「2020年のMacを考える」シリーズ。第1回「iMacをどうするのか問題」、第2回「13インチMacBook Proをどうするのか問題」に引き続き、第3回はMacにまつわるイノベーションの可能性について、短期的な期待と予測を考えていこう。

  • Macは、コンピュータたるMac本体のみならず、ディスプレイも合わせた進化を続けていくとみられる

    Macは、コンピュータたるMac本体のみならず、ディスプレイも合わせた進化を続けていくとみられる

改めて、今回のシリーズの目次を再掲しておきたい。今回は、第1回のiMac、第2回のMacBook Proにも深く関係する話となる。

  • 最後までレガシーなアーキテクチャが残っているiMacをどうするか?
  • 13インチMacBook Proの処遇
  • Macの次のイノベーションはどこにあるのか?
  • 新しいインターフェイスの可能性

ディスプレイ技術の最先端を走るApple Watch

現在のMacのラインアップを見渡してみると、2つに分類できる。ディスプレイを持たないMac Pro、Mac miniと、ディスプレイを備えるiMacシリーズ、MacBookシリーズだ。

ちなみに、Apple製品全体で分類してみると、次のようになる。

▼ディスプレイなしの製品

  • Mac Pro
  • Mac mini
  • Apple TV
  • AirPodsシリーズ
  • Apple Pencilシリーズ
  • EarPods
  • ケーブル類
  • ケース類

▼ディスプレイを搭載する製品

  • iMac Pro
  • iMac
  • MacBook Pro
  • MacBook Air
  • iPhoneシリーズ
  • iPadシリーズ
  • Apple Watch
  • iPod touch

このように分類すると、「ディスプレイの進化がMac、iPhone、iPadを含む主力製品のイノベーションに直結する」ことが分かる。

時計、電話、プロ向けモニターのそれぞれで進むディスプレイ進化

面白い、というより当然というべきだが、Appleの製品で最も小さなディスプレイを備えるApple Watchが、ディスプレイ搭載製品のなかで最も進んだディスプレイ技術を実現している。

  • Apple製品のなかで最新のディスプレイ技術をいち早く取り入れているのが、もっとも小さなパネルを備えるApple Watchだ

Apple Watchは、有機ELディスプレイを2015年の発売当初から採用し、有機ELディスプレイはその後iPhone Xでも採用された。しかし、iPadやMacにはまだ有機ELディスプレイは搭載されていない。

Apple Watchは、2018年のSeries 4でマイナーチェンジし、LTPO(低温ポリシリコン酸化物)有機ELディスプレイを採用した。この技術はアップルの特許技術となっており、いわゆるLTPS液晶とIGZOパネルのいいとこ取りをし、有機ELディスプレイを製造したものだ。

新技術と電源管理の向上によって省電力性を高めたことで、2019年発売のApple Watch Series 5では同じ18時間のバッテリー持続時間を維持しながら「常時点灯ディスプレイ」を実現した。おそらく、有機ELディスプレイに統一される2020年9月のiPhone新モデルでも、同様の仕様が採用されることになるはずだ。

  • 最新のApple Watch Series 5は、これまでのLTPO技術を盛り込んだ有機ELパネルを継承しつつ、改良により省電力と常時点灯を両立した

そのiPhoneに目を移すと、Apple Watchとは異なるディスプレイの進化が進んでいる。2017年にiPhone Xで有機ELディスプレイを初めて採用した際には、「Super Retina」ディスプレイと名付け、100万:1の高コントラストなどディスプレイ技術の特性をアピールしつつ、有機ELディスプレイの課題だった画面の焼き付きをAppleの独自のコントロールによって軽減している。

2019年のiPhone 11 Proに搭載した有機ELディスプレイは「Super Retina XDR」と名付けて、コントラスト比200万:1、最大輝度1200ニトを実現した。

この「XDR」というキーワードは、2019年6月に発表されたMac Proと組み合わせる「ProDisplay XDR」が初出だ。こちらは液晶ディスプレイながら100万:1ものコントラストを実現し、拡張ダイナミックレンジを描き切る32型の6Kリファレンスモニタとして格安の存在となった。

ProDisplay XDRでは、バックライトとして576個のLEDを配置し、表示する画像に合わせて輝度を可変させる仕組みとした。液晶ながら、黒の表示ではバックライト自体を暗くし、より暗く深い黒を再現できるようになった。

