iPadが2020年1月27日で10周年となった。今回のシリーズでは、10年間のiPadの歩み、変質、そして未来について考えていきたい。最後となる3回目は、これからの10年に向けてAppleが仕掛けた布石についてだ。
掟破りの戦略で成功した低価格iPad
iPadの不振が続いていたのは、2017年第2四半期決算まで。それ以降は、前年同期比を上回る売上高を記録するようになり、直近の2019年第4四半期もその傾向を維持している。
前回の原稿「孤高の存在と苦悩の3年間」で、iPad浮上のカギは「iPadが担う新しい役割」と「市場のニーズに合った低価格モデル」の2点であると述べた。
2017年第3四半期(2017年4~6月)以降、売上高が再び成長し始めた要因は、2017年3月に発売した329ドルのiPad(第5世代)だ。A9チップを搭載しているが、デザインはiPad Air 2ではなく、これよりも厚かった先代iPad Airのものを採用し、iPad Air 2で薄型化を実現していたフルラミネーションディスプレイも採用されなかった。
Appleは、これまで製品を薄くし、また新しいテクノロジーを搭載して後戻りしない方針で、プレミアムブランドを維持してきた。しかし、2017年に登場した廉価版iPadでは、そのルールをすべて封印し、価格重視のiPadを供給した。これがまさに市場に求められていた製品であり、その結果として長らくの低迷を脱することができたのだ。
新しいiPadに与えられた役割
市場が求める製品を供給する、という方策は実現できた。もう一つのiPad復活の戦略は「iPadに新しい役割を持たせること」だった。
2016年3月、Apple Parkではなく、当時の本社だったInfinite Loopにあるホールで開催されたイベントでiPhone SEとともに発表されたのが、iPad Pro 9.7インチモデルだ。
すでに、2015年9月にiPad Pro 12.9インチモデルを登場させており、SmartKeyboardと第1世代のApple Pencilに対応した新しいiPadの姿を披露していた。9.7インチモデルも、これを踏襲するものとなった。
9.7インチモデルを発表したAppleのフィル・シラー氏は、「販売から5年経過した6億台のPCのリプレイスを狙う」という戦略を披露した。カバー一体型キーボードとペン入力に対応するiPadを、MicrosoftのSurface Proの競合として認知させ、アプリの充実とそれまでの企業導入の実績を背景に、iPadに対して明確に「PCの代替」という生産性ツールの役割を担わせようとしたのだ。
この戦略によって、現在はiPadのラインアップすべてでApple Pencilをサポートし、iPad miniを除くすべてのモデルでSmart Keyboardに対応した。第7世代となるiPadは10.2インチにサイズが拡大され、10.5インチ化されたiPad Pro以来製造されているSmart Keyboardをそのまま装着できるようになった。
かねてからアピールしているセキュリティやプライバシーを保ちつつ、2019年にiOSから分離されたiPadOSによる外部メモリーへの対応やデスクトップと同等のブラウザ利用など、iPadの弱点として指摘された点を改善し、その競争力を高めている。