新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、さまざまな職業が打撃を受けているが、その中でも死活問題に直面しているのが、まだテレビでの活躍が少ない若手のお笑い芸人たちだ。メインの活動の場であるライブが休止を余儀なくされ、アルバイトの仕事もないという状況が続いている。
それでも、いつか来る活動再開に向けて、SNSを使った発信やネタ作りなど、前向きに日々を過ごしているのだという。お笑いコンビ・こじらせハスキーの橋爪ヨウコ(太田プロダクション)に、話を聞いた――。
■舞台に立てない不安
テレビへの露出が少ない若手芸人たちがネタを披露し、芸を磨く場でもあるライブ。この会場はまさに“3密”の典型で、現在は一切開催されていない。
「50人とか100人規模のお客さんの小さなライブは、やらなくてもいいと感じる方も多いと思うんですけど、芸人は舞台に立ってないと、しゃべる間や、頭の回転、瞬発力が衰えてしまうんじゃないかと、すごく不安になるんです。私たちには大事なものなので、『あ、なくなっちゃう…』と思いましたね」と振り返る橋爪。それでも、大阪のライブハウスでクラスターが発生したというニュースを知って、まだライブ開催が続いている状況の中で、いち早く出演自粛を申し出たという。
また、新宿ゴールデン街のバーで一日店主のアルバイトをしていたが、こちらも休止。飲食店が密集するゴールデン街は、1店舗のスペースが狭く、「近い距離で不特定多数の人と会いますし、いろんなお店をハシゴするお客さんも多いので、もし自分が感染してたらうつしちゃダメだと思って、3月半ばにはお休みをいただきました」。
さらに、「お店のお客さんからいろんな情報を聞いて、『新型コロナは思ってた以上に危ないな…』と感じるようになったんです。それも、お笑いライブを早めに休もうと思ったきっかけでした」と明かす。
その後、「人と対面しないアルバイトも探してみたんですけど、不可能でした」と道がふさがれ、「無収入」という現状に。橋爪の場合、家賃は直前に支払いを済ませ、群馬の実家から野菜など食料を送ってもらっているため、なんとかしのいでいる状況とのことだ。
■フリーランス助成金、芸人は…
飲食店のアルバイトは他の業種に比べて時間の融通がきくため、多くの若手芸人がやっていたが、この状況で軒並み収入が絶たれている状況。「もともとお金がないところで無収入になって、生活が厳しいっていう仲間が結構多くて、みんな今焦ってます」という。
政府は、フリーランスへの助成金政策を打ち出しているが、お笑い芸人については「すごく微妙なところなんです。芸人は、月によって収入が全然違ったりするので、『今月はこれだけ仕事をするはずだった』という見込みが分からないんですね。だから、制度の対象になるのか、いろんな芸人と話をするんですけど、『もらえるらしい』と『難しいらしい』という話があって…」と情報が錯綜。「アルバイト先が潰れてしまった人もいるので、収入の証明をもらうにはどうすればいいのか悩んでる人もいます」という問題もある。
■最大の不安は賞レース
芸人仲間とグループLINEなどで互いの状況を確認すると、「実家に帰ったという話は聞かないですし、スーパーに買い物も行かないほど、みんな全然家から出てないです。お金がないというのもありますけど、外出はいけないことだというのを、結構芸人たちは自覚を持っていますね」と、不要不急の移動自粛が意識されているようだ。
そんな芸人たちにとって最も大きな不安は、賞レースのスケジュールだという。『M-1グランプリ』『R-1ぐらんぷり』『キングオブコント』『女芸人No.1決定戦 THE W』という4大大会は、予選やそれに向けたネタ作りの期間を含めると、年間を通して芸人たちのモチベーションになっている。例年では、6月に『キングオブコント』の予選が始まるが、「お客さんじゃなく、(放送)作家さんにネタを見せることになるのか、そもそも開催できるのか…と話しています」と心配の声が高まっている。
「みんな口をそろえて、『芸人を辞めちゃう人が出てきそうだな』と言っています。まだ、実際に辞めたという話は聞いてないですけど、アルバイトもできない状況ですし、それだけ、賞レースは大きい存在なんです」