況においてタイムリーな登場とも感じる

現実問題として、新型コロナウイルスによる経済活動の停滞は、長期化すればするほど、人々を節約・倹約へと向かわせる。生活のための資金以外への出費は、しないか、できる限り抑えて、耐えられる時間を引き延ばそうとする。

そうしたマインドが流れる中で、AppleがiPhone SEに最良の体験を詰め込んだことは、もともと計画していたことだとしても、非常にタイムリーな取り組みだ。

また、コロナウイルス対策でマスクをしていると顔認証のFace IDでロック解除できないため、指紋認証のTouch IDを搭載するiPhone SEがよく売れるんじゃないか、というのは冗談ともいえなくなる。

iPhone XRの購入を検討していた人にとって、iPhone SEの登場はいささか悩ましいが、画面サイズだけ目をつむれれば、iPhone SEを選択したほうがよいだろう。価格が安く、性能が良く、マスクに対応できるからだ。