ガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル(ワンフェス)」は、企業やクリエイターによる講演も見どころのひとつ。ここでは、2月9日に開催されたワンフェス2020[冬]ワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた講演のうち、「ZBrushとCLOが広げるデジタルファッションデザインの世界」の模様をレポートしよう。
3Dデータを使ったファッションデザインの利点
粘土をこねるようにキャラクターを造形できる直感的な操作性が人気のデジタル彫刻ソフト「ZBrush」。2019年に開催されたワンフェス2019[夏]では、同ソフトで作った3Dモデリングデータをもとに、アパレル3D着装シミュレーションソフト「CLO」を使ってパターン(服の原型)を製作する手法が解説されたが、今回はその具体的なプロセスが紹介された。
ステージに登壇したのは、文化学園大学服飾学部教授の高村是州氏と、和洋女子大学の木村知世氏、株式会社ユカアンドアルファの笛木愛美氏の3名。
講演では、まず昨年の講演のおさらいを兼ねてZBrushとCLOの連携によるファッションデザインのメリットが改めて紹介された。
通常、衣服は2次元のデザイン画をもとに製作されるが、デザイン画自体の矛盾点や素材・着装するモデルによるバランスの違いなどにより、実物が仕上がった時点で当初のイメージと差異が出てしまうという問題点がある。高村氏によれば、「ZBrushを使えばその差をなくすことができるのではないか」と考えたのが出発点だったという。
だが、ZBrushでフィギュアのモデリングデータを使って服をデザインしても、実物を製作するにはいったんパターン(衣服製作のための型紙)に展開する必要がある。そこで登場するのが、着装シミュレーションソフトのCLOだ。CLOを使えば、ZBrushのデータを読み込んで生地の素材をシミュレーションしたり、パターンに展開したりすることができる。
ZBrushとCLOを連携して衣服をデザイン
今回のZBrushとCLOの連携は、次の手順で行われた。
まずデザインのアイデア(今回は、60年代のサイケデリックスタイル風ワンピース)を決めたあと、CLOのアバターをZBrushで読み込む。その際、各パーツがバラバラに分離した状態になるので結合しておく。
続いて、ZModelerで土台となるワンピースのデザインを考えながらモデリングを行う。さらにワンピースに加える装飾(今回は立体的な花柄)のIMM(インサートマルチメッシュ)ブラシを作成し、ワンピース上をドラッグしながら花柄を配置。仕上げにベルトをデザインして胴回りにあしらっておく。
あとはアバターをモデリングしてポーズをつければ、オリジナルデザインの衣服を着たフィギュアデータの完成だ。
次に、この衣服のデータをCLOに取り込んで実際に着装するモデルのサイズにグレーディング(パターンを調整)する。その際、それに合わせて花の位置も調整しておく。
続いて衣服に使用する素材や花びらのつき方などをシミュレーションして検討したあと、実際の衣服製作に移る。
2Dのデザイン画をベースに衣服を製作する場合だと試作を行いながらデザインを検討するため廃棄物が出てしまうが、ZBrushとCLOの組み合わせなら廃棄物を出すことなく画面上で確認しながらデザインを詰めていけるのが大きなメリットだ。
いよいよ実物の衣服を製作!
CLOでサイズや素材などの調整を行ったあと、実物製作を開始する。大まかな手順は次の通り。
まず、CLOでパターン展開をしたあと、実際に着装する時と同様にパニエをはかせた状態でフィッティングを行い確認。続いて裏布用のパターンを製作したら、パターン通りに表布と裏布を裁断。さらに芯貼りや印付けをしたあと、縫製を行い、土台となるワンピースを仕上げる。
次に、花柄の製作に移る。ZBrushのデータをもとにCLOで花の種類や大きさ、数を整理したら、パターンを組み立てた状態で個々の花の配置を確認する。さらに花びらや花芯の素材などを検討し、各花の位置をワンピース上にマーキングする。
造花屋に造花の製作を依頼し、納品された造花をマーキングした位置に合わせて縫い留め、ファスナーやホック、ベルトなどをつける。最後にモデルフィッティングを行い、撮影用モデルが着用できるか確認すれば完成だ。
講演ではZBrushのデータをもとに3Dプリンタなどを利用して製作したフィギュアと、CLOを利用して製作した衣服が並べて紹介されていたが、フィギュアの世界観がそのまま再現されているのが印象的だった。自作コスプレなどにも大いに活用できそう。高村氏によると、今後もより複雑なデザインでZBrushとCLOの連携を検証していくそうなので楽しみにしたい。