中高年のビジネスパーソンのみなさん、あなたのスマホの安全管理は万全ですか? 「まあ、大丈夫でしょ」。そんな人ほど危険だと語るのは、元埼玉県警警部補で、デジタル捜査班の班長だった佐々木成三さん。

書籍『あなたのスマホがとにかく危ない』(祥伝社)を先ごろ発売した佐々木さんは、「今、あなたが無事なのは、"まぐれ"なんです」と警鐘を鳴らします。

スマホはもはや我々の生活に必要不可欠。そんなスマホを安全に使うためには、まずは自分がいかに無知であるかを知ることが大事だそう。そこで今回は、中高年ビジネスパーソンが特に知っておきたいスマホリテラシーについて解説していただきました。

  • スマホの危険性について詳しいと思っていますか?

今すぐ見直すべきスマホのロック

まず、このデジタル社会を生きる上での前提として、「個人情報は漏れていると思っていた方がいい」と語る佐々木さん。

「えっ? でも俺はSNSはやってないし、怪しいサイトにもアクセスしてないし」。
危険なのは、その「俺は」という感覚。

「個人情報の流出元は、自分のスマホだけではありません。自分とつながっている友人知人のスマホやSNSから漏れることだって大いにあるのです。また逆に言えば、自分のスマホが原因となり、家族や友人を危険に晒してしまう可能性だってあるのです」。

これらの前提を踏まえつつ、今すぐ行うべきはスマホのロックの見直しだと佐々木さん。 「いちいちロックを解除するのは面倒だと、パスワードを設定していない人が中高年に多く見られます。個人情報の塊であるスマホにロックをかけないのは、家の玄関に鍵をかけずに外出しているようなものです。

たとえロックをかけていたとしても、簡単な英数字の組み合わせだったり、自分や家族の誕生日、電話番号といったりした安易なものにしていると、すぐに解除されてしまいます。推測するための材料は、探せばいくらでもあるのです」。

  • 元埼玉県警 一般社団法人スクールポリス理事 コメンテーター 佐々木成三さん

こうした危機管理は、リテラシーの高い人には当然のこと。しかし、独立行政法人情報処理推進機構の調べ(※)では、いまだ半数以上の人が、このようなリスクに対する意識が不十分なのだそうです。※2016年度情報セキュリティの脅威に対する意識調査より

「スマホを落としたことをきっかけに、自分や家族が犯罪に巻き込まれてしまったという事例は少なくありません。また、スマホを落として、後に運よく戻ってきたとしても、なくなっていたその間に誰かに情報を抜き取られている可能性も。自分は被害に遭っていないと思っていても、知らぬ間に被害に遭っている、そのことに気付いていないだけかもしれないのです。

スマホは個人情報の塊。中には、自分の情報はもとより、自分とつながっているすべての友人知人、そして大切な家族の情報も含まれています。だからこそ、絶対に外部に漏れないようにするための対策が必要なのです」。

情報を疑う直観力の大切さ

スマホを使う上で心得ておくべきことに、「情報を疑う直観力を日々磨き続けること」もあると佐々木さんは言い、中高年が遭いやすいスマホ被害の一つであるフィッシング詐欺の手口として、次のような例を挙げました。

ネットで購入した商品の到着を待っている頃、宅配便業者から、突然不在通知のショートメールが届きました。そこには、業者のサイトへ誘導するURLが。クリックしてページを開くと、再配達のためのアプリのインストールを促すボタンがあります。アプリを入れることで、これ以降の再配達の手続きが簡単になるというのです。

あなたは、このアプリをインストールしますか?

「実は、メールで誘導された先は偽サイト。でも、ものすごくよくできていて、一見してそれが偽物であることは僕でもなかなか判別できません。では、どこが怪しいか。僕なら、その前のショートメールを疑います。なぜ、不在連絡を突然メールで送ってきたのか。普段は不在票で連絡してくるのにと。そこに疑問を持たず、誘導されるがままにインストールボタンを押してしまうと、不正アプリが流れ込み、スマホを丸ごと乗っ取られ、知らぬ間に多額の不正な取り引きを行われてしまうといった被害に遭ってしまうのです」。

  • 「情報を疑う直観力を日々磨き続けること」の大切さを話す佐々木さん

ここで大切なのが、アナログな考え方だと佐々木さんは言います。

「デジタルの情報は表面的、断片的であり、それが真実であるかどうかは、一目見ただけでは分からない。真実かどうかを見極めるためには、現実のアナログな視点や経験値と照らし合わせる必要がある。先ほどの宅配便の例でいえば、『普段は不在通知を不在票で受け取っている』というアナログな経験値が、情報を疑う直観力につながり、危険を回避する術になるのです」。

若者世代に広めるべき大人の価値観と社会観

デジタル社会における新しい価値観という点においては、中高年は、デジタルネイティブである若者世代の考え方に合わせるべきところもあります。ただ、スマホを安全に活用しながらデジタル社会を生きていくという点においては、中高年の「アナログな時代を生きてきた経験」は強みであると佐々木さん。

「生まれながらにしてデジタルに囲まれ、良くも悪くもデジタルに依存した生活を送っている若者世代に、決定的に欠けているのが、アナログな知識や経験に基づく直観力。だから、『面白いから』とか『いいねが欲しいから』といった理由で不適切動画を投稿してしまったり、訳も分からず闇バイトに手を染めてしまったりするのです。

ぜひ中高年の方々にお願いしたいのは、日々進化するデジタル技術の知識や情報を追いかけ、更新し、直観力を磨き続けていくと同時に、デジタルとアナログを融合した大人の価値観、社会観を、若者世代に広めてほしい。それが、自分や家族をデジタル犯罪から守ることにつながると思います」。

取材協力:佐々木成三(ささき・なるみ)

1976年、岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。デジタル捜査班の班長として、デジタル証拠の押収解析を専門とし、埼玉県警における重要事件において携帯電話の精査各種ログの解析を担当。現在はTV番組にコメンテーターとして多数出演するほか、学生を犯罪リスクから守ることを目的に設立された一般社団法人スクールポリスの理事を務め、学校や企業での講演など幅広い活動を行っている。著書に『あなたのスマホがとにかく危ない』(祥伝社)。