  • ProDisplay XDRの仕組み。576個ものLEDバックライトを細かく制御することで、コントラストを格段に高めている

近年のディスプレイ技術の採用状況を見ていると、Appleが取り組んでいるディスプレイの方向性が見えてくる。

  • Retinaディスプレイにより、4K~6Kの高い解像度を備える
  • 広色域P3のサポート
  • 100万:1以上のコントラスト比を持つディスプレイに「XDR」の名称を付与し、プロ向けディスプレイの標準とする
  • 有機ELパネルの採用、もしくはローカルディミングに対応するミニLEDバックライトの採用により、XDRを実現する

これらと照らし合わせると、特にProモデルについて、解決すべきディスプレイの課題が浮かび上がる。

  • iMac Pro/iMacのXDR対応
  • iPad ProのXDR対応
  • MacBook Proシリーズの4K/5K、XDRへの対応

そして、これらの問題の解決方法は、それぞれ異なるかもしれない。

有機ELをMacに採用するか?

WindowsノートPCを見ていると、有機ELディスプレイを搭載するモデルが増えてきた。ビデオ編集でより高いダイナミックレンジが必要なユーザーにとって、有機ELディスプレイ採用のノートはモバイル編集環境を手に入れるうえで待望の存在といえる。

処理能力だけでなく、ディスプレイでも、MacBook Proは映像関連のプロから選ばれにくい状況が生み出されてしまっている。Appleとして、ここに答えを出すには、MacBook Proへの有機ELディスプレイ採用が、現在ある技術を考えると妥当と言える。それは、iPad Proにも共通していることだ。

しかし、有機ELディスプレイには常に価格の問題がつきまとう。Appleは、韓国Samsungに加えて韓国LGも有機ELパネルのサプライヤーに加えているが、さらに中国企業のBOE Technology Groupからの供給を目論んでおり、韓国勢に対する値下げ圧力を強めようとしている。

あとは、ほぼ常に上部にメニューバーがあるMacの画面構成を前提に、いかに画面の焼きつきを防ぐか、という技術的な問題を乗り越える必要がある。そのため、Macへの有機EL採用はまだまだ流動的とみるべきかもしれない。

では、画面を分割してLEDバックライトを制御するProDisplay XDRの方式でコントラスト比を向上させようとするとどうなるか。今度は、発熱との戦いが問題となる。当たり前だが、ライトを明るく焚けば、さすがのLEDでも熱が問題となる。そのため、ProDisplay XDRは背面に特徴的なラティスパターンを備え、排熱機構にこだわった。

  • Pro Display XDRの背面。放熱効果の高いアルミを外装に用いつつ、さらに排熱のための大きな穴を無数に開けている

iMac Proでは、ProDisplay XDRのようなボディデザインと新しい排熱機構を備え、コントラスト比を向上させる手法を採るかもしれない。しかし、本体をできるだけ薄く留めたいMacBook Proではこの方法が取れず、現状では有機ELディスプレイのほうが現実的といえる。

ディスプレイ技術のブレークスルー待ち?

つまり、現状の問題を一挙に解決する方法がなかなか存在していないのが現状だ。そのため、AppleはマイクロLEDへの研究開発と投資を行っている。

マイクロLEDは、手法としてはProDisplay XDRと同じようにLEDバックライトの制御を行うのだが、画面のエリアを1万以上に分けて細かく管理することで、より小さなデバイスで発熱を抑えながら高コントラストのディスプレイを実現することができるアイディアだ。

特に注目すべきは、Foxconnグループが傘下に収めたシャープとJOLED(ジェイオーレッド)の動きだ。Foxconnはご存知のとおり、Apple製品の組み立てを担当するサプライヤーとして最大手であり、関連技術を持つ企業の買収や、米ウィスコンシン州に次世代ディスプレイ工場の計画を立ち上げるなど、ディスプレイ技術への投資を活発化している。JOLEDは、Appleも緊急融資に参加したJDI(ジャパンディスプレイ)を中心とし、有機ELの開発から撤退したソニー、パナソニックも出資して立ち上げられた官民連合の企業だ。

シャープは有機ELディスプレイの量産を開始しているほか、JOLEDも主流の蒸着方式より安価な印刷方式の有機ELディスプレイの開発に取り組んでいる。ただし、JDIと同様にJOLEDも資金面が脆弱であること、開発に長期間を要していることから、Appleが有機ELをスキップするか、短期間のみの採用にとどめ、マイクロLEDを本命とするディスプレイ変革の道筋を計画している可能性もある。(続く)