世界最大級のガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル2020[冬]」では、デジタル造形が広げる表現の可能性に焦点を当てた講演も多数行われ来場者で賑わっていた。
ここでは、そのうちワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた、福井信明氏による「VR&ZBrushそしてポーズも表情も自由自在! ましてフルカラー3Dプリント!」の模様をレポートしよう。
VRモデリングはシンプルで習得が容易!?
ステージに登壇したのは、Pixologic公認ZBrush・ZBrushCoreインストラクターでもあるイラストレーターの福井信明氏。ワンフェスではおなじみの顔で、わかりやすくかみ砕いた講演内容が毎回好評を博している。今回も座席は満員で数多くの立ち見が出る盛況ぶりだった。
講演で福井氏は、VRモデリングについて「使っていて単純に楽しく、ワークフローに組み込む価値が大きい。苦手な部分もあるが、ポテンシャルは非常に高い」と説明し、テスト的に作ったというキャラクターと背景を紹介した。どちらも時間をかけて制作されているような仕上がりだったが、それぞれわずか30~40分程度しかかかっていないとのこと。
続いてVRモデリングのポイントとして、「非常に高速、スケッチ感覚でモデリングできる」、「機能がシンプルで習得が比較的容易」、「サクッとどこでも作業に入れる」の3つを挙げた。福井氏は「目の前に粘土を出して積み木のように積み上げていったり、削ったりしながら、あっという間に構造物を作っていくことができる。アイデアをすぐに立体化するという意味では、こんなに簡単で素早いモデリングツールはなかなかない」とその魅力を語った。
3DCGソフトを使い慣れていない人にとっても習得が比較的容易だそうで、講演では福井氏が開催したワークショップでVRモデリングに初めてチャレンジしたという人の作品も紹介された。そのうちの一つは、切り立った崖から水が湧き出し、雪で覆われた地面に動物の足跡がつけられているような複雑な作品だったが、その場でアイデアを出しながら30~40分で仕上げられたものだという。
福井氏は「これからZBrushを始めようと思いながら『自分にできるかな』と不安な人は、まずVRモデリングで形を作ることの楽しさを体験するのも一つの手」と説明した。
VRモデリングで制作の可能性が広がる
現状だとVRモデリングはディテールの作り込みなど苦手な部分も存在する。VRモデリングのみで完成品に仕上げるのはかなり難しいのは事実だが、ある程度の形を作るには十分な機能を持っている。そのため「うまくワークフローに組み込めば、作品制作がより楽しく、より効率的に行えるようになる」とのこと。
そこで活用したいのが「ZBrush」だと福井氏はいう。VRモデリングでざっくり作った形をZBrushできれいに仕上げたり、ディテールを作り込んだりすることで完成度を高めていくことができるからだ。
そこからさらに「Substance Painter」というソフトでテクスチャや質感を与え、「Unreal Engine 4」などのゲームエンジンに持っていくことで、映像分野での活用が可能になる。
また、ZBrushで完成度を高めたデータを3Dアニメーションツールの「iClone 7」に持って行ってポージングさせ、それを再びZBrushに取り込んでディテールを彫り直し3Dプリントすることで、フィギュア制作などに活用することもできる。
福井氏は「なかには最初からZBrushでやった方が速いという人もいるかもしれないが、多くの人にとってはこのようにVRモデリングを取り入れることが制作時間の短縮につながる」と、そのメリットを挙げた。
講演では、その応用例としてストップモーション・アニメーションへの活用方法も紹介された。VRモデリングとZBrush、iClone 7、3Dプリンタを使って少しずつポーズが異なるキャラクターのフィギュアを作り、それを撮影することで本格的なストップモーション・アニメが制作できるとのこと。
会場では実際に福井氏が3Dプリンタで出力したポーズ違いのキャラクターや、ストップモーション・アニメも披露されたが、アイデア次第ではさまざまな表現に活用できそうだ。
最後に福井氏はVRモデリングの実演も披露。「デスクトップPCでの作業だと、オブジェクトの裏に色を塗る場合は画面上で回転してペイントするなどの作業が必要になるが、VRモデリングの場合は自分がオブジェクトの裏に回り込んで色を塗ることができる。非常に直感的かつ高速にモノを作れるのがいい」とその魅力を語った。