マウスコンピューターのG-Tuneブランド「HL-B」は、ミニタワーサイズのゲーミングPC。NVIDIA GeForce RTX 2070 SUPERとCore i7-9700を搭載し、最新ゲームはもちろん快適だが、特徴はそのサイズ。ハイエンドグラフィックスカードを搭載する「ハイエンドゲーミングデスクトップ」の中でも最小クラスの本体サイズなのだ。
猫1匹分のスペースに置ける高性能パソコン
「ゲーミングPCって大きいんでしょ」と思っている方がほとんどだろ思われる。デスクトップPCにはいろいろとサイズがある。フルタワー、ミドルタワー、マイクロタワー、そしてミニタワー。HL-Bはミニタワーだ。と言ってもPCに詳しくない方にはサイズ感がピンと来ないかもしれない。
ミニタワーはどのくらいのスペースに置けるのか。机の上に置くタイプの製品なので、専有面積が重要だと思われる。スペック上の筐体サイズ(W×D×H)は178×395×298mmだ。高さ298mmに関してはおよそ月刊誌の縦と同じくらいだ。ここはイメージしやすい。一方、専有面積の178×395mmなわけだが、雑誌とは縦横比が異なるので比較が難しい。悩んでいたところうちの猫がHL-Bの横に座った。これが分かりやすいかもしれない。「だいたい猫がおすわりするスペースがあればミニタワーPCが置ける」。
重量に関しては猫とは比較にならなかった。スペック上では約7.4kg。モデルの猫は4kgちょうどなのでHL-Bのほうが2倍近く重い。PCは内部に空間も多いが金属も多用しているので重さは仕方がない。とはいえ7.4kg程度ならデスクトップPCとしては軽い部類。片手でラクラクと持ち上げられてしまうくらいだ。おまけに便利な取っ手も付いている。設置もレイアウト変更もカンタンだ。
ゲーミングPCと言えば独特のイカつい姿をイメージしてしまうかもしれないが、G-Tuneブランドのオリジナル筐体はそうした路線ではない。HL-BもスタンダードなPCに近い外観だ。多少ゲーミングらしいところを挙げればアークを描くフロントとトップ、赤いライン状のフロントパワーLEDあたりだろうか。しかしこのくらいはスタンダードデスクトップにも見られる意匠。マットブラックのカラーリングも、ビジネスPCでもよく採用されている。机の上に置いたとき、周囲との調和を乱さない。だから用途をゲーミングに限定する必要はない。幅広く、高性能PCとして利用できる。
前面から見て右手、フロントパネルと筐体の「隙間」部分には前面インターフェースがある。ごく一般的な電源、USB Type-A、オーディオ入出力のみで必要最小限だ。ただしUSB Type-Cはないのでそこが心残り。次期デザインでの実装を期待したい。
左右側面はメッシュパネル。HL-Bは高性能パーツを搭載する一方、小型であるため内部が密で、より大型のPCと比べるとエアフローが難しい。メッシュパネルは冷却の面で役割を果たす。しばらく様子を見たところ、どちらも吸気口としてきちんと機能しているようだ。
メインの吸気は底面だ。この部分には着脱式のフィルタが装着されている。ちょうどグラフィックスカードのファンの直下でその冷却に有効に働く。ただし先のとおり両側面からも吸気を行なっており、そちらはフィルタがないので細かなチリは吸い込んでしまう。その意味もHL-Bは床置きよりも机の上のほうがマッチしている。
背面は普通のデスクトップPCよりもスッキリしている。それは拡張スロットが2段しかないこともあるが、ATX電源のスペースがないこともある。……と言ってHL-Bは特殊な電源を使っているわけではない。一般的なATX電源だが、筐体の奥に搭載されているのだ。
小さくてもメンテナンス良好、アップグレードも安心
側板は背面のネジ二つで簡単に取り外すことができる。右側面版の内部はマザーボード裏なので清掃のときに着脱すればよい。内部へのアクセスは主に左側面からだ。左側板を開くとまずストレージトレイがある。固定方法はネジ三つ。ストレージベイは3.5インチ×1、2.5インチ×2だ。標準構成ではここは使用されていない空き状態。購入時のBTOオプションで3.5インチHDDや2.5インチSSD×1基を追加することができる。また、その横のスペースは12cm角ファンを搭載するためのもの。BTOオプションにもないので基本的にユーザーが必要に応じて追加すればよい。
内部はミニタワーなりに高密度だがブロックごとに分かれているので雑多な印象はない。おおまかに、マザーボード、グラフィックスカード、電源という三つのブロックで構成されている。先ほど背面のところで触れたATX電源の搭載位置は前方の上寄りということになる。搭載されている電源の奥行きは約14cmなので一般的なATX電源と比べるとやや奥行きが短いモデルだ。ここは筐体サイズに合わせた仕様ということになる。
