昨年9月頃から始まったオーストラリアの森林火災(ブッシュファイヤー)が、観測史上最悪の被害を記録している。たくさんの人々が家を失い、命を落とした人までおり、都心部での煙害も出ている。動植物の被害も甚大で、南半球の固有種として知られるコアラやカンガルー、ウォンバットなどが山で無残に焼け死んでいる。一時的な雨で火災が多少おさまったとしても、餌となる植物が山にはほとんど存在しないので、動物たちが飢え苦しんでいるのが現状だ。

私たち日本人にもその状況はニュースやSNSなどを通して知らされているが、「どうにかならないものか」と思っても、遠い南半球への支援となるとすぐに具体的には思いつかないもの。そんな中、シドニーの有名シェフたちが東京でラーメンのポップアップイベントを開催した。売上の一部がオーストラリアコアラ募金となるチャリティ・イベントだ。

  • 和牛ラーメン(2000円)。和牛スライスがたっぷりとのって贅沢

ラーメン1杯につき200円が寄付される

1月24日と25日の2日間限定で開催されたラーメン・コラボレーション。シドニーの有名店「Gaku Robata Grill(楽ろばたグリル)」と、ヴィーガンラーメンなどを提供しているヘルシーラーメン店「ソラノイロ」がタッグを組んだ。東京・麹町の「ソラノイロ本店」で提供されたラーメンは「和牛らーめん 黒胡椒の香り」と「5種類の貝のらーめん タイム風味」(各2000円)の2種。ラーメン1杯に付き200円がオーストラリアのコアラへ寄付される。

  • イベントのチラシと募金箱。1日100食限定で完売した

1日100食限定だったが、初日は11時のオープンからたった2時間強で完売。筆者が訪れた2日目も、オフィス街の日曜の14時半にも関わらず満席だった。お客は日本人だけでなく、外国人のお客も目立った。また、遠方からわざわざ来店したという人まで。それもそのはず、「Gaku Robata Grill」はオーストラリア版ミシュランと言われる「グッドフードガイド」にてワンハット受賞した有名店なのだ。

  • 「Gaku Robata Grill」の犬飼春信シェフ(左)と、花倉嗣文シェフ(右)が来日

しかも「Gaku Robata Grill」の犬飼春信シェフは、「タイユバン・ロブション」(東京・恵比寿)の立ち上げメンバーでもあり、シドニーに渡ってからは「The Observatory Hotel(ザ オブザバットリー ホテル)」の五つ星フレンチ「Galileo(ガリレオ)」で調理長を5年務め、アメリカのビル・クリントン元大統領に料理を提供したこともあるスゴ腕シェフ。料理の鉄人のフレンチ・坂井宏行シェフとコラボしたこともある有名シェフなのだ。彼らの渾身の一杯を、シドニーでなく東京で堪能できる貴重な機会なので、たくさんのお客が詰めかけたというわけだ。

有名シェフが腕を振るうラーメンのお味は?

「Gaku Robata Grill」でも提供している「和牛らーめん 黒胡椒の香り」は、醤油ベースのスープに麺が見えないほど和牛スライスがのせてある肉好きにはたまらない一品。軽くしゃぶしゃぶしたような食感の和牛スライスは、口に含むとほのかに甘いうま味が押し寄せ、それほどかまなくとも溶けてなくなる。濃厚な旨味にブラックペッパーがきいているので食べ飽きない。

「5種類の貝のらーめん タイム風味」は、ムール貝・アサリ・ホタテ・赤貝・つぶ貝がゴロゴロと贅沢に入ったフレンチ風ラーメン。和風だしに、鶏と豚のスープや、貝の出汁を加えた旨味たっぷりのオリジナルスープで、生クリームも少し入っているのでまろやか。レモン汁も加えられているので爽やかでもある。日本のラーメンとは一線を画す、全く新しいラーメンの世界観に驚かされた。

  • 黄色のスープに貝がゴロゴロ!南半球から初上陸したラーメンは意表を突くものだった

「フレンチにも貝を使った料理(コキヤージュなど)がありますが、それらの調理技術をラーメンにも活用してみました。香ばしく焦がした発酵バターを加えて、香り付けもしています」と犬飼さん。「このイベントを機に、オーストラリア森林火災への理解が進み、募金など、何か皆さんのアクションのきっかけになれば」と続ける。

店内には「コアラさんに募金しようか」と言いながら募金箱にお金を入れる子連れの客もいた。ラーメンは2日間で合計200杯を完売。他に店内に設置された募金箱にも、たくさんの人々からの支援金が入れられた。そして後日、犬飼シェフたちによってオーストラリアコアラ募金へと届けられた。コアラたちの悲惨な状況が、一刻も早く改善されることを祈りたい。