冬から春にかけての季節は乾燥がきつく、花粉症などアレルギーの多い時期。身体や耳のかゆみも出やすくなるため、触りすぎないなど正しい知識が必要だ。そこで、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医の宮崎裕子医師に、耳垢の異常の原因や対策、適切な耳掃除の方法についてうかがった。
耳垢がたまりやすい人とは
耳垢とは、耳垢腺と皮脂腺から分泌される粘液と、剥がれ落ちた表皮や毛、外部からのホコリなどからできている。遺伝的に湿性型と乾燥型に分けられ、西欧人ではおよそ9割が湿性耳垢だが、日本人は7~8割が乾いた耳垢(乾性耳垢)だ。
「乾性耳垢のほうが自然排出されやすく、湿性耳垢は耳の中に残りやすいです。耳垢の乾湿の差は、耳垢腺の分泌物の量の差で決まっています。耳垢の成分はタンパク質、脂質、アミノ酸であり、湿性型は糖質が多く、この糖質が水分を吸収しやすいため湿性になるのです」
耳垢がたまりやすいのは先天性
耳垢はたまりやすい人とたまりにくい人がいるが、その差は生理的なものによる。つまり、たまりやすい人は生まれながらにして分泌が盛んと考えられている。
人によって量の程度に差はあるものの、定期的な耳垢そうじは2~4週間に一度の頻度で、手前側の見える範囲を綿棒や耳かきで軽くそっと掃除して終わりとなる。
耳垢が招くトラブル
耳垢は以下のようなトラブルを招くケースもある。
- 耳垢塞栓(外耳道の奥に耳垢がたまって外耳道を塞ぐ)
- 耳の痛み
- 耳閉感(耳が塞がったような感覚)
- 聴力低下
- 耳鳴り
- かゆみ
- 耳だれ
- 咳
上記のような症状が出た際や、鼓膜の検査を行う必要があるのに、耳垢が邪魔して鼓膜の状態がよく見えないときは、専門医を受診するとよい。
「高齢者や外耳道が狭い人、補聴器使用者などには耳垢塞栓ができやすいと言われています。外耳炎や中耳炎が多い人、耳垢塞栓を繰り返している人、補聴器などを使用している人は、6~12カ月ごとに専門医を受診し、確認と耳掃除をしてもらうことをお勧めします」
耳掃除後の綿棒が黄色に? 病気を疑いたくなる耳垢の特徴
耳掃除をして気持ちよく耳垢が取れたものの、その耳垢の「色」や「におい」に異常が見られたら……不安な気持ちになる人もいることだろう。そこで、注意が必要な耳垢の特徴をまとめた。
耳垢が黄色い
【疑われる疾患】外耳炎
耳掃除を綿棒でした後、綿棒を抜いたらその先端が黄ばんでいた……という経験をした人はいないだろうか。そのような人は、外耳炎に罹患している可能性がある。
外耳道がさまざまな細菌によって炎症を起こすのが外耳炎で、綿棒や耳かきでの耳掃除などで外耳道を傷つけたり、耳栓や補聴器などを使用したりしていることも、外耳炎にかかりやすくなる原因だ。
「主な症状は痛み、赤み、耳だれで、耳だれは白や黄色で不快なにおいがします。外耳道が腫れることもあり、その腫れや分泌物のかすなどで外耳道が詰まっていると聴力が低下することもあります」
【疑われる疾患】中耳炎
耳の鼓膜と内耳の間の部分を中耳と呼び、細菌やウイルスなどで炎症を起こしたものが中耳炎だ。
「中耳炎の中で最も多いのが急性中耳炎で、中耳に膿がたまることで鼓膜が圧迫されて、耳の激しい痛みや発熱などが生じます。聞こえの悪さや耳が詰まったように感じることもあり、鼓膜が破れて黄色くて臭い粘り気のある耳だれが出てくることもあります。また、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎という痛みのない中耳炎もあります。急性中耳炎の後などに鼓膜の内側に貯留液が残る病気で、聞こえが悪くなるのが特徴です」
