海外メディアにより、「ティーバッグの袋から多量のマイクロプラスチックが溶け出す」という報道がありました。理論的には体に入っても無害とのことですが、なんだか気持ち悪いような。「マイクロプラスチックってなんだろう?」に続き、高分子材料技術者の並木陽一さんに聞いてきました。

  • ティーバッグからマイクロプラスチックは溶け出す?

ティーバッグのマイクロプラスチックは大丈夫か

今回は「ティーバッグからマイクロプラスチックが溶け出したお茶などを飲んでも健康被害はない」ことについて、詳しく説明していただけますか?

並木さん 「マイクロプラスチックは微粒子であり、お湯に溶けるのではなく放出されるものです。プラスチック製ティーバッグを95℃のお湯に入れても微粒子の形を保っているということは、ヒトの体内温度で融解して液体となり吸収されることはありません。また、有害な添加剤が含まれているプラスチックがティーバッグに使われることもありません」。

なるほど、そういうことですか。また前回、「海洋に漂うマイクロプラスチックの表面に有害物が付着するケース、マイクロプラスチック化以前に、そのプラスチックに有害な添加剤が含まれている場合」が問題と教えてもらいました。ティーバッグ紅茶に含まれるマイクロプラスチックは有害ではないのです。

生分解性プラスチックとは

安全だというお墨付きをいただきましたが、そういえばお茶やだしのパックの素材には、紙のほかナイロンや環境負荷が少ないとされる生分解性プラスチックなどがあります。それぞれどんな特徴があるのでしょうか?

並木さん 「ティーバッグの主な素材は、紙やポリプロピレン・ポリエステル・ナイロン(ポリアミド)などの一般的なプラスチック、そして生分解性プラスチックです。ポリプロピレンは胃の中で塩酸による分解がほとんどありません。ポリエステルとナイロンは微量が分解されて人体に吸収されるかも知れませんが、動物実験の結果から問題はないと言えます。

紙や生分解性プラスチックは消化・吸収される可能性が高いと思いますが、生分解性プラスチックについては、日本バイオプラスチック協会により毒性の上限が定められています。いずれにしても、一般流通しているティーバッグから放出されるマイクロプラスチックについて心配することはありません。

強いて言えば、この5つの素材のうちでは、原理的にはポリプロピレンが最も人体への作用が小さいと思います」。

海洋汚染におけるマイクロプラスチックのイメージから、マイクロプラスチック自体が危険なものと思いがちですが、知識をアップデートしなければ。

紙素材は天然だから安全は本当?

ところで、紙=天然素材で安全というイメージが強いですが、紙粉が溶け出す問題もあり、紅茶バッグはつなぎ目部分の接着剤の材質も気になります。

並木さん 「ティーバッグの素材で、ここに挙げた紙以外のものは熱で融着して袋状にすることができます。紙ではそれができないため、糸で縫ってあったり折りたたんで針金で止めてあったりするので、見れば紙製と分かります。紙の一部にプラスチックを染み込ませて熱融着しているものもあります。

地球環境のためには、袋の素材がマイクロプラスチックになりにくい紙や生分解性プラスチックのものを選ぶのが良いということになります。しかしこれは使用済みのティーバッグを海などに捨てる場合の話です」。

海洋投棄を前提に素材を開発する、選ぶというのもおかしな話ですが、プラごみのうちリサイクルされるのはわずかで、海に流出するものもあると聞きます。

また、一般的なプラスチックなら生産過程での環境負荷が小さいのではないか、紙は樹木の伐採・運搬などによる環境負荷が大きいのではないかといった説もあります。

絶対的正解がないのに世界規模のプラスチック危機は待ったなし。プラ削減どころか、ごみを出さないシンプルな暮らしを目指し、できることから取り組んでいきましょう。

取材協力:並木陽一(なみき・よういち)

高分子材料技術者。東京農工大学工学部繊維高分子工学科卒業後、6社の企業を歴任しプラスチック・接着剤・ゴム・フィルム関連の研究開発に従事。接着剤メーカー在職中に光硬化性樹脂の研究で博士(工学)を取得。また、大学非常勤講師を兼任し、材料・接着・分析の3つの授業で講義している。