民放キー5局の4月改編情報が12日、出そろった。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、例年行われていた説明会が全局中止・延期となる異常事態となったが、配布資料と取材を元に傾向を読み解いていく。

  • (上段左から)日本テレビ、TBS、テレビ東京 (下段左から)テレビ朝日、フジテレビ

■世帯視聴率10%超の番組も終了

今回の改編で最も大きなインパクトとなるのが、視聴率指標の「世帯」から「個人」への移行。家族全員がお茶の間でテレビを見る時代から続いてきた測定方法を、現状に即したものに変えることで、テレビの広告価値をあらためて訴求していく施策だ。

これにより、今まではテレビ視聴の多くを占める高齢層が1人でも見ていたら「世帯」の視聴率にカウントされていたが、若年層やファミリー層など他の年代も含めて多くの人数に見てもらわないと、「個人」の数字がより伸びない構造になる。

各局の改編資料では、テレビ朝日以外の4局が「個人視聴率」に言及しているが、この対策を今回の改編で特に反映しているが、日本テレビとTBSだ。

すでに19年から社内指標を個人に移行している日テレは、「潜在コア層」(在宅している若年層)の掘り起こしを目指し、日曜午前帯を改編。同層に高い支持を得ている『シューイチ』『ニノさん』をそれぞれ30分拡大し、今月8日の放送でも世帯視聴率10.0%(ビデオリサーチ調べ・関東地区 ※以下同)を獲得している『誰だって波瀾爆笑』を終了させる。

また、水曜19時台に投入する『有吉の壁』も、この戦略の象徴的な番組。近年、平日19時台は、生活に役立つ、情報性の高い番組を編成する傾向にあったが、ここに「あえて純度100%“お笑い”番組の編成にチャレンジします」(田中宏史編成部長)。この枠も、現在放送されている『衝撃のアノ人に会ってみた!』が、直近の2月26日の放送で世帯10.4%(2時間SP)をマークしているだけに、大きな決断だ。

TBSは、月曜のゴールデン・プライム帯(19~23時)をすべて改編。その中でも、22時台に置く『CDTVライブ!ライブ!』は、土曜深夜の『COUNT DOWN TV』ブランドを生かした“生放送の音楽番組”という、近年の新番組では他局を含めても見られないチャレンジになる。

同局は、従来から「ファミリーコア(男女13~59歳)」層をターゲットとした番組づくりを重視。『マツコの知らない世界』『東大王』『水曜日のダウンタウン』『モニタリング』『櫻井・有吉 THE夜会』『炎の体育会TV』『ジョブチューン』『坂上&指原のつぶれない店』といった番組でのファミリーコア層の支持上昇の勢いを、月曜にもつなげたいとしている。

一方、この3月で終了する番組に目を向けると、『名医のTHE太鼓判!』(TBS)、『名医とつながる!たけしの家庭の医学』(テレ朝、ABCテレビ制作)と、健康系の番組が2つ同時に終了する。このことからも、若年層開拓・ファミリー層取り込みの流れが捉えられる。

■複数の“お笑い第7世代”がメインでMC

若年層へのリーチ強化に伴って今回目立つのが、“お笑い第7世代”の躍進である。日テレでは、EXIT、3時のヒロイン、霜降り明星、ハナコによるバラエティ番組『第7キングダム』(毎週日曜12:45~13:15 ※関東ローカル)がスタート。「コントキャラ」×「ロケ企画」というコンセプトで、こちらも『有吉の壁』同様に純度の高いお笑い番組となる。

一方、TBSでは、霜降り明星、ミキ、EXITがMCを務める『霜降りミキXIT(しもふりみきじっと)』(毎週月曜23:56~)がスタート。こちらはゲストを招いたトーク番組だが、MC6人だけの企画コーナーも計画されているという。

このような複数のコンビ、トリオによるバラエティは、『めちゃ×2イケてるッ!』『はねるのトびら』などフジテレビのお家芸だったが、“第7世代”で将来ゴールデン進出という道をたどることはできるのか。フジも、“第7世代”を意識した不定期放送の『7G~SEVEN GENERATION~』(さや香、さすらいラビー、四千頭身 / Snow Man)のほか、3時のヒロインを筆頭とした月1回の『ウケメン』とトライアルを続けており、今後の推移に注目したい。

■地上波番組と配信のさらなる連携強化

ほかにも、各局が注力することを表明しているのが「配信戦略」。日テレ『有吉の壁』について、田中編成部長は「配信でも楽しんでいただける内容を考えております」としている。

AbemaTVを持ち、すでに深夜帯を中心にさまざまな番組で地上波とのコラボレーションを進めているテレ朝は、この連携を一層強化すると説明。さらに、昨年12月に発表した定額課金型の新たな動画配信サービスとも連動し、「テレビの前の皆さまに楽しんでいただくことはもちろん、配信でも楽しんでいただけるようコンテンツのさらなる充実を図っていきます」(榊原誠志総合編成部長)と意欲を示した。

FODを展開するフジは「地上波番組をより多くの視聴者に届け、総合的な視聴リーチを拡大していくため、配信との連携を強化したトータル編成を仕掛けていきます」(齋藤翼編成部長)といい、これも若年層の取り込みを意識した取り組みであると説明。これまではドラマを中心に配信戦略を進めてきたが、他のジャンルでも積極的に進めていくとしており、「鋭意企画している最中なので、楽しみにしていただければ」(同)と予告している。

そんな中、テレビ東京は、テレビが動画を作る『内村のツボる動画大賞』(月1回火曜18:55~)をスタート。テレビから離れがちの若年層の獲得や、配信を含めた広がりに期待を込めた番組となっている。


4月からは、NHKの地上波同時配信サービス「NHKプラス」が本格スタート。民放各局も組織を作り、TVerで夕方ニュース番組の同時配信実験を行うなど、準備を進めている。これも、若年層へのアプローチとして有効な手段であり、それに応じたコンテンツが求められることになるだろう。

現場の制作者は、20~40代が多くを占めているが、これまで「健康」「生活情報」など高齢層向けのネタを要請されていた彼らが、若者向けの番組を作りやすい環境になることによって、モチベーション向上につながるという声もある。この改編が、テレビに再び活気が訪れるターニングポイントとなることを期待したい。