1987年に『あばれ花組』(『月刊少年ジャンプ』)で連載デビューしたベテラン漫画家・押山雄一氏(@oshiyanyan)。2012年から2014年を除く2019年までに毎年、中国の天津、杭州、上海で漫画セミナーで講師として活動している。
セミナーで教えた基礎講座を詰め込んだ『ヤーシャン漫画セミナー』を3月25日に電子書籍として配信。本著では、初心者向けの技術にも触れつつも、プロ志望者として理解しておきたい要素を描いた、という。
押山氏は、電子書籍の配信を記念して、セミナー講師としての7年間を振り返り、中国における漫画家の卵たちの思い出や旅グルメの記録を自身のアカウントで綴った。今回モトタキ記者が、そんな押山氏を深堀りした。
○2019年も漫画セミナーの予定はありましたか?
押山氏:今年は3ヶ所から依頼されていましたが、新型コロナの影響で中止になりそうだと諦めています。もちろん、完全に終息して開催が決まれば行くつもりではいます。
○中国でのセミナー講師依頼をされた時の心境はどんなものでしたか?
押山氏:かつて『あばれ花組』連載終了記念で香港には連れて行ってもらったことがありましたが、海外旅行の経験がそれぐらいしかなかったので、一人で飛行機に乗れるのかどうかが怖かったですね(笑)。講師自体も初めてでしたが、そちらは不安はありませんでした。
しかし、向こうについて驚いたのは、空港を出るとそのまま食事に誘われてお酒もたらふく飲ませてもらったので、「宿舎に直行だな」と思っていたら教室に連れて行かれて紹介させられました。ベロベロに酔っ払っていたので、これには流石に参った。
○中国の生徒たちとの触れ合いを通して、中国のマンガ文化の成熟度をどう感じましたか?
押山氏:画力は高いです。日本では、専門学校の体験入学の講師をしたことぐらいで、カリキュラムを組んでの授業はしたことはありません。ですが、日本の漫画家志望者と比べても遜色ないでしょう。
ただ、物語の発想力や構成力がまだまだ低いです。中国は日本と違って、高校まで勉強漬けで漫画を描けないのが日常であり、大学に入ってからようやく自由に描き始めることになります。
スタート地点が日本と比べて遅い。日本の場合は、両親や先生に怒られても、小学生からだって描き続けられますからね。漫画を読んだり描いたりする環境があることは大きいです。
今回の電子書籍に描いたような、横線の練習や物語の組み立て、パースの理解さえできれば、己の経験や妄想を活かした漫画は描けるようになるでしょう。読みやすさに繋がる構成力も日本人なら、自然と身についているはず。でも中国人は、構成力がすっぽり抜け落ちているので、重点的に教えています。
○中国の生徒たちの傾向について思うことはありますか?
押山氏:女生徒は圧倒的に腐女子が多いですね(笑)。その分、妄想力が高く、画力も高い生徒が多かったです。逆に男生徒は、妄想力が足りず、漫画を学んでから描こうという傾向がありました。日本語のわかる生徒も多く、アニメだけを見て日本語を覚えたなんて生徒もいました。
○生徒たちとの触れ合いの中で印象的なエピソードはありましたか?
押山氏:セミナーの打ち上げ飲み会で王様ゲームがありました。中国人も日本人の大学生とノリはそこまで変わりませんね。私も参加したら、男生徒から熱烈なハグをされました。
ただ、お疲れ様の乾杯は律儀に一人ずつと乾杯で一気飲みするんです。30人もいるので、「ちょ、ちょっと待って……」とギブアップ。中国のビールは日本と違って、水のように薄い。でも、お腹の中がタプタプになってしまいました。
○中国グルメで思い出深いものはありましたか?
インパクト大だったのは、牛の兜焼きですね。頭蓋骨に肉を切り身のように乗せてあって、タレを付けて焼き肉のように食べるのですが、見た目の強烈さがスゴイ。生徒たちは群がって食べてました。
ワースト1なら臭豆腐です。「美味しいですよ」と勧められたものの、口にしたら牛乳を拭いて数週間放置して腐った雑巾の味がしました。いや、そんなものは食べたことはありませんが。
○中国セミナーを続けていく楽しさはどんなものがありますか?
人に教えるのが不得手な人間でしたが、アシスタントを仕込むように進めていくと楽しさを実感できました。通訳さんに頼り切りですが、生徒とのコミュニケーションも、毎回増えており、教える事自体が楽しくなっています。
また、腐女子の女生徒たちから「BLを描いて」とせがまれたりします。それに「えーーー!やだーーー!」と駄々をこねながら描くのが、年に一度の楽しみにもなってるんですよね(笑)。
新型コロナの影響は経済面だけでなく、文化面でも大きな被害が発生しているという。その氷山の一角を感じた。願わくば、一刻も早い終息を願うばかりだ。