会社員にとって、確定申告はあまりなじみのないものでしょう。しかし、転職や退職をした人は、確定申告が必要になることがあるのです。本稿では、転職・退職した人が確定申告をしたほうがいい具体的なケースについて解説します。
転職や退職をした人で確定申告したほうがいいケースとは?
会社員は、基本的に確定申告が不要です。それは、会社の源泉徴収と年末調整によって納税手続きができるためです。しかし、医療費控除や雑損控除、住宅ローン控除などを受けるためには、確定申告が必要です。これらの控除は、会社の年末調整では申告ができないのです(住宅ローン控除は、2年目以降は年末調整できる)。また、給与所得が2,000万円を超える人や、2ヶ所以上から給与所得を受け取っている人、給与所得と退職所得を除く所得の合計が年間20万円を超える人などは、確定申告が義務付けられています。
実は、これら以外にも会社員が確定申告をしたほうがいいケースがあります。それは、転職や退職をした場合です。では、転職や退職した人で、どのようなケースに当てはまれば確定申告が必要なのでしょうか。
■年末調整を受けていない
年末調整は、年末の時点で在籍している会社で行われます。たとえば、会社を退職し、年末には別の会社に在籍していた場合は、転職先の会社で年末調整ができます。このケースは、確定申告をする必要はありません。
しかし、転職活動をするために会社を退職し、年末にどこの会社にも在籍していなかったなら、年末調整をすることができません。そのようなケースは、自分で確定申告をしましょう。確定申告をすることで、源泉徴収で納めた税金が還付される可能性があります。
また、転職活動中、国民年金や国民健康保険などの社会保険料を納めたなら、社会保険料控除を受けることができます。生命保険料控除なども同時に申請できますので、これらの控除証明書を用意して確定申告を行いましょう。
■転職先で年末調整をしたものの、前職の源泉徴収票を提出していない
転職先の会社で年末調整を行ったとしても、前職の源泉徴収票を提出していない場合は、確定申告が必要となります。転職先の会社で年末調整をしてもらうにしても、自分で確定申告をするにしても、前職の源泉徴収票は必ず必要になります。無くしてしまうと、前職の会社に連絡をして再発行してもらわなければなりません。そのような手間をかけないためにも、源泉徴収票が交付されたら大切に保管しましょう。
■「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
他にも、「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに退職金を受け取った場合も、確定申告の必要が生じます。退職金は退職所得に該当し、原則として、源泉分離課税となります。「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すれば、ほぼ正確な金額の納税手続きが完了しますので、確定申告は不要です。
しかし、この申告書を提出していない場合は、一律で退職金として支払われる金額の20.42%の所得税(復興特別所得税を含む)が源泉徴収されています。退職金は、他の所得より控除される割合が多いため、このままだと税金を納め過ぎていることになります。確定申告をして精算を行い、多く支払っている税金を取り戻しましょう。
■その年の所得が少なく、控除額が多い
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していても、確定申告したほうがいいケースもあります。その年に受け取った給与が少なく、所得控除を給与所得から全て控除できないような場合です。その場合、退職所得を申告することで、残った控除分を退職所得から差し引けるようになり、源泉徴収された税金の一部を取り戻せる可能性があるのです。
他にも、事業所得や不動産所得があり、赤字が出ている場合も確定申告をしたほうがいいケースがあります。退職所得を申告すると、それらと損益通算ができるため、源泉徴収された税金が戻ることがあるからです。
各種控除がないか確認してみよう
転職や退職をした人は、一律に確定申告が必要、もしくは不要ということはありません。年末調整をしていなければ確定申告をすることになりますが、年末調整をしていても、先述の通り、場合によっては確定申告が必要です。退職金を受け取った時も同様に、各個人の事情を考慮に入れ、申告の必要性を判断しましょう。
なお、転職に際して確定申告をする必要がなかったとしても、その先は、一般の会社員と同じように各種控除による還付を受けられる可能性があります。「転職に関して確定申告をやらなくてよかったから、もう自分には関係ない」とは思わず、申請できる控除がないか確認してみましょう。
申告が必要なら忘れず手続きを
2019年分の確定申告の受付は、新型コロナウィルス感染症の影響により、期間が2020年2月17日~4月16日までと、例年より1ヶ月延長されています。ただし、会社員などの還付申告は、控除が発生した翌年の1月1日から5年間、受け付けています。申告すべきと判断したら、必要書類等を準備して忘れずに確定申告を行いましょう。