藤井七段は王位リーグ3連勝&3年連続勝率8割以上確定。杉本八段は竜王戦3組決勝進出

3月24日の関西将棋会館には、対局を行う杉本昌隆八段と藤井聡太七段の姿がありました。藤井七段は第61期王位戦挑戦者決定リーグ白組(主催:新聞三社連合)の対稲葉陽八段戦、杉本八段は第33期竜王戦3組ランキング戦準決勝(主催:読売新聞社)の対菅井竜也八段戦に臨みました。結果は師弟ともに勝利。藤井七段はリーグ戦負けなしの3連勝とし、さらに今年度の勝率8割以上を確定させました。一方の杉本八段は3組決勝に進出。2組昇級を決めました。

▲藤井七段-△稲葉八段戦は角換わり腰掛け銀の将棋となりました。序盤は両者研究済みとばかりにハイペースで進行。稲葉八段が新手を繰り出し、前例手順から離れた辺りから藤井七段はまとまった時間を投入するようになります。ところが対照的に、稲葉八段は相変わらずほぼ持ち時間を使わずに着手していきます。局後に稲葉八段は研究通りの進行だったと明かしました。

持ち時間をどんどん消費していく藤井七段と、ほとんど使わない稲葉八段。一時は両者の残り時間に3時間以上の開きが出ました。持ち時間4時間制の対局では異例のことです。局面は研究がはまり、稲葉八段有利。持ち時間にも差があり、藤井七段絶体絶命かと思われました。

ところがほとんど時間のない中、藤井七段は相手の嫌味を的確に突いて稲葉八段に楽をさせません。敵玉を追い回して寄せ形を築いていきます。稲葉八段も残しておいた持ち時間をここぞとばかりに投入し、藤井玉を追い詰めます。

そうして迎えた105手目、藤井七段は飛車を打って稲葉玉に王手をかけました。藤井玉は馬と銀2枚に囲まれ、受けのほぼ利かない形。ここさえしのげば稲葉八段の勝ちがほぼ決まります。王手の受け方は2つ。合い駒として金を打つか、歩を打つかです。

稲葉八段は23分考え、金合いを選択しました。飛車取りをかける強い受けです。ところがこの手がまさかの敗着になったようです。藤井七段は飛車取りを放置して、桂を成り込んで金を取ります。稲葉八段は王手を利かせたのち、先ほど打った金で飛車を取りました。

ここで藤井七段は残り時間2分のうちの1分を消費して、成桂を引いて王手をかけました。これが絶妙手で、藤井七段がついに逆転に成功。拠点となりそうな成桂を捨てる、常人には浮かばない一手でした。

成桂を取っても勝ちがないとみた稲葉八段は7分考えて玉を逃げましたが、ここから藤井七段は圧巻の寄せを披露。1分将棋の中、なんと稲葉玉を即詰みに打ち取ってしまいました。本譜は27手詰、最長手数は30手を超える詰みだったようです。

局後のインタビューで、藤井七段は先ほどの2択の局面では歩合いなら苦しかったと語りました。実際その通りだったようで、そこで逆転していたようです。しかし、評価値上は逆転していたとして、果たして成桂を捨てる攻め、そして長手数の詰み筋を1分将棋の中、読み切れる人がどれだけいるのでしょうか。そもそもその難しい2択を相手に迫る局面まで、追い込むことができるでしょうか。藤井七段だからこそ成し得た逆転勝ちと言って問題ないでしょう。

この勝利で藤井七段は王位リーグ白組の成績を3勝0敗とし、リーグ優勝に一歩前進です。また、この勝利で今年度の勝率8割超えが確定。1973年度に将棋大賞が始まって以降では史上初の3年連続勝率8割以上の偉業を成し遂げました。

藤井七段の師匠、杉本八段は菅井八段との対戦。菅井八段の角交換型振り飛車から、序盤早々に角を打ち合う乱戦に。局面が落ち着いてみると、なんと相居飛車のような形になりました。穴熊に囲った菅井八段の陣形とは対照的に、杉本八段は金銀をすべて自陣の三段目に配置。どこかを食い破られるとすぐに崩壊してしまう、神経の使う陣形です。

そんな不安定な形ながら、戦端を開いたのは杉本八段。駒をどんどん交換して相手の穴熊を薄くしていきます。二転三転の大激戦を最後に抜け出したのは杉本八段でした。相手の受け間違えを的確にとがめ、穴熊を丸裸にして勝利。終局図は菅井八段の玉が盤の隅の1一に、杉本八段の玉が盤の中央の5六にいるという、これまた対照的な局面でした。

杉本八段は竜王戦3組の決勝に進出し、2組昇級を決めました。次も勝てば、第19期以来の決勝トーナメント入りとなります。次戦の相手は千田翔太七段-藤井七段戦の勝者。ランキング戦決勝という舞台での師弟対決は実現するのでしょうか。師匠が先に舞台に上がり、弟子の到着を待つことになりました。

2018年6月の藤井聡太七段昇段祝賀会で握手を交わす師弟
2018年6月の藤井聡太七段昇段祝賀会で握手を交わす師弟