角を見捨てる好判断で青嶋未来五段を圧倒。番勝負三昧の冬を迎える

1月22日に第5期叡王戦(主催:ドワンゴ)本戦準決勝の渡辺明三冠-青嶋未来五段戦が行われました。勝者が挑戦者決定三番勝負に進出する大一番は、86手で渡辺三冠の勝利となりました。

振り駒で後手番となった渡辺三冠は、青嶋五段の先手中飛車に対して左美濃に囲いました。先手も高美濃囲いに組んで、お互いの囲いは同じような形に。ともに隙のない陣形で仕掛けどころがなく、いかに囲いを発展させられるかが序盤の焦点になりました。

後手は左美濃からより堅い銀冠への組み換えを図ります。先手はそれを許容する指し方をとりましたが、それがまずかったようです。銀冠へ組み換える際には一瞬の隙が生じるため、先手としてはそのタイミングで仕掛けられるような駒組みにしなければいけませんでした。なぜなら、本譜は銀冠に組まれて以降、青嶋五段にはチャンスらしいチャンスが訪れなかったからです。

最善の陣形を構築した渡辺三冠の指し回しは圧巻でした。歩の突き捨てを2発入れて大駒の利きを通してから、銀をぶつけて戦いを起こします。青嶋五段は角取りに桂を跳ねて抵抗しますが、なんと渡辺三冠はこの角を見捨てて銀を取りました。角桂交換になり、後手は大きな駒損に。しかし、これで攻めが続くというのが渡辺三冠の読みでした。

渡辺三冠は急所にくさびの桂を打ち込んで、先手玉を不安定な形にしてから、先手玉から遠い地点に数少ない手駒の中から銀を飛車取りに打ちました。これが確実な手段で、後手の攻めが途切れなくなって勝負あり。打ち込んだ銀で飛車を入手して、2枚飛車を実現。瞬く間に先手玉を寄せ切り、86手で勝利を収めました。

結局、渡辺三冠の銀冠は金銀2枚が丸ごと残ってほぼ手つかず。仕掛けてから全く緩みない手順での勝利で完勝と言ってもいい内容でした。青嶋五段としては序盤の手順前後がすべて、というような内容で、力を出し切れない敗戦となってしまいました。

前期は本戦準決勝で菅井竜也七段に敗れた渡辺三冠は、初の挑戦者決定三番勝負進出です。1月27日に行われるもう1局の準決勝、豊島将之竜王・名人-佐々木大地五段戦の勝者と対戦します。

すでに始まっている王将戦七番勝負と、2月1日から開幕する棋王戦五番勝負。そして叡王戦挑戦者決定三番勝負と番勝負三昧の渡辺三冠。さらには春の名人戦七番勝負も出場が濃厚です。今年度勝率8割で、すでに勝ちまくっていると言っていい渡辺三冠ですが、これからもその勢いのまま番勝負ラッシュを駆け抜けるのか。棋界の中心人物から目が離せません。

将棋界の冬将軍、渡辺明三冠