プラスチック削減が世界的に叫ばれています。でも、正直に言うとプラスチックって何が問題なんだろう。それに、そもそもプラスチックのことをほとんど知らないな……。これはそんなあなたのための読み物。全3回でしっかり学んで、できることから始めませんか。
海洋プラスチックごみ
「海洋プラスチックごみ」の問題をなんとなく聞き知っている人は少なくないでしょう。筆者も環境問題には敏感なつもりなのに、プラスチックの何が問題で、どんなことに気を付ければいいのかが分かりません。
折しも、「プラスチック製ティーバッグから、何十億ものマイクロプラスチックが放出される可能性がある」という外国メディアの報道を見て動揺。
海の生き物だけでなく人間にも健康被害が? とパニックになって調査を開始したところ、ある有識者に尋ね当たりました。高分子材料技術者の並木陽一さんです。
社会人学生が多い通信制大学の面接授業で、化学が専門でない人向けに講義を行う非常勤講師でもあるため、お話はさすがの分かりやすさ。
本題の紅茶のプラスチック問題の前に、まずは世界的に問題となっているプラスチック問題について教えていただきましょう。こういうことはむやみに恐れず、正しい知識を得ることが肝心ですよね。
マイクロプラスチック問題
改めて、マイクロプラスチックについて、簡単にご説明いただけますか?
並木さん「プラスチック製品を海洋投棄(筆者注:河川経由の投棄も同様)すると、太陽光などにより劣化し強度が低下します。さらに波にもまれて崩壊し、多数の微粒子になったものがマイクロプラスチックです。プラスチックがボロボロになり微粒子化することで表面積の合計が大きくなり、さまざまな物質が付着しやすくなります。
また、魚の体内に蓄積しやすいという問題も。有害な物質が表面に付いたマイクロプラスチックを魚が飲み込むと、体内にその物質が蓄積されます。魚は有害物質で汚染された水の中にいればそれを体内に蓄積します。そのとき、マイクロプラスチックは有害物質を集める媒体となり、魚の体内での蓄積を早めてしまうのです」。
それは大変。その魚を私たちが食べてしまったら……! プラスチック、やっぱり怖いですね。
ソフトビニールという素材
並木さん「ソフビを知っていますか? 正式には『ポリ塩化ビニル』という素材で、本来は硬いものです。これを軟らかくする添加剤を加えたものが『ビニール』と通称され、人形などの形に中空成形したものが『ソフトビニール(ソフビ)』と呼ばれます。
通常の使用では問題ないものがほとんどですが、もしヒトが飲み込むと体に悪い影響を及ぼすかもしれない添加剤を含むものがあります。もしこれが海洋投棄されマイクロプラスチック化して魚の体内に微粒子として蓄積すると、その微粒子の量に応じた添加剤が魚の体内に拡散する心配があるのです」。
そういえば、レジ袋のことを「ビニール袋」と言いますが、あれはポリエチレン製ですね。ポリエチレン製なら「ポリ袋」であり、「ビニール袋」と呼ぶのは間違いなのか。
プラスチックについては、身近すぎて逆に知らないことだらけ。人類が生み出した万能素材のはずのプラスチックにより美しい海が汚染され、私たちの健康に影響があるかもしれないなんて。正しい情報を集め、整理し発信していかなければ。
次回の第2回では、いよいよ紅茶バッグのプラスチック問題についての情報です。
取材協力:並木陽一(なみき・よういち)
高分子材料技術者。東京農工大学工学部繊維高分子工学科卒業後、6社の企業を歴任しプラスチック・接着剤・ゴム・フィルム関連の研究開発に従事。接着剤メーカー在職中に光硬化性樹脂の研究で博士(工学)を取得。また、大学非常勤講師を兼任し、材料・接着・分析の3つの授業で講義している。