5日に放送されたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜20:00~)第12回「十兵衛の嫁」で、長谷川博己演じる十兵衛こと明智光秀が、木村文乃演じる美濃の土豪・妻木氏の娘・熙子と結婚! そんなめでたい明智家とは対照的に、織田家では、高橋克典演じる当主・織田信秀がついにこの世を去った。信秀は、天に召される前に、息子・信長(染谷将太)を想う本心を、信長の妻・帰蝶(川口春奈)に明かしたようで、なんとも胸が熱くなった。
大御所の脚本家・池端俊策氏が描く本作は、主人公の明智光秀をはじめ、戦国武将の知られざる意外な一面に光を当てていく。光秀を描く上で、舞台も美濃、尾張、京がクロスオーバーし、見せ場となる登場人物も毎回流動的となる。今回は、高橋演じる信秀の最後の回となるので、美濃を舞台とした十兵衛の結婚話と併行しつつ、尾張の織田家のやりとりがクローズアップされた。
染谷演じる若き信長は、これまでにない青くささや純粋さを打ち出している点が新鮮だが、その分、信秀役の高橋が「今まで言われていた信長のイメージを信秀が請け負ってほしい」というオーダーを受けていたらしい。実際、この演出が信秀の最期を迎えた今回で、大いに説得力を生む。すなわち、信秀は将来の信長を映し出す鏡のような役割を果たしていたのだと実感。
思えば信秀と信長の親子関係は、ここ数回で少しギクシャクしていた。信長は織田家の嫡男だが、母親の土田御前(檀れい)は、自分に似ている弟の信勝(木村了)ばかりを可愛がっている。信長はそんな弟に対してジェラシーを感じつつ、だからこそ、父親である信秀に認めてもらいたいと鼻息を荒らす。
ところが父を喜ばそうと、信長が松平広忠(浅利陽介)の首を取った時、信秀は烈火のごとく激怒した。さらに信秀は、追い打ちをかけるように、「わしに万が一のことがあったら、(今いる)末盛城を信勝に与える」と宣言する。
末盛城を、戦での主軸となる城と捉えていた信長は「大事なものはすべて信勝のものなのじゃ。父上は母上の言いなりじゃ」とショックを受け、妻の帰蝶(川口春奈)の前で大粒の涙を流す。この母性本能を刺激するような信長像が好評を博しているが、それを支える賢い帰蝶の援護射撃もすばらしい。
今回は、プライドがズタズタにされた夫・信長を見かねた帰蝶が、自ら信秀の下へ行き、織田家を継ぐのにふさわしいのは、信長か、それとも弟の信勝か? と詰め寄ることに。なんとも男前な帰蝶に惚れ惚れするし、ここへ来て川口春奈の凛とした存在感が光る!
弱りきった信秀の口から出た言葉は、息子・信長への想いだった。信長について「わしの若い頃に瓜2つじゃ。まるで己を見ているようじゃ。良いところも、悪いところも。それゆえ、かわいい」と信長をいつくしみ、「尾張をまかせる。強くなれ」と、織田家を信長に託したいという遺志を帰蝶に明かす。
いやあ、これ、直接、信長に言ってあげてほしい! と、おそらく視聴者は思ったはず。このあたりの愛情表現の不器用さは、まさに息子・信長と負けず劣らずである。自身が言うとおり、親子そっくりなのだ。
演じた高橋は「信長から見たら信秀は憧れの人であり、反面教師でもあったと思いますが、どういう形であれ、父が息子に与えた影響は絶大だったはずです」と語っていたが、大いに納得。実際に信秀亡きあと、信長も信秀のように、豪傑な武将となっていくのだから、実に感慨深い。
今後、信長がこの乱世でどういう形で台頭していくのか、実に楽しみである。そして、彼を支える帰蝶と、2人を見守る立場になっていく十兵衛が、どう絡んでいくのか、乞うご期待!
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