マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、世界中で行われているコロナウイルスへの経済対策について語っていただきます。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界経済が大きく落ち込むとの懸念が強まっています。米国のダウ工業株平均が2月上旬に3万ドル目前で過去最高値をつけ、そこからわずか1カ月ちょっとで2万ドル割れとなるまで急降下したのは、投資家の恐怖を反映したからでした。
各国中央銀行が緊急利下げ
そうした株急落が示唆するきたる経済危機に対して、各国当局も座視していたわけではありません。3月3日には緊急でG7財務大臣・中央銀行総裁会議が開催され、「適時かつ効果的な施策で協力する用意がある」との声明が発表されました。
その直後に、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が0.5%の緊急利下げを決定。その後も、BOE(英国中央銀行)やBOC(カナダ中央銀行)などが追随して緊急利下げを実施しました。
米FRBは「ゼロ金利」政策と量的緩和を復活
16日にはFRBが2度目の緊急利下げを実施。現地時間では15日日曜日午後の決定であり、3日後の定例会合まで待てなかったこと、さらにはリーマン・ショック直後の「ゼロ金利」政策の復活や、国債などを購入する量的緩和(QE)の再開も決定したことなどから、FRBが強い危機感を持っていることがうかがわれました。
16日にはRBNZ(ニュージーランド中央銀行)も大幅利下げを決定、日銀もETF購入増額や企業の資金繰り支援を決定。いずれも、定例の会合を前倒し開催しており、各中央銀行の協調した対応だったことを示唆しました。
金融緩和から財政出動へ
3日の緊急利下げ後の会見で、FRBのパウエル議長は「利下げで感染拡大を止めることも、サプライチェーンを修復することもできない。それはわかっている。しかし、我々の行動が経済にとって有効なサポートになると確信している」と語り、苦しい胸の内を吐露しました。それでも、ゼロ金利政策や量的緩和の復活に打って出たのは、「金融政策でできることはほぼ全てやった。後は政府の対応に任せた」とのメッセージだったかもしれません。
トランプ政権は140兆円規模の景気対策を検討
新型コロナウイルス対策として成立した2つの景気対策に加えて、米トランプ政権は最大1.3兆ドル(約140兆円)の財政出動を検討している模様です。内訳は、家計への小切手給付が最大5,000億ドル、中小企業向け融資3,000億ドル、安定化基金2,000億ドルなどとのこと。
家計への小切手給付は、2週間以内に1人1,000ドル、景気の改善がみられなければ4週間後にさらに1人1,000ドルが想定されています(所得上限は設定される模様)。また、航空業界の救済も優先的に図られるようです。
消費者や企業のマインドの萎縮は改善されるか
1.3兆ドルといえば、米国の年間GDPの6%に相当する超大型のパッケージと言えるでしょう。もっとも、1.3兆ドル分がすぐに支出されるわけでも、全てが消費や投資などの需要に結びつくわけではないでしょう。また、景況悪化の原因は、消費者や企業(さらには投資家)のマインドの萎縮であり、財政出動によってそれらがどの程度改善するかは大いに不透明です。
それでも、上述したように金融政策にできることはほぼやり尽くした感もあるため、財政出動に期待するしかないのかもしれません。財政政策にはまだまだできることがありそうです。
財政出動は世界規模
なお、Bloombergの集計によれば、世界で発表あるいは計画されている財政出動は、3月17日時点で米国を除いても1兆ドルを超えており、日々増大しています。米国分と合わせれば世界のGDPの3%近くの規模になります。超大型の財政出動が世界をリセッション(景気後退)から救うと期待したいところです。