本当はゲーミングPCを作りたかった
NECパーソナルコンピュータ(以下NECPC)の商品企画本部でマネージャーを務める中井裕介氏は、かなり重度なゲーマーだという。「もともとゲーミングPCを作りたかったんですよね」と語る中井氏であるが、NECに入社後はモバイルノートPCの開発に携わることになる。800グラムを切る軽量で多くのモバイルノートPCユーザーが高く評価した「LAVIE Z」「LAVIE Hybrid Z」は彼の“作品”だ。
LAVIE Hybrid Zの開発が終わった中井氏は、それまでのモバイルノートPCから離れて15.6型ディスプレイ搭載ノートPC(以下、15.6型ノート)の開発に取り組むことになる。15.6型ノートPCと聞いて中井氏は「(念願のゲーミングノートPCかと)ちょっと期待したんですけどねー」と思ったらしい。
NECPCのノートPC想定ユーザーには、「Pro」「Home」「Education」そして「Game」がある。そのGameにフォーカスしたノートPCを開発すると思ったが、NECPCはその前にプロを意識した15.6型ノートの開発を中井氏に託すことにした。そして登場したのが「LAVIE VEGA」だ。NECPCはフォトグラファーに向けたノートPCとしてこのモデルを訴求する。搭載するCPUやディスプレイ、キーボード、付属するアプリケーション、ボディデザインなどなど、フォトグラファーのために構築したと説明するが、しかし、中井氏と話をしていると、それだけにとどまらない意図、というか”思い”がLAVIE VEGAにはあると思った。
この記事では、中井氏がLAVIE VEGAの開発にあたって、自分のアイデアや考えをどのように反映していったかを紹介したい。
「フォトグラファーのため」より前にあった「有機ELを載せたい」
中井氏が、LAVIE VEGAの開発で何よりも優先したかったもの。それは、「有機ELをノートPCに搭載する」ことだった。この思いは、LAVIE VEGAのために着想したものではない。それより以前に、LAVIE ZなどモバイルノートPCの開発を担当していた当時からずっと持ち続けていた。
中井氏はなぜこんなにも有機ELに入れ込んでしまうようになったのか。その理由を中井氏は「液晶と比べて色が全然違くて」と語る。中井氏が有機ELの表示を自分の目で見たのは外部のパーツベンダーが持ち込んだ有機ELディスプレイだった。その表示する画像の色を見た中井氏は「私がこれだけ感動するということはユーザーもきっと感動するという確信が」と、それから有機ELのとりこになってしまったと語る。
結局、モバイルノートPCに有機ELを搭載することはかなわなかった。「有機ELは電力を消費します。それがバッテリー駆動時間と軽量化が優先するモバイルノートPCに適さなかった」(中井氏)
しかし、15.6型ノートなら、バッテリー駆動時間の優先順位はそれほど高くなくて済む。また、ボディサイズがモバイルノートPCより余裕があるため、バッテリー駆動時間を重視する場合、バッテリーパックのサイズを大きくすることも可能だ。また、モバイルノートPCの開発に取り組んでいた2012年当時と比べて、OSがダークモードに対応した他、ユーザーの志向が「暗めの色」を好むようになっていたおかげで、有機ELを搭載しても消費電力を抑えることができるようになったという環境の変化も幸いしたという。
中井氏は、長年の夢だった有機ELディスプレイの搭載をLAVIE VEGAの特徴として早々に採り入れた。それこそ、「フォトグラファーにフォーカスした」という想定ユーザーの構想より前の段階だった。このように、LAVIE VEGAの企画段階において、有機ELの搭載が先に決まり、訴求するユーザーの設定はそのあとだった。LAVIE VEGAが搭載する有機ELはDCI P3色域を100%カバーする。このDCI P3は米国の映画業界団体も参画して策定した企画で、映像コンテンツ制作において主流の色域規格となっている。ならば、訴求ユーザーを印刷出力がメインの(それゆえDCI P3よりAdobeRGB色域対応が望ましい)フォトグラファーではなく、映像クリエイターを訴求ユーザーとして設定したほうがよかったのでないだろうか。
この問いに対して中井氏は「実は社内でも議論があった」とした上で、趣味の段階にあるユーザーが取り組みやすいジャンルとして、フォトグラファーを訴求することにしたと説明している。「ガチガチのフォトグラファーとなると映像クリエイター並みに数は少ないですが、スマートフォンで撮影するようなプロではないけれど写真を楽しむユーザーはたくさんいます」(中井氏)
なお、アドビシステムズにアプリケーションライセンスなどの連携を打診したのは、既にNECPC側でフォトグラファー訴求を決定した段階だったという。また、映像クリエイター訴求として映像編集用アプリケーションライセンス付属の可能性については、価格的な問題で難しかったと中井氏は説明している。