先ごろ、外資系企業を中心に人材紹介を行うロバート・ウォルターズ・ジャパンは、「給与調査2020 日本」を発表した。同社のサラリーサーベイ等をもとに、グローバル市場の人材採用トレンドと国内の業界・人材採用・給与動向をまとめた内容だ。
本稿では、その調査・分析から見えてくる最新の採用・転職トレンドをレポートしたい。
人材採用のグローバル市場における2つのトレンド
発表会はまず、同社の表取締役社長であるジェレミー・サンプソン氏による2019年のグローバル市場における人材採用のトレンド分析から始まった。
「グローバル・トレンドのひとつは、テクノロジー分野におけるプロフェッショナル人材の売り手市場感が強まったことです。その背景には、社会のデジタル化があります。2020年も、この傾向が続くでしょう」。
確かに、最近のニュースでAIやビッグデータ、サイバーセキュリティなど社会のデジタル化を象徴するキーワードを聞かない日はない。進化するITを事業に取り組んでいくことは、あらゆる企業にとって非常に重要なこと。当然、その分野のプロフェッショナルが必要になる。
「もうひとつは、コンプライアンス等における当局の規制強化に対応するため、リスクマネジメントのプロに対する需要が高まったことです。このトレンドは、特に金融業界で強まりました」。
万一にも、企業がコンプライアンス違反や個人情報の漏洩等を引き起こした場合、経営に与える影響の大きさは計り知れない。このリスクを未然に防ぐことも、あらゆる企業で極めて重要な経営課題のひとつになっていることから、納得できるトレンドだ。
バイリンガル人材への需要が高まる国内求人
次に紹介したいのが、国内での求人トレンドだ。「全体的な傾向としてひとつ挙げれば、バイリンガル人材に対する高需要があります。特に、グローバル化を進める日系企業で増加しました」とジェレミー氏は話す。
一般的な人材に対する最近の求人倍率は1.6倍くらいを推移している。これがバイリンガル人材になると、数倍になっているという。当然、転職時に提示される給与も、国内の就労者一般より英語ができるスキル人材のほうが高くなる傾向だという。
なお、バイリンガル人材とは、具体的にどこまで英語スキルが必要なのか。ジェレミー氏に尋ねると、「ビジネスでの英語スキルに具体的な定義はしていません。コミュニケーション、リーディング、ライティングなどビジネス全般に必要なものです」と説明する。
また、トリリンガル人材の場合、英語に加えて中国語やマンダリン語(中国の標準語である北京語)に対する企業ニーズが高いそうだ。
日本の観光立国政策やオリンピックの東京開催が目前となり、観光や外食、ホテル、エンターテイメント施設などのサービス業で、バイリンガルやトリリンガル人材の採用が増えているのが背景だという。
そして、グローバルのトレンドと同じく、製造業や金融業でエンジニアに対する需要も大幅に増加しているとのこと。
20代を中心に転職意識が大きく変化
こうした人材採用における売り手市場の環境は、転職者の意識にも大きな影響を与えている。ひとつが人材流動性の高まり。
「特徴的だったのは、20代の転職割合が高まっていることです。日本でも、自分のキャリアは自分で創っていこうという意識が高まってきたのでしょう」。
経済のグローバル化等で競争が激化し、日本型経営の象徴だった終身雇用を維持できなくなってきたのは、以前から指摘されてきたこと。
ここにきて、その環境に危機感を抱き、積極的に行動する若い世代が増えてきたことは悪いことではない。ビジネスパーソンの意識も、グローバル化してきたということだろう。
また、定年退職に関する意識も変わってきたようだ。グラフを見ると、実に48%のビジネスパーソンが70歳まで働こうと考えている。この背景に、国の年金政策の変更や「老後2,000万円問題」があるのは想像に難くない。
こちらは、積極的というより、「働かざるを得ない」という意識のほうが強いかもしれない。
「企業は人材不足に対応するためIT化を進めていますが、それがテクノジー人材の大幅な不足を招くという皮肉な結果になっています。企業が優秀な人材を確保するため、従業員エンゲージメント(所属する企業に対する従業員の信頼度)を強化する動きが加速するでしょう」とまとめたジェレミー氏の言葉がとても印象的だった。