2020年2月14日のバレンタインデー、僕はキヤノンの「EOS-1D X Mark III」(以下、1DX III)を新宿の量販店で購入した。この日は、1D X IIIの発売日でもあった。
僕は別に、特定のカメラの方式や形式にこだわりがあるわけではない。それゆえ、あれだけ好きだったフィルムカメラももうほとんど使わないし、「光学ファインダーをのぞいてこそカメラ!」なんて気持ちはまったくなく、現在考えられるカメラの理想的な方式はミラーレスだと10年以上前から思っている。
なのになぜ、今さらこの「一眼レフカメラ」を購入したのか?
画質はともかく、ほかにはない使いやすさがある
そもそも僕は、この「EOS-1Dシリーズ」を代々、使い続けている。ここ20年ほどの間に発売されたデジタルカメラの多くはカメラテストの仕事で使ってきたし、その数は年間80台を超えていた時期もあった。それでも、仕事撮影のメインで使うのはEOS-1Dシリーズで、2004年の「EOS-1D Mark II」、2007年の「EOS-1Ds Mark III」、2012年の「EOS-1D X」、2016年の「EOS-1D X Mark II」と使い続けてきた。
最も大きな理由は「使いやすかったから」。ファインダーが見やすく、露出設定のダイヤルが回しやすく、長時間握っても疲れにくく、シャッターを切った瞬間が分かりやすい。
僕は人物の撮影がおもな仕事で、連写はまず使わないこともあり、「スポーツを撮らないのにそんなカメラは重くない?」と聞かれることがよくある。確かにボディはちょっと重たいが、カメラが快適に握れ、ファインダーがよく見え、確実なフィーリングで撮影できるこのシリーズが好きなのだ。
これだけのカメラを実写し、カメラグランプリの外部審査員もしているので、よくカメラファンに「吉村さんが使ってるカメラが、現在いちばん画質が良いカメラですよね?」と尋ねられることがあるが、僕は画質でこのカメラを選んではいない。仕事で使える画質をクリアしていることはもちろんだが、ある一定以上の画質ならば使い勝手のほうが僕にとっては数倍大事なのだ。
同じキヤノンのフルサイズ一眼レフならば、プロでもアマチュアの間でも定番となっている「EOS 5D」シリーズという選択肢もある。それなのに僕が1Dシリーズを使う理由は、フィーリングと確実性にある。シャッターの切れ味がよいうえ、シャッターを切った瞬間に「うまく撮れた」「ちょっとブレてしまったかも?」といったことが感覚的に分かりやすいのだ。また、ストロボ撮影の機会が多い自分としては、1/250秒の速いシンクロ速度が使えるのも、5Dの1/200秒に比べて魅力といえる。
また、別売のワイヤレストランスミッターの信頼性も魅力だと感じている。僕の仕事は、タレントやモデルをロケ撮影することが多いので、テザー撮影(撮影した写真がパソコンやタブレットなどの画面に表示され、スタッフで確認しながら進める撮影のこと)ができることが重要。1Dシリーズのワイヤレストランスミッターは、このワイヤレステザーの信頼性がとても高く、Wi-Fi搭載カードや他のカメラ内蔵Wi-Fiで接続した時よりも安心して写真転送が行えるのだ。
現在使っているiPad Pro 12.9インチモデルとの接続では、見通し100mといった離れた状況でもワイヤレス転送が可能だったし、途中でカメラのバッテリーが切れた場合、電源を切ってバッテリーを入れ直した直後に自動的に接続されて再転送が始まったりと、とても信頼を置いて使える仕上がりになっている。ロケ撮影の時でもケーブルに煩わされることなく、ヘアメイクや編集さんがリアルタイムで写真の仕上がりを確認できるので、撮影がとてもスムーズに進められる。
ただし、キヤノン純正のWi-Fi転送アプリ「Canon Camera Connect」では、撮影するとリアルタイムで写真が送られてくるのは良いのだが、その写真は数センチ角の小さなサムネイルだけの表示。どんなに大きな画面のタブレットを使っても、画面いっぱいの大きな表示はできないので、僕は一枚一枚がリアルタイムで大きく表示されるiPad用アプリ「ShutterSnitch」を使ってワイヤレステザーしている。