新型コロナウイルスが全国で猛威をふるう中、日本テレビの人材開発サービス「日テレHR」が、企業向けに新入社員の“リモート研修”動画を急きょ制作した。

休校になった子供たちのために、動画配信会社がコンテンツを開放する事例は相次いでいるが、リモートワークに移行した企業も環境が激変しているにもかかわらず、そこに対する支援は、まだまだ乏しいのが現状だ。

そんな中で、今回の動画制作に踏み切った背景を、日テレHRシニアコンサルタントの眞邊明人氏と主席プログラムコンサルタントの大澤弘子氏に聞いた――。

  • 日テレHR「新入社員向け 動画研修サービス」より(日本テレビ提供)

    日テレHR「新入社員向け 動画研修サービス」より=日本テレビ提供

■企画から2週間で収録

日テレの新規事業である日テレHRでは、番組制作で培ってきたチームワークなどのノウハウを、研修プログラムとして提供するサービスを展開してきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、4月上旬に行われる新入社員向けの集合研修が軒並みキャンセル・延期に。そこで、自宅からでも“リモート研修”が受けられる動画教材を制作した。

ビジネスマナーなど、知識系の講習動画は世の中に多く存在しており、各企業の人事部では今まさにかき集めているそうだが、今回、日テレHRが制作したのは、他では販売されていない、仕事との向き合い方(=ビジネススタンス)を学ぶプログラム。

4時間版・5時間版という長尺コンテンツを制作したが、「やむを得ず会社が判断を下し、急きょリモートワークにすると言われ、人事や現場が大変な負担となっているんです。そういう人たちのために何かできないかと考えた時に、4~5時間流しっぱなしにできる学びの深い動画研修があれば、少しでも負担を減らすお手伝いができるのではないか」(眞邊氏)と狙いを語る。

企画したのは、企業がリモートワークを発表し始めたすぐのタイミングで、動画収録のわずか2週間前。通常は、プログラム制作に2~3カ月程度かけるそうだが、「もともと要素は用意してあるので、今回は2日くらいでやりました」(眞邊氏)と機動的に対応した。

この“機動”というのは、日テレHRが「予測不能なビジネス環境で生き残る鍵」と提唱する企業活動における重要な要素。それを今回、日テレHRが自ら実践した格好だ。

  • 日テレHRシニアコンサルタントの眞邊明人氏=同

■『ぐるナイ』『鉄腕DASH』Dが制作

これが実現できたのは、テレビ局の番組制作のリソース(資源)をフル活用したため。「ちょっとした“緊急特番”の布陣ですね。カメラを5台使って、音声もちゃんと録れるように技術スタッフはもちろん、『ぐるナイ』『ザ!鉄腕!DASH!!』などバラエティのど真ん中を担当するディレクターが作っています」(大澤氏)と言うように、番組の制作能力自体が生かされている。

研修動画では、ケーススタディとしてミニドラマが流れるが、これは日テレHRで別のセミナー向けに制作した映像を、今回のプログラムにカスタマイズして取り込んだもの。こうした、必要な映像素材を本番に向けて急きょ転用するというのも、番組制作で培われたノウハウだ。

また、従来の“サテライト授業”と呼ばれるものは、教えている講師の映像を流し、それを視聴するスタイルが一般的だが、今回は受講者の新入社員たちも映し、講師からの問いに答えて講師との間でディスカッションする様子を撮影している。

まるでクイズ番組の収録のようで、大澤氏は「まさにここが日本テレビだからこそお役に立てるリソースだと思います。家で1人でテレビを見て、画面の中の人と一緒に考えてみたり、答えを出したりしてクイズを楽しむのと同じように、画面の中の新入社員と一緒に学べるという演出には、テレビ制作の知見が生かせていると思います」と胸を張る。

編集作業はまさに、テレビ局としての腕の見せどころ。「私自身も番組で長くプロデューサーをしてきましたが、『分かりやすく、正しく、飽きないように』伝えるというのは、地上波テレビの一番の根幹なので、そこはすごく生きると思います。ただ、今回の動画は、自分の頭でどれだけ考えるかという力を刺激し、育成することが目的なので、分かりやすさというものを根幹に置きつつも、研修の“生感”を大事にしていきたいと思います」(大澤氏)とした。

■大手メガバンクから受注「助かります」

今回の動画は、新入社員側が好きな時間に視聴するのではなく、会社側が設定した時間で一斉に配信。さらに、要所要所でレポート提出を求める構成となっているため、自宅での“サボり防止策”も万全だ。

このレポートについては、「いかに学びが深かったかということを、1人ずつコメントして返そうと思っています。今年の新入社員の子たちは、何も悪いことをしてないのに、例年に比べてどうしても損をしてしまうわけですよ。だから、我々が手間をかけてバックアップしてあげることで、少しでもその差を埋めたいと思うんです」(眞邊氏)という狙いもある。

すでに、大手メガバンクからの受注が決まっており、「企業側は自分たちで動画を作ることができないので、『本当に助かります』と言っていただけています」(眞邊氏)と高評価。この手の動画制作は、新入社員向けが一番難しいとのことで、今回で手応えがつかめると、研修のたびに全国から本社に集まらなければいけない大企業の管理職など、他のキャリアに向けたリモート研修商品の開発にも弾みがつきそうだ。