耳垢が黒い
【疑われる疾患】外耳道真菌症
生後すぐの乳児の耳掃除をすると、黒い塊が出てくることがある。心配するは親も少なくないが、その必要はないそうだ。
「赤ちゃんの黒い耳垢は、ずっとママの羊水の中にいた影響なので、心配する必要はありません。赤ちゃんは体温が高く、よく汗をかき、新陳代謝もいいです。そのうえ、皮膚の油脂分が多いので耳垢ができやすく、茶色や黄色の耳垢が出てくることもあります」
一方で、「外耳道真菌症」に罹患している可能性もある。外耳道真菌症とは外道炎の合併症。外耳道に真菌という水虫と同じようなカビ類の菌が付着し、耳垢が白色や黒色になることがあり、このケースは耳鼻科の受診が必要となる。
耳垢が臭い
【疑われる疾患】中耳炎
乳児の耳垢がにおうのを感じた経験を持つ親もいるかもしれない。乳児は一日の大半を寝ているため、よだれや涙が耳に入ってしまったり、母乳が口からこぼれて耳に入ってしまったりすることがあり、これらが原因で臭いを発するケースがあるとのこと。
ただもしも、「においがずっと続いている」「においが強い」「膿のようなドロッとした液体が出てくる」といった場合には、中耳炎等が疑われるため耳鼻科を受診するように。
【疑われる疾患】外耳湿疹
外耳湿疹とは、外耳道に湿疹ができている状態で、綿棒での耳掃除などの刺激がきっかけとなって起こる。
主な症状は耳のかゆみで、初期の湿疹はすぐに治るが、かきすぎると余計にかゆみが増すので注意が必要。繰り返すと水のような浸出液が出たり、皮膚が傷ついた部分が細菌に感染して外耳炎が生じ、耳から不快な臭いがしたりすることもある。
【疑われる疾患】外耳道真菌症
外耳炎の一種で、真菌(カビ)の感染によって外耳道に炎症を起こしたものを外耳道真菌症という。
主な症状は痛みやかゆみ、耳が詰まったような感覚、不快なにおいなどで、痛みよりもかゆみが強く現れやすいのが特徴。真菌の種類によっては、綿のような真菌の胞子に囲まれた灰色や黒、黄色の点を生じるものや、粘度のある乳白色の分泌物が出てくるといった特徴を持つものもある。
耳垢のきれいな取り方
耳垢腺は汗腺と似ており、垢のもととなる油分を含む。耳垢は通常、耳の入り口から1cm程度の所までにとどまり、それより奥にはたまらないそうだ。
「耳垢は耳の穴から鼓膜までの外耳道を保護する役割を果たしており、完全に不要な老廃物ではありません。外耳道の上皮の動きと、咀嚼(そしゃく)やあくびの際の顎の動きなどによって、開口部に向かって徐々に移動していきます。そして自然排出されることがあるため、『しばらく待ってみる』という選択肢もありますが、掃除が必要となれば、専門医は耳鏡や顕微鏡を利用して耳垢を除去します。鉱物油やグリセリンをたらして耳垢塞栓を柔らかくしてから除去する場合もあります」
「耳掃除をするのが好き」という人もいるかもしれないが、その理由は迷走神経にあるのではないかと宮崎医師は推測する。迷走神経は耳の入り口から3cmほどの所にある外耳道に分布している神経。快感をもたらすと考えられており、この部分を刺激すると気持ちがよくなるため、頻繁な耳掃除をやめられなくなってしまう人もいるという。
だが、気持ちいいからといって耳掃除をやりすぎると、耳の病気を引き起こすこともあるため、やりすぎは禁物だ。
耳掃除をした際に何気なく見た耳垢が、思わぬ病気の「サイン」を示している可能性は十分にある。こうした耳や耳垢の異常があったら放置せず、早めに耳鼻科の診察を受けるようにしよう。
※写真と本文は関係ありません