きょう12日に放送される長谷川博己主演のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜20:00~)第13回「帰蝶のはかりごと」で、いよいよ佐々木蔵之介演じる“サル”こと藤吉郎が初登場。のちに豊臣秀吉となるこの男は、長谷川演じる明智光秀最大のライバルとなる。これまで数多くの名優が演じてきた秀吉役に、佐々木がキャスティングされたことは、大いに納得がいく。そこで、二枚目から三枚目の役までこなせる実力派俳優・佐々木蔵之介の魅力を、改めてひも解いてみたい。
放送前に開催された出演者発表会見で、佐々木は「過去の大河ドラマで秀吉を演じたのが誰なのかを調べたのですが、すごい先輩方がたくさんいて、歯が痛くなりました。調べなきゃ良かったと思っています。どう演じるか分かりませんが、とりあえず僕は“申年”です」とおちゃめに語り、笑いをとっていた。
確かに、戦国武将を描く時代劇において、秀吉役は作品の要となることが多く、そうそうたる演技派俳優たちが名を連ねてきた。例えば、大河ドラマでは『秀吉』(96)や『軍師官兵衛』(14)のほか、CMやゲームソフトなどを含めると、4度の秀吉役を演じた竹中直人や、『太閤記』(65)、『黄金の日日』(78)のレジェンド俳優、緒形拳はもはや別格だ。
他に『おんな太閤記』(81)の西田敏行、『徳川家康』(83)の武田鉄矢、『独眼竜政宗』(87)の勝新太郎、『利家とまつ~加賀百万石物語~』(02)の香川照之、『功名が辻』(06)の柄本明などの秀吉も素晴らしかったし、民放のドラマを含めれば枚挙にいとまがない。
織田信長から“サル”と言われるので、なんとなくサル顔が選ばれるのかと思いきや、過去の名優陣を見てみると、そうとは言い切れない。だが今回、佐々木について言えば、そのルックスや素養を含め、秀吉という大役にふさわしい! と期待に胸が高鳴った。
言葉を選ばずにいえば、佐々木のルックスは、二枚目半であり、そこが俳優として恵まれた武器だとも思っている。この“半”というのがポイントで、凛とした二枚目からおちゃめな三枚目までの振り幅が約束され、その分、役者としての守備範囲が広くなるからだ。
例えば、佐々木のファーストインパクトは“二枚目スター”だった。元々、演劇界では知る人ぞ知る存在だった佐々木蔵之介の名前をお茶の間に広めたのは、朝ドラ『オードリー』(00)で、このドラマでは映画界の新鋭スター役を好演していた。その後、俳優としてめきめき頭角を現していき、やがて連ドラ『ハンチョウ~神南署安積班~』シリーズなどの代表作をはじめ、シリアスなドラマからコメディに至るまで、大活躍していく。
最近でいえば、スペシャルドラマ『陰陽師』(20)での安倍晴明役が感慨深かった。なぜなら、コメディ映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08)で、ギャグの掛け合いをしていた市原隼人が、相棒・源博雅役で、晴明をサポートしていたからだ。
『陰陽師』だけではなく、佐々木は他の時代劇でも引っ張りだこである。大河ドラマでは、『風林火山』(07)で真田幸隆役を演じていたし、主演映画『超高速!参勤交代』シリーズもヒットに導いた。現在、役所広司主演の『峠 最後のサムライ』も待機中である。まさに、あらゆる面で、今回の秀吉役を演じるお膳立てができていた。
今回の『麒麟がくる』第13回の予告編を観ただけでも、そのポテンシャルの高さにうなった。藤吉郎がサルらしく木に登ったり、「ハハハ!」と人懐こいバカ笑いをする姿を見てワクワクしたのは、私だけではないはず。藤吉郎は、まだ最下層の農民だが、ここから野望を胸に邁進していく。きっと信長の草履を懐で温めるシーンも後々に登場するのではないか。
ちなみに第13回では、斎藤道三(本木雅弘)VS道三の暗殺を企てた頼芸(尾美としのり)+道三の息子・高政(伊藤英明)という対立に加え、道三の動向を見据え、策を練る織田信長(染谷将太)+妻の帰蝶(川口春奈)タッグ、というバチバチの駆け引きが繰り広げられる。例によって、板挟みになった光秀の苦悩がなんとも切ない。でも、そんなドロドロの息を呑むドラマに、佐々木演じる藤吉郎が、オアシスのごとく“陽”のパワーをチャージしてくれるはず。乞うご期待!
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