3月20日、ついに東京オリンピックの聖火が日本に到着した。19日の夜、ギリシャを飛び交った聖火特別輸送機「TOKYO 2020号」は、強風が吹き荒れる中、20日早朝に宮城県にある航空自衛隊 松島基地に無事到着。11時20分から東京2020オリンピック聖火到着式が開催された。
新型コロナや強風を乗り越え日本に届いた聖火
東京2020組織委員会によって執り行われた東京2020オリンピック聖火到着式は、3月26日からスタートする東京2020聖火リレーの始まりとなるセレモニー。前日19日に行われたギリシャ・パナシナイコスタジアムでの聖火引継式は、組織委員会会長の森喜朗氏や五輪相の橋本聖子氏が「TOKYO 2020号」で日本に持ち帰る予定だったが、新型コロナウイルスの影響から代表団を派遣せずに行われた。
20日は朝から宮城県で風速30メートルを超える強い風が吹き、聖火を乗せた「TOKYO 2020号」は予定より1時間半ほど早い9時36分に到着。その後も強風は吹き荒れ、聖火をともしたランタンから聖火皿への炎の移し替えや、ブルーインパルスによる五輪のスモークなどに影響を及ぼした。
公式アンバサダーによるセレモニー前挨拶
到着式では始めに東京2020聖火リレーの公式アンバサダーとして、お笑いタレント・サンドウィッチマンの伊達みきおさんと富澤たけしさん、女優の石原さとみさん、パラリンピック・女子射撃の元代表である田口亜希さんが登壇。
伊達さんは「本当は飛行機が到着するところも見守れるはずだったんですけどね。普段はこんなに風が強くないと思うのですが、風も歓迎しているということですよ」と当日の天候についてコメント。富澤さんは「森会長が宮城のことを宮崎と間違えてたんでちょっと心配してたんですけど、無事についてよかったです」とおどけると、伊達さんが「ぶりかえすな……大丈夫です、問題ありません!」とすかさずツッコミを入れ、会場の空気を和ませた。
石原さんはアンバサダーとして活動するなかで印象に残ったことを聞かれ、長崎県のランナーにインタビューした際のエピソードを披露。「『いまだに戦争が続き平和が訪れない国があるという怒りと平和への願いを込めて走りたいと思います』と話してくれました。『平和とは、安全とは何なのかと自問自答しながら、その日までにノートにまとめたいんです』とおっしゃってくれて、聖火リレーは私たち一人ひとりが主役なんだ、走るその日までどんな自分になってどんなふうに取り組んでいくかで今後の人生が決まってくるのかな、と私は個人的に思いました。私自身も走るその日まで、後悔がないように取り組みたいです」と語った。
田口さんも同じく活動の中で印象に残ったことを質問され、「約1年前にアンバサダーになってから、この日をワクワクして待っていましたし、やっとギリシャから火が届きまして、今度は日本国中で皆さんの思いをつなげていけるので、うれしく思います」と聖火到着の喜びを話した。
森喜朗氏「子どもたちと花が咲くを歌いたかった」
続いてセレモニーは、ギリシャからの聖火を乗せた「TOKYO 2020号」の前へ。柔道・オリンピック金メダリストで公式アンバサダーの野村忠宏さん、レスリング・オリンピック金メダリストの吉田沙保里さんがゆっくりとタラップを上がり、搭乗口で聖火の灯るランタンを受け取った。
ランタンは、航空自衛隊・航空中央音楽隊による聖火リレー公式BGM「Hope Lights Our Way」の演奏をバックに、タラップの下で2人を待つ組織委員会会長の森喜朗氏に手渡されると、日本オリンピック協会(JOC)会長の山下泰裕氏に促される形でそのままステージへ移動。ステージ上で再び野村忠宏さん、吉田沙保里さんのもとに返された。
代表として登壇した森喜朗氏は、関係者に感謝の言葉を述べた後「本来でしたら地元の東松島市、石巻市、女川町のみなさま、特に子どもたちに聖火を盛大にお出迎えいただく予定でしたが、安全を第一に考え、縮小とさせていただきました。聖火を心待ちにしていた子どもたちの気持ちを考えますと、組織委員会としても苦渋の判断でございました。私も子どもたちと一緒に『花が咲く』を歌いたいなと、心からそう願っていました」と静かにその思いを述べる。
合わせて、ギリシャで行われた引継ぎ式に参加予定だったが新型コロナウイルスの影響拡大によって断念したこと、そして20日当日の飛行機が強風によって到着が危ぶまれたこと、時間を早めることで無事聖火が到着したことに触れ、自衛隊松島基地や航空会社などに感謝の言葉を贈った。
「日本に到着した聖火が、これから皆様のご歓迎の下、いよいよ聖火皿に点火されます。到着式のあとには、復興の火としてこれから岩手県、宮城県、福島県をめぐり、復興に力を尽くされている被災地の方々への励ましとなるように、元気な力を届けてまいります。続いて3月26日からは福島県のJヴィレッジから、聖火リレーが全国を回り、日本国中の多くの方々の思いを集めて、7月24日には聖火が国立競技場に到着いたします。56年ぶりに聖火が東京に向かう『東京2020聖火リレー』が、多くの人々の希望の道を照らし出すことを望んでおります」
森氏はこのように述べ、最後に「東京2020オリンピック大会の開催に向けて、IOC、国、東京都と緊密に連携し、またWHOの助言も踏まえて、安全安心な大会の準備に全力で取り組んで参ります」とまとめた。
聖火皿への点火とアクロバット飛行
聖火皿への点火を担当するのは、吉田沙保里さんと野村忠宏さん。2人は聖火の灯るランタンから、聖火リレー用のトーチに火を移し、合図とともにステージ上の聖火皿へ点火を行った。
2人は聖火リレーのコンセプトである「Hope Lights Our Way」について質問され、吉田沙保里さんは「選手への思い、東北地方の方々の思い、東京2020を楽しみにしている方たちの思いなどを乗せた、本当にグッとくるコンセプトだと思います」、野村忠宏さんは「支え合う心、認め合う心、そして高め合う心。こういう私たちが持っている大切な心で希望の光を照らしながらつないでいく、そしてすばらしい道になっていく。いま改めて考えてもいいコンセプトになったなと思います」と語った。
さらに国内での聖火リレー開始について聞かれ、吉田沙保里さんは「いまこういう状況、色々大変な時期ですが、この聖火リレーで皆さんに元気や希望を届けられるようになればいいなと思います。そしていま、私たちは幻の聖火ランナーになっていますので、どこかで走る機会があればよいなと思っています」と現在の思いを述べた。
点火と同時に、上空では航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が5色のスモークによって五輪の輪を描いた。残念ながら強風の影響であっという間にスモークは流されてしまったものの、その後式典会場の真上で5色のラインを描くことに成功し、会場では喝采が起こった。
聖火はサンドウィッチマンの手で石巻市へ
聖火は最後に、野村忠宏さんからサンドウィッチマンの2人の手へ。伊達さんは「幼きころ僕は石巻で育ったので、石巻に聖火を持って行けることにすごく誇りを感じております。大切に持って行きます。途中で消さないように気を付けたいと思います」とコメント。さらに富澤さんが「そうですね、この火でタバコをつけてみたら……」と言いかけたところ、伊達さんは「やめろ!」と一喝。「させません、僕が阻止します」とツッコみ、会場を笑いで包んだ。
サンドウィッチマンの2人はそのままラッピングバスに乗り、東松島市内をパレードしながら、3月20日の聖火展示会場となっている石巻市の「石巻南浜津波復興祈念公園」へ聖火を運んでいった。