細い攻めをつなげて、広瀬章人八段を寄せ切る。棋王に続いて王将も防衛達成
将棋のタイトル戦、第69期大阪王将杯王将戦(主催:スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社)の第7局が、3月25、26日に新潟県佐渡市「佐渡グリーンホテルきらく」で行われました。渡辺明王将に広瀬章人八段が挑戦している本シリーズは、両者譲らずに3勝3敗のフルセットに。153手の熱戦の末、最終局を制したのは渡辺王将でした。渡辺王将は2期連続4期目の王将獲得です。
最終局は改めて振り駒が行われます。その結果、渡辺王将が先手に。戦型はこのシリーズ3局目の矢倉になりました。右四間飛車に構えて攻勢を見せる広瀬八段に対し、渡辺王将は角を使って攻めを牽制します。要所に陣取る渡辺王将の角を追い払おうと、広瀬八段が歩を突いて自らの角道を閉じた瞬間、局面が一気に動きました。
渡辺王将は角銀交換で角を切り飛ばしたあと、すぐさま飛車切りを実行。角と刺し違えます。その後、手にした角を馬にしたところで1日目が終了しました。
2日目は朝から派手な展開に。広瀬八段が金を馬にぶつけ、あえて取らせます。もちろん金を取られてはい終わり、などということはありません。持ち駒の飛車を敵陣に打ち下ろした手が王手馬取り。広瀬八段が馬を取り返した局面では、大駒4枚がすべて広瀬八段の手中に収まりました。
通常、大駒のない小駒だけの攻めはつながらないとしたものです。しかし、先手を持っているのは、細い攻めをつなげる技術が天下一品の渡辺王将。持ち駒の金銀を相次いで盤上に打ち、攻めの拠点を作ります。対する広瀬八段も自陣に竜・飛車・角、敵陣に馬を配置し、全力で攻めを受け止めようとしました。
やがて渡辺王将が2五に打った銀は、紆余曲折を経て敵陣に成り込み、竜と交換になりました。手にした飛車を敵陣に打ち込み、もう渡辺王将の攻めが途切れることはありません。相手の攻めを切らすことはできないとみた広瀬八段は、馬とと金で上部を開拓し、入玉の準備を進めます。
もし入玉をされてしまうと、容易には玉を捕まえられなくなります。広瀬八段が2六に歩を垂らして、と金作りを目指したのに対する、渡辺王将の▲5七金が入玉の望みを打ち砕く好手でした。矢倉囲いの一部をなしていた金を攻めに活用することで、3六にいる角を攻めつつ、相手玉の上部進出を阻止する一手。広瀬八段は角を逃がすために△2七角成としましたが、2七は本来、先ほど垂らした歩が成るためのスペースです。逃がした馬も結局はのちに取られてしまって勝負あり。広瀬玉は最後六段目まで進出しましたが、そこで御用となってしまいました。
153手の激戦を制した渡辺王将は、4勝3敗で王将位の防衛に成功しました。フルセットでは無類の強さを発揮する渡辺王将。今期も含めタイトル戦では10度、勝った方がタイトル獲得の一局を指して、結果は8勝2敗です。渡辺王将とのタイトル戦を制するには、フルセットになる前に決着を付けなければならないと言っても過言ではありません。
【参考】渡辺王将のフルセット局結果一覧
2003年度 第51期王座戦 対羽生善治王座 負
2004年度 第17期竜王戦 対森内俊之竜王 勝
2006年度 第19期竜王戦 対佐藤康光棋聖 勝
2008年度 第21期竜王戦 対羽生善治名人 勝
2013年度 第63期王将戦 対羽生善治三冠 勝
2014年度 第64期王将戦 対郷田真隆九段 負
2016年度 第29期竜王戦 対丸山忠久九段 勝
2016年度 第42期棋王戦 対千田翔太六段 勝
2017年度 第43期棋王戦 対永瀬拓矢七段 勝
2019年度 第69期王将戦 対広瀬章人八段 勝
また、この王将戦で2019年度のすべてのタイトル戦が終了しました。8つのタイトルのうち、タイトル保持者が勝利したのは、棋王戦と王将戦のみ。つまり渡辺棋王・王将だけが防衛に成功したということになります。
棋王戦と王将戦のダブル防衛戦を終えてほっと一息、などと言っている余裕は渡辺三冠にはありません。4月8日からは名人戦七番勝負が始まります。自身初の四冠を目指す渡辺三冠に立ちはだかるのは、名人と竜王を保持する豊島将之竜王・名人。現代将棋界のゴールデンカードが最高の舞台で実現します。