富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、2020年4月1日(現地時間)、ドイツ・アウグスブルグに設立したPC開発の新会社「FCCL GmbH」の事業を開始したことを発表した。新会社は、欧州市場向けのPCの開発を行うことになる。

FCCLの齋藤邦彰社長は、「FCCLのグローバル戦略において、ドイツをはじめとした欧州は重要な市場になる」と前置きしつつ、「FCCL GmbHでは日本と同様に、付加価値の高いPCの開発を行う。これにより、ドイツを中心とした欧州の顧客ニーズ、要望に対応していくことができる」とコメント。世界最軽量の薄型ノートPC開発などで培ってきたFCCLが持つ高い技術力を活かして、ビジネス市場のニーズを踏まえた製品を開発することになる。

  • 2019年12月、FCCL GmbHで行われたオールハンズミーティングの様子。中央(前列左から6人目)には、FCCLの齋藤邦彰社長の姿も見える

新会社のFCCL GmbHは、FCCLの100%子会社として設立。資本金は25,000ユーロ。社長には、Dieter Heiss氏が就任する。従業員は約120人。FCCL GmbHは2019年8月8日に設立しており、2019年12月には齋藤社長が現地のオールハンズミーティングに参加し、事業開始に向けた準備を進めてきた。FCCL GmbHで開発したPCは、欧州の工場を利用して生産。欧州市場向けに販売される。

FCCLがドイツに開発拠点を設置するのには意味がある

もともと富士通は、1999年4月に、同社と独シーメンスAGが50%ずつ出資するジョイントベンチャー「富士通シーメンス・コンピューターズ(FSC)」を発足。欧州市場向けのサーバー、ストレージ、PCなどの開発、生産、販売を行ってきた。

10年間の契約でスタートしたこのジョイントベンチャーは、エネルギーや産業(インダストリー)、ヘルスケアの3分野にリソースを集中したいシーメンスと、IT分野におけるグローバル戦略を加速したい富士通との思惑が一致。2009年4月に富士通が全株式を取得し、100%子会社化。それにあわせて、社名を「富士通テクノロジー・ソリューションズ(FTS)」に変更した。

FTSは富士通のサーバー事業拡大に向けた戦略的拠点として位置づけられたほか、PC事業においてもデスクトップPCの開発、生産を中心に、重要な役割を果たしてきた。PC事業はこのときから、製品ブランドを「FUJITSU-SIEMENS」から「FUJITSU」に統一。そうした経緯もあり、ドイツ国内ではPCブランドとして「FUJITSU」が広く定着している。

一方で、ドイツで開発したデスクトップPCを、福島県伊達市の富士通アイソテックで生産して日本市場に投入するなど、日本のニーズに対応したPCの開発でも実績があった。だが、2018年10月、富士通の構造改革への取り組みの一環として、欧州市場における利益改善とプロダクトビジネスの依存度が高い不採算拠点の整理を理由に、2020年前半までにドイツ・アウグスブルグの工場閉鎖を決定した。

富士通のPC事業は、2018年5月にレノボ傘下に移管。アウグスブルグ工場の閉鎖が決定した時点では、新生FCCLがスタートしていた。欧州のPC生産はFTSに委託するという関係にあったため、富士通の決定によって、FCCLは、欧州の開発拠点と生産拠点を新たに確保しなくてはならないという事態に陥った。

FTSのアウグスブルグ工場は、富士通ブランドのPC全体の生産において、3割以上を占める重要な役割を担っていただけに、FCCLにとってもこの決定(工場の閉鎖)は激震だった。新会社のFCCL GmbHは、こうした経緯のなかで設立した新たな開発拠点であり、FCCLの100%子会社としてスタートを切る。

FCCLの齋藤社長は、「日本とドイツは、顧客やエンジニアの気質が似ており、品質を重んじること、モノを長く使うこと、細かいことにこだわるという特徴がある。そうした市場において、エンジニアが顧客のそばにいて開発することで、厳しいニーズに対応したPCを開発できる。また、日本とドイツのエンジニアが連携することで、他社には真似ができないPCを開発できる。これが、顧客に寄り添うPCを開発するFCCLのDNAを実現することにもつながる。その点でも、FCCL GmbHは重要な役割を果たす開発拠点になる」とした。

今後は、欧州における生産拠点も強化することも視野に入れていく。FCCL GmbHは、欧州市場におけるPC事業拡大の基盤ともいえる役割を果たすことになる。