2018年7月に健康増進法の一部を改正する法律が成立し、今年4月1日より全面施行されたことで、さまざまな条件を満たした喫煙専用室を除く屋内喫煙は原則禁止となった。この改正法による分煙義務化を受けて、完全禁煙の屋内施設がすっかり増えたいま、飲食店ではどのような変化が起きたのか。
今回は改正法施行に合わせて、喫煙専用室の設置などの分煙化を積極的に実施してきた串かつ居酒屋「串かつ でんがな」を取材。具体的な対応の中身などについて、同店を運営するフォーシーズの料飲業態 統括管理部長・小松正和氏にうかがった。
昼休みは神田で働く喫煙者たちのオアシスに? 非喫煙者からもポジティブな声
1年ほど前から助成金の申請などの準備を行なってきたという「串かつ でんがな」。同社の小松氏は完全禁煙を決断する飲み屋も多い中で、分煙化に取り組んできた背景を語った。
「お店の立地などによって変わりますが、もともと『串かつ でんがな』は比較的サラリーマン・OLのお客様が多く、ある程度、年齢が上の方が主な客層です。お店での喫煙率などを調べたデータはありませんが、タバコを吸われるお客様もそれなりに多い印象で、我々としては分煙化を推進させていく方針をとることになりました。しっかり法令を遵守した安心・安全なお店づくりで、喫煙者・非喫煙者に関わらず、これまでご利用いただいてきた全てのお客様にご満足いただきたい、というのが基本的な考え方です」
1都3県を中心に展開する「串かつ でんがな」は現在、全84店舗のうち約半分の店舗に喫煙室を導入している。
取材班が今回訪れた「串かつ でんがな 神田西口店」もそんな店舗のひとつで、お店の入り口側のスペースを禁煙席とし、奥に仕切りのある空間を設けて加熱式タバコを吸えるテーブル席を配置。そのすぐ傍に紙巻きタバコを吸うための完全個室の喫煙室を設置する。トイレに行く導線なども含め、徹底的にタバコの煙に配慮した設計がなされている。
「禁煙席と喫煙室のみの店舗は加熱式タバコの方も喫煙室で吸ってもらうかたちですが、このように食事をしながら加熱式タバコを吸える店舗もあります。完全禁煙の店舗も半分ほど存在しますが、店舗の入る施設自体が禁煙という場合や建物の設備などの条件的に、そもそも分煙化できない店舗がほとんどです。なので、これから分煙対応した店舗の割合が急激に増えることは考えにくいんですが、今後も、新店オープンの際は施設や建物の条件をみつつ、可能な限り分煙できるお店を出店していきたいと考えています」
今年4月22日にオープン予定の浜松町ハマサイト店も紙巻タバコの喫煙室と加熱式タバコ、禁煙席に分かれたタイプの店舗とのことで、そんな出店の方針からも分煙化に対する本気度が窺える。
分煙化のための改装には数百万単位の費用がかかるが、「串かつ でんがな」ではJTの分煙コンサルタントとチームを組み、店舗ごとに法律に則ったかたちの分煙が可能か否かを判断しながら、対応を進めてきたそうだ。
「一番は風速の問題です。非喫煙の場所から喫煙室へ向かう0.2m/s 以上の空気の流れをつくり出すなど、タバコの煙が外に漏れないようにするための厳しい規定に沿って設計しています。喫煙室と加熱式タバコの席で別々に排気のダクトをつくる必要などもありますが、建物によっては「ダクトを通せない」「他のテナントさんを通さないとできない」など、設備の導入にはいろいろな条件がありました。都の助成金などもあるとはいえ、法令を遵守した設計にするには広さや設備などクリアするべき条件も多くあるので対応が難しい点もあるかと思います」
タバコが吸えないことで足が遠のくお客様をつくらない
新型コロナウイルスの影響で、施行前後の売上などに関する変化については正確にコメントできないものの、こちらの店舗では平日の昼休み時などに決まって利用してくれる愛煙家もいるだけでなく、さらに非喫煙者のお客さんからの反応も上々だという。
「こちらの店舗ではランチ時間帯などに「このお店、吸える?」と確認した上で、サラリーマンの方がグループで来店されることも多いそうで。「(職場の)近くに吸えるところがあってよかったよ」と直接伝えて頂いたこともあるようです。一方でタバコの臭いが苦手というお客様からも「しっかりと分煙ができているのでこのお店なら大丈夫」という声がありました。タバコを吸う方からも吸わない方からもポジティブな声が多く、当初の狙い通り、幅広い方に足を運んでもらえるようなお店になったと思います」
あくまでも「改正法の施行を機に、足が遠のくお客様をつくらない」という方針のもと、推進されてきた同社の分煙化の取り組みだが、結果的に家族連れなど新たな層にもアプローチしやすいお店づくりを実現できたことは間違いないだろう。
何かと店選びに困る職場の飲み会など、喫煙者も非喫煙者も楽しめる定番のお店として「串かつ でんがな」は重宝されそうだ。