グラフィックスカードの取り外しは一般的なPCと同じ。そしてグラフィックスカードを取り外してしまえばマザーボード上のSSDやメモリといったパーツのメンテナンスができる。全体的にメンテナンスはそれほど難易度が高くはない。指が太めの男性でもそれほど困らないだろう。ただし、電源は取り外しが難しいように見えた。
「本当に必要なスペック」で厳選された高性能パーツ
マザーボードはMini-ITX規格の小型のもの。このマザーボードの選択もHL-Bの特徴の一つと言える。ハイエンドなゲーミングPCでは、マザーボードのチップセットもハイエンドのIntel Z390を選ぶのが定石だが、HL-BはミドルレンジのB360チップセットを採用している。
Z390のアドバンテージはまずオーバークロック機能(OC)。しかしそれは十分な冷却のできる大型筐体を使って、さらに専用設計された特殊な電源回路を載せたマザーボードでやってこそのものだ。ミニタワーでMini-ITXマザーボードのHL-Bにはそぐわない。Z390のマルチGPU対応についても、グラフィックスカード1枚を搭載するスペースしかないHL-Bでは不要となる。
Z390 | H370 | B360 | |
---|---|---|---|
オーバークロック機能 | ○ | × | × |
マルチGPUのサポート | ○ | × | × |
チップセット側PCIeレーン数 | 24 | 20 | 12 |
USB 3.2 Gen2ポート | 6 | 4 | 4 |
USB 3.2 Gen1ポート | 10 | 8 | 6 |
RAID機能 | ○ | ○ | × |
Serial ATA 3.0ポート | 6 | 6 | 6 |
一方、B360はCPUを定格運用するという条件であれば必要十分なスペックなのだ。過剰となる機能を削ぎ落とした分コストを抑えられる。ただでさえ小型のMini-ITXマザーボードは設計難易度や部品選択などの都合で通常のATXマザーボードよりも割高になる傾向だ。HL-BはMini-ITX採用モデルながらB360を採用することでコストをうまく抑えている。
CPUはIntel Core i7-9700。G-TuneはBTOが特徴だが、このモデルはCPUが固定でカスタマイズできない。同じ筐体でCore i5を搭載するモデルが別に用意されているので、どうしてもという場合はそちらを選ぼう。このCore i7-9700は8コア8スレッド対応のCPUで、動作クロックは定格3GHz、Turbo Boost時で最大4.7GHzといったスペックだ。現在は上位に8コア16スレッドのCore i9があるものの、8コア8スレッドのCore i7のパフォーマンスも十分に強力。最近のゲームタイトルは多くが4コア以上を要求しており、ビジネスアプリケーションでもマルチスレッド化が進む現在、このコア数は多くの場面で快適さに貢献する。
メモリは標準で16GB。もはや8GBという選択肢はカスタマイズにも用意されておらず、逆に32GBという選択肢は用意されている。標準構成はDDR4-2400で、これはCPUがサポートするDDR4-2666よりも一段クロックが低いものだが、コスト的には割安だ。DDR4-2666のほうが速いことは間違いないが、別途グラフィックスカードを搭載している本製品の場合、ゲームなどではそちらのグラフィックスメモリを使用できるので、性能への影響は小さいと見たのだろう。最大の性能を求める方はBTOカスタマイズでDDR4-2666を選べばよい。
グラフィックスカードのGPUはハイエンドクラスのNVIDIA GeForce RTX 2070 SUPER。BTOオプションで上位のRTX 2080 SUPERに変更することも可能だ。クーラーデザインはリファレンス準拠のもので、ファンから吸い込んだ空気が背面ブラケット側から排気される。ヒートシンク部分を抜けた温まった空気がストレートに外部へ排気されるので、HL-Bのように小型で熱のこもりやすいケースでも温度管理がしやすい。
ストレージはSSDで、容量については最低限と言える256GB。しかしM.2でPCI Express接続、NVMe対応のものなので速度性能は高く、価格のバランスを重視した結果のチョイスだろう。とはいえ十分な容量ではないという方もいるだろうから、ここは必要に応じてBTOカスタマイズしたいところだ。とくにHL-Bのメインであるゲームでは、昨今、インストールデータの大容量化が進んでおり、100GBを超えるタイトルも増えている。
ほか、電源は最大出力が700W、変換効率で80PLUS Bronze認証のものを標準搭載。変換効率にこだわる方は同じ700Wの80PLUS Gold認証モデルへのアップグレードオプションも検討してみるとよいだろう。また、標準構成では光学ドライブを搭載していないが、カスタマイズで選択可能だ。それもUSB外付けのものではなく、筐体に内蔵可能なドライブだ。光学ドライブが必須という方は検討してみるとよいだろう。