マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2月より予備選がスタートした、アメリカ大統領選挙について語っていただきます。
2月3日のアイオワ州を皮切りに、米大統領予備選がスタートしました。共和党の指名候補は再選を目指すトランプ大統領で決まりでしょう。一方、民主党には他を圧倒する候補は存在せず、指名候補選びは混戦が続く可能性があります。金融市場において、今年最大のテーマとされる米大統領選挙がどう展開するのか、興味深いところです。
予備選のルール
党の正式な大統領候補になるためには、夏の党大会に参加する代議員の過半数の支持を得る必要があります。代議員は人口に応じて各州に割り当てられており、特定の候補の支持を表明します。予備選では有権者が代議員を選出する間接選挙の形を取ります。
そうした一般の代議員と別に公職者などからなる特別代議員がおり、特別代議員は特定の候補の支持を表明する必要がありません。2020年の民主党の場合、一般の代議員は3,979人、特別代議員は771人、合計4,750人おり、過半数は2,376人以上です。
アイオワとニューハンプシャー
最初のアイオワ州ではブティジェッジ前サウスベンド市長が1位、僅差でサンダース上院議員が2位。翌週のニューハンプシャー州では順序が逆になりました。2州の予備選を終えて、ブティジェッジ氏が獲得した代議員は22人、次のサンダース氏が21人、3位以下は、ウォーレン上院議員(代議員9人)、クロブシャー上院議員(同8人)、バイデン前副大統領(同6人)と続きます。
台風の目となりうるブルームバーグ前NY市長は参戦が遅れたため、現時点での獲得代議員はゼロです。もっとも、2つの州を終えてトップに立つブティジェッジ氏でさえ党指名に必要な代議員数の1%しか獲得していません。
スーパーチューズデー
3月3日のスーパーチューズデーには、カリフォルニア州やテキサス州など大票田を含む14州で予備選が開催され、上述の一般の代議員のうち約3分の1が決まります。そのため、スーパーチューズデーの結果を受けて予備選の行方がある程度見えてくるかもしれません。ただし、勝者による総取り方式の共和党と異なり、民主党は得票率による比例配分方式が主流なので、接戦が続けば獲得代議員数にあまり差がつかない可能性もあります。
競争による党大会
予備選終了時点で過半数の代議員を獲得した候補がいれば、民主党大会(2020年は7月13~16日ミルウォーキー)における代議員による投票は形式的なものになります。しかし、どの候補も過半数を獲得していなければ、投票は真剣勝負となり、過半数の代議員を獲得する候補が出るまで投票が続けられます。これを「競争による党大会」と呼びます。また、脱落した候補を支持した代議員が次にどの候補を支持するかといった話し合いが行われるため「周旋による党大会」とも呼びます。
民主党で最後に「競争による党大会」となったのは1984年。ただ、この時はモンデール候補が代議員の過半数にわずかに届かなかっただけで、投票1回目で早々に指名を獲得しました。「競争による党大会」の事実上の最後は1952年とされています。民主党は避けたいでしょうが、68年ぶりに本当の「競争による党大会」が実現するかもしれません。
競争による党大会なら市場の反応は?
7月の民主党大会が「競争による党大会」となれば、11月の本選挙で民主党候補は共和党候補(≒トランプ大統領)に対して不利な状況に追い込まれそうです。党内でまとまっていないことが明らかになり、民主党候補同士が攻撃し合うので、指名された候補が手負いとなったり、共和党に攻撃材料を与えたりするからです。党大会から本選挙まで3カ月半しかないため、十分な選挙運動ができないかもしれません。
一方、トランプ大統領は大統領選挙に向けて着々と手を打っているようにみえます。昨年末には貿易協議の第1段階で中国と合意し、1月に正式署名。2月4日に「為替操作国」に対する懲罰的関税のルールを制定し、14日にはEUからの輸入航空機に対する関税を引き上げる意向を表明しました。また、9月には中間所得層向け減税を打ち出すとも報道されています。
民主党が候補者選びでもたつくほど、トランプ大統領の再選確率は上昇するでしょう。トランプ政権下で高値更新を続けてきた株式市場はそれを好感しそうです。一方で、大統領の言動に振り回されてきた外国為替市場はどう反応するでしょうか。