ソニーが新たなプラットフォーム「Sony Creators Gate」を立ち上げました。次世代を担う若きクリエイターたちの、独創的なアイデアを育むことが目的です。24歳以下の学生を中心としたクリエイターのアイデアを短期間に具現化する「U24 CO-CHALLENGE 2020」など、プラットフォーム上で展開される3つのプログラムの記者説明会が開催されました。
意欲と才能のある若いクリエイターをソニーが支援
2018年4月に吉田憲一郎氏が社長に就任して以来、ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というミッションを経営理念に掲げてきました。ソニーとして新たな製品やサービスを開発・販売して世の中に貢献するだけでなく、次世代を担う有望なクリエイターを見つけて、ソニー独自のノウハウを提供しながら育てる活動が、Sony Creators Gateの概略です。
新しくスタートしたSony Creators Gateには3つのプログラムがあります。そのひとつ「U24 CO-CHALLENGE 2020」は、24歳以下の学生を中心としたクリエイターとソニーが共創しながら、アイデアを具現化するプログラムです。
2019年11月に募集した331グループ計532名、約400件のアイデアから選抜を勝ち抜いた12グループ・24名の参加者が、次のステージとして約1カ月半のカリキュラムを受講。それぞれのアイデアをブラッシュアップした後に、3月24日に実施を予定している最終プレゼンテーションの場で1組の「グランプリ」、2組の「準グランプリ」が決定されます。
「U24」の参加者を育成するプログラムの内容は、これまでにスマートウォッチの「wena wrist」やスマートトイの「toio(トイオ)」など、数々のスタートアップを創出して事業化を支援してきたソニーの「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」のノウハウがベースになっています。
若いクリエイターがアイデアを創る段階から、それを具現化して、さらにプレゼンテーションによって魅力を伝えるところまで、ソニーが培ってきた膨大なノウハウが惜しみなく提供されるそうです。SSAPの責任者を務める小田島伸至氏も「才能と意欲を持った人をいち早く世の中に出せるように、SSAPもあの手この手で若いクリエイターの方々をサポートしていきたい」と話しています。
外部の著名アドバイザーも参加を表明
プログラムのアドバイザーにはSSAPのスタッフだけでなく、社外からも集います。Think the Earthのプロデューサーである上田壮一氏や、Whateverのチーフクリエイティブオフィサーである川村真司氏、アーティストの長谷川愛氏が参加を予定しているそうです。
プラットフォームの責任者であるソニー ブランド戦略部 統括部長の森繁樹氏は、次のように振り返ります。「Sony Creators Gateでは、ソニーが得意とするエレクトロニクスに関連するアイデアだけでなく、『ソニーのノウハウによって磨きをかけられること』を基準に多種多様なアイデアを募り、優秀なものを選抜してきました」(森氏)
記者説明会のステージには、「U24」のプログラムに参加する12グループ・24名の参加者が立ち、グランプリを目指してユニークなアイデアを全力で形にしていきたいと意気込みを語っていました。これから3月下旬までの約1カ月半という短期間に、アイデアの原型を魅力あふれる形にできるのでしょうか。ソニーの小田島氏は「SSAPが培ってきたノウハウを活かせば十分に可能」と力強く語っていました。
プログラムに参加する各チームが現在どんなアイデアを形にしようとしているのか、今回の記者説明会では明らかにされませんでしたが、グランプリの結果が楽しみです。
なお「U24」以外のプログラムは、「ENTERTAINMENT CAMP」と「STEAM Studio」の2つ。ENTERTAINMENT CAMPは、中高生を対象に、シナリオライティングやダンス、映像・音楽制作の4ジャンルについて作品を募集して、プロのアーティストを育てていくプログラムです。すでに募集を終了して走り始めています。
STEAM Studioは、小学生を対象としたプログラミング教育のワークショップです。抽選方式で参加者を募ったワークショップは、2019年の好評を受けて、2020年度も開催を予定しているそうです。
ソニーと若いクリエイターのケミストリーは何を生む
世界各地を見ても、国や自治体、大手企業が主体となって、スタートアップを支援するアワードを開催したり、資金を支援している事例がたくさんあります。その多くはクリエイターへの「投資」を目的としていますが、ソニーのSony Creators Gateは少し違います。「クリエイティブとテクノロジーの力で社会に貢献していくという、ソニーの存在意義をまっとうするためのものであり、自社のビジネスに対するフィードバックを求めるものではない」と、森氏は断言しました。プログラムを通じて参加者が獲得した知的財産の権利などは、すべて参加者自身に帰属することになるそうです。
ただし、「プログラムから生まれた優秀なアイデアに対してソニーが開発資金を援助したり、SSAPのスタッフたちとの交流を通して継続的なサポートを行っていく可能性は十分にある」(森氏)とのこと。「U24」はタイトルに“2020”をうたっていますので、継続した実施を検討していると森氏が述べていました。
新規に立ち上がったプラットフォームによる初めての試みということで、現在はややコンセプチュアルな説明に聞こえるのは否めません。しかし、プログラムの成果が現れてくれば、ソニーがSony Creators Gateを通じて「何をしたいのか」が見えてくるでしょう。
Sony Creators Gateの活動をひとくくりに「スタートアップ支援」と受け止めると、やや大雑把な感じがします。一方で若いクリエイターにとって、ソニーが企業として持っている潤沢なリソースを頼りにしながら、存分に想像力を発揮できるプラットフォームは、とても心強いのではないでしょうか。記者説明会のステージに立った参加者のスピーチにも熱がこもっていました。
筆者も毎年、スタートアップが数多く集まる海外のイベント(CES、MWC、IFAなど)を取材していますが、20代前後の若い出展者が驚くほど独創的なアイデアを引っさげ、ブースに立っている姿を目にしてきました。日本の優秀なクリエイターのアイデアが、もっと幅広い形で世界に羽ばたくチャンスが増えて欲しいと思っていたところの、ソニーからの吉報。今後の動向を注目していきたいと思っています。