第5期叡王戦挑戦者決定三番勝負の第1局は、角換わりの最新形から渡辺三冠が細い攻めをつないで勝利。

2月6日に東京・将棋会館で第5期叡王戦挑戦者決定三番勝負第1局(主催:ドワンゴ)の豊島将之竜王・名人-渡辺明三冠戦が行われました。複数のタイトル保持者同士の頂上対決として注目された本局は、渡辺三冠が勝利。永瀬拓矢叡王(王座も保持)への挑戦へあと1勝としました。

振り駒の結果、豊島竜王・名人が先手となり、戦型は角換わりに。近年の対局では、研究範囲までは持ち時間をほとんど使わずに凄まじいスピードで進行し、そこを抜けると突如手が止まるという光景をよく目にします。本局もそれにたがわず、序盤・中盤は猛スピードで進みました。

双方が敵陣に駒を打ち込み、もはや終盤戦の入り口という様相の60手目に、初めて渡辺三冠が20分というまとまった時間を使いました。豊島玉には横からは角が、上からは桂のくさびが入っており、さらには端も突破されて、すぐに寄せられてもおかしくない局面です。それでもなお研究範囲とばかりに豊島竜王・名人はノータイム指し。トップ棋士の準備はここまで行き届いているのかと驚かされました。

快調に飛ばしてきた豊島竜王・名人ですが、64手目を見ると手が止まりました。こんこんと考え続けること1時間54分。なんと持ち時間の3分の2をこの手への応手で投入しました。このギアチェンジも豊島竜王・名人の特徴の一つです。

こうして編み出された一手は、渡辺三冠の攻めを催促する強気なものでした。ここからは渡辺三冠が細い攻めをつなげられるか、それとも豊島竜王・名人が受け切るのか、という戦いになりました。

豊島竜王・名人の受けが強靭なのはもちろんですが、細い攻めをつなげる技術は棋界随一の渡辺三冠。盤上に攻め駒が2枚しかいない中、巧みに先手玉を包囲していきます。そして放たれた88手目の△7五歩という手が攻めを途切れさせない絶妙な一手でした。7九にいる先手玉に対して攻めが届くのは、単純に計算すると△7六歩~7七歩成~7八と、の3手後となります。この一見するとのんびりしているように思える手が、実は間に合うというのが渡辺三冠の卓越した読みでした。

豊島竜王・名人も攻防の角打ちで何とか自玉を安全にしつつ敵玉に迫ろうとします。しかし渡辺三冠は間違えません。巧妙に先手の飛車の位置をずらして受けに利かなくしてから、手にした角を打ち込んで勝負あり。106手で渡辺三冠が三番勝負の初戦を制しました。じっと△7五歩と突いた歩が、7六の地点で光り輝いているようでした。

この勝利で挑戦権獲得まであと1勝とした渡辺三冠。王将戦七番勝負、棋王戦五番勝負も並行して戦っており、大忙しです。8・9日には王将戦第3局が、13日には叡王戦挑決第2局が、そして16日には棋王戦第2局が行われます。

そして叡王戦も挑戦となると、春には叡王戦七番勝負と名人戦七番勝負を同時期に戦うことになります。当面の間、棋界は渡辺三冠を中心に回ると言っても過言ではないでしょう。

感想戦で本局を振り返る渡辺三冠