ガートナー ジャパンは3月13日、テレワークに本格的に取り組もうとする企業が注意すべきポイントについて発表した。テレワークは働き方改革の目玉施策、東京オリンピック開催期間における交通混雑緩和策として多くの企業が取り組んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止策の1つとして政府がテレワークを推奨したことから、注目されており、特に都市部の企業はテレワーク導入は喫緊の課題となっている。

同社の企業内個人向けの調査では、従業員数2000人以上の企業に勤務する従業員の8割近く(76%) が2017年11月の調査時点でテレワークに取り組んでいたというデータもあり、緊急対策の一環として今回一気に実施に踏み切れた大企業が相次いだのは、ある程度下地が整っていたためと考えられる。しかし、テレワーク制度を導入している大企業の中には実際の運用に尻込みするところも見られ、同社にもテレワークの運用や勤怠管理の実施方法などについての問い合わせが寄せられているという。

新型肺炎の感染拡大を防ぐ上では、スピード感を持って一気に進めることが重要だが「何とかなるだろう」と強引に進めてしまうと、業務が滞る恐れがあり、企業の担当者は、まずはオフィスワーカーの業務内容によるテレワークへの移行難易度を理解し、自社の準備状況に鑑み、適用範囲(対象者)を設定することが肝要だと同社は指摘する。

同社ではテレワークの実施段階を6つのレベルに分けており、2019年4月に働き方改革関連法が大企業を対象に施行されて以降、多くの企業がテレワークを採用しているものの、最も多く見られるのはレベル1に相当する企業だという。

  • テレワークにおける実施段階(モデル例)

    テレワークにおける実施段階(モデル例)

国内企業のテレワークへの取り組みがうまくいかなかった要因として、同社は「課題1. 資料が自宅から閲覧できない」「課題2. ビデオ会議の品質が安定しない」「課題3. コラボレーション・ツールの使い方が分からない」「課題4. 勤務時間を正確に把握できない」「課題5. 現場の従業員がシャドーITの利用を拡大してしまう」の5つの課題を挙げている。

課題1では、従業員が必要なタイミングで必要な資料を閲覧できる環境は緊急事態であってもすぐに構築できるものではないため、テレワークを本格的に進めるには早急に優先順位を設け、必要な文書からデジタル化したり、この機会にペーパーレスを推進したりするなど、継続的に取り組む姿勢が求めらる。自社のセキュリティ・ポリシーの運用状況を確認し、場合によっては緊急措置として期間を限定した弾力的な運用も視野に入れるべきとしている。

課題2はビデオ会議システムを利用してテレワークを開始しても画面が乱れる、音声が途切れる、ハウリングで聞き取りにくいなどの不安定な状況では人は集中力を維持できなくなり、複数拠点間で会議を行う場合に不安定になるという事例も報告されている。対策としては、Webカメラをオフにして音声や資料共有の通信帯域を優先させること、音声のみ電話回線を利用することなどが考えられ、将来的には企業ネットワークの通信容量の見直しや、品質面で実績・定評のあるツールの精査をすべきだという。

課題3については、テレワークのインフラや制度をしっかりと整備してもITリテラシーの問題が落とし穴になることはよくあり、従業員のITリテラシーの向上は企業の競争力に直結する要因であり、企業には恒常的に取り組むことが求められる。今回のような緊急時にはIT部門のヘルプデスクに問い合わせが集中することも想定されるため組織内でITに詳しい人、特定のシステムに詳しい人などをあらかじめ特定しておき、簡単な使い方などは組織内で完結するような態勢を取ることが望ましく、FAQを用意してポータルに掲載したり、E-Learningやオンライン説明会などを通じて、ツールの効果的な使い方を学ぶ機会を広く提供したりすることも有益だとしている。

課題4に関しては2019年の法改正に伴う労務管理の厳格化により、裁量労働制の対象者についても健康管理の観点から「みなし労働時間」の状況を客観的な方法で把握することが義務付けられており、現在は紙の出勤簿、タイムカード、ICカードなどオフィスへの出勤を前提にした勤怠管理を行っている企業は、何らかの代替手段を検討して、適切な勤怠管理を行う必要がある。比較的短期間で利用を開始できるツールとしては、さまざまな勤務形態に対応し、ネットワークにつながっていればモバイル端末やPCから利用でき、利用者の増減に柔軟に対応できるクラウド型の勤怠管理ツールが挙げられるほか、監視と利便性のバランスを取ることの難しさはあるが、さまざまなプレゼンス管理機能を提供する関連ツールを導入し、勤怠データの証跡として活用することも考えられるという。

課題5では従業員が個人的に利用しているLINEなどのチャット型ツールを業務に利用する、いわゆるシャドーITの問題があり、平常時には原則禁止としている場合でも緊急時にはITリーダーが運用面での注意事項を従業員に発することで、急場をしのいで利用することも考えられる。また、新型肺炎を契機にしたテレワーク特需を受けて、さまざまなベンダーが一定期間のフリートライアルなどのキャンペーンを行っており、IT部門はこうした情報をいち早く押さえ、ツールの利用可否、推奨ツールの提示、利用時の注意点などについて社内に向けて積極的に発信し、シャドーITがやみくもに広がらないように注意を払うことが重要だとしている。