対人関係で気になることの一つに口臭がある。他人の口臭を指摘するのはなかなか難しいし、自分の口臭も気づきにくいのが現実だ。かつて「芸能人は歯が命」というCMが一世を風靡したが、今や口腔ケアは一般人も普通にする時代。口臭対策もエチケットマナーとして、特にビジネスパーソンは実践しておきたいところだろう。
そこで、歯科医の江上理絵医師に口臭を予防するための生活習慣や対策法などについてうかがった。
口臭の原因は病的口臭と生理的口臭
そもそも、なぜ口臭が発生するのか疑問に思う人もいることだろう。口臭の原因は、「病的口臭」と「生理的口臭」に大別できる。
「『病的口臭』とは『むし歯」『歯周病』『舌苔』『詰め物や被せ物が合っていない』『粘膜の病気』などが原因で起こる不快臭を指します。『生理的口臭』は空腹時や起床時、疲労時、緊張時、加齢などの生理的な理由で唾液の分泌が低下することによって発生します」
病的口臭の約8割は口の中に原因があると考えられており、きちんと治療をすれば口臭は治まるという。一方の生理的口臭を抑制する秘訣は唾液にあると江上医師は強調する。
「口臭が気になったときは、疲れていないか、ストレスが溜まっていないか、睡眠不足ではないかなど自問自答し、唾液の状態を意識してください。自分で口臭がすると思えば、まず、自分はどんな臭いの口臭がするのか、それがどのぐらい強いのかを知ることが大事です」
唾液には本来、口腔内をきれいにする「自浄作用」がある。ただ、食後すぐの歯磨きや、泡立つ歯磨き剤・液剤の多量常用、ブラッシング回数が多すぎる(オーバーブラッシング)などの理由により、必要な唾液を無駄に流してしまっているのