サラリーマンの聖地・新橋。仕事を終えたビジネスパーソンにとって「憩いの場」となる飲み屋が数多く軒を連ねるこのエリアに、野球好きにとってはたまらない居酒屋があるのをご存じだろうか。
店の名は「肉蔵でーぶ」。その名を聞いてピンとくる中年サラリーマンも多いだろう。そう、この店のオーナーは現役時代に読売巨人軍などで活躍し、「デーブ大久保」の愛称で親しまれた大久保博元氏なのだ。
食べることに関してはプロ
大久保氏は現在、時間があれば可能な限り「肉蔵でーぶ」を訪れ、自身で料理を振る舞ったりホール業務をこなしたりしている。
10年間の現役生活を終えた後、埼玉西武ライオンズの打撃コーチや東北楽天ゴールデンイーグルスの監督も務めた男がなぜ、新橋で居酒屋を経営しているのか。率直に聞いてみると、ユニホームに袖を通していた時代から会社経営に興味を持っていたという。
「『野球をやめたらその後の人生をどうしよう』って考えたときに、単なるペーパーカンパニーではなく自分で会社を立ち上げてやってみたいという想いが出てきたんですよ」
そこで、飲食業での開業を目指そうとするが、「周囲に相談したら、100人中100人に『飲食業をなめるなよ』と反対されたんだよね」。それでも、大久保氏は現役時代、関東近郊はもちろん大阪や福岡などの各遠征先でさまざまな絶品料理を味わっていた。
「だから『食べること』に関してはプロだと思ってね(笑) おいしいものを食べている回数や量だったら、一流の料理人にも負けていないと考えたわけだよ」
全国の名店のレシピを再現できた理由
もちろん、「肉蔵でーぶ」を始めるにあたり、「秘策」はあった。これまでに出会ってきた各地の名店の看板メニューのレシピを、店のマスターに頼み込んで伝授してもらっていたのだ。そのレシピを、京料理の店で修業をしたプロの料理人の手で再現してもらう。「これでおいしくないわけがないよね」と大久保氏は笑う。
普通ならば、人気店や有名店の主が自慢の味を赤の他人に簡単に教えるわけがない。ただ、大久保氏はその人懐っこい笑顔を武器に、他人の懐にするりと入っていける天性の「才能」がある。その能力を存分に活用し、「旨い焼肉をつくるための秘伝のタレ」「最高のおでんをつくるためのダシ」などの情報を共有してもらったというわけだ。
「肉蔵でーぶ」の名物料理の味やいかに?
そして2016年3月、満を持して「肉蔵でーぶ」がオープン。居酒屋がひしめきあう激戦地に店を構え、じきに丸4年を迎えようとしている。さまざまな業界に顔がきく大久保氏の人気も営業面でプラスになっているだろうが、やはり飲食業は味がすべて。ということで、「肉蔵でーぶ」のイチオシメニューを何品か食べてみた。
まずは「牛肉100%ハンバーグ」(税別1,600円)から。ハンバーグと言えば牛と豚の合い挽きが一般的だが、こちらのメニューは牛肉のみ使用しているため、牛の旨味がダイレクトに伝わってくる。特製のデミグラスソースも非常にやさしい味わいに仕上がっており、居酒屋で出てくるハンバーグのレベルをはるかに超えていた。
同じ肉料理で言えば、兵庫県尼崎市にある焼き肉屋「光(みつ)」の特製タレを使用した「ハラミステーキ」(税別1,800円)も格別の味だった。旨みの詰まった肉と濃いめのタレのコラボはご飯がすすむこと必至。「光」がプロ野球選手御用達のお店であるのもうなずけた。
肉が続いたので、「センマイ刺し」(税別1,000円)で少しばかり箸休め。このセンマイもとにかく新鮮! コリコリした食感とさっぱりした味付けで何皿でも食べられそうな気がした。
お次は変化球的な要素として、大久保氏自身も大好きだという福岡の屋台のだしと具を使用した「博多ともちゃんおでん盛り」(税別1,600円)を堪能。はんぺんや大根など、具材は至ってシンプルながらやや甘いだしがしっかりと染み込んでこちらも絶品。からしもわざわざ取り寄せたもので、単調になりがちな味にピリリとアクセントをつけてくれる。
お腹もふくれてきたので、そろそろ〆の準備を。〆にお勧めなのが桜台の名店「桜台丸長(まるちょう)」の味を忠実に再現した「桜台丸長のラーメン」(税別980円)。昔ながらの中華そばがより濃いめになった感じの味で、これがとにかく旨かった。一心不乱に麺をすすって完食。甘辛さの中に酸味が光る「桜台丸長のつけメン」(税別980円)もあるので、つけ麺好きの人はこちらの選択もありだろう。
また、スパイスの香りと溶け込んだ野菜の旨味が特長の「かあちゃんのカレーライス」(税別980円)も〆に食べたい一品。こちらのカレーライスはランチでも提供しているので、気軽に「肉蔵でーぶ」の味を楽しんでみたい人におすすめだ。
実際に何品か食べてみて感じたのは「ご飯を食べに行きたい居酒屋」だということ。普段使いしやすい値段で味わえるメニューもいくつかあるので、野球好きの人が集まったときや、「ご飯がおいしい居酒屋で飲みたい」というシチュエーションにふさわしい店と言えるだろう。
いい仲間と飲める店に
最後に大久保氏に今後、「肉蔵でーぶ」をどのような店に発展させていきたいかを聞いてみた。
「『いい仲間と飲める店』にしたいよね。自分と仲がいい人と飲んでいいれば、どんな酒でもおいしいだろ? 俺も仲間といると楽しいし、そういうときに『この店をやっていてよかった』と一番強く思うしね。この店のおかげで、やっと『自分らしい自分に戻れている』という感じだよ。これからも人の気持ちを汲んでやっていきたいね」
●information
「肉蔵でーぶ」
東京都港区新橋3-3-7 信友ビル 1F
営業時間: 月曜日~金曜日 11:30~14:00、17:00~24:00 / 土曜日・祝日 17:00~24:00
定休日:日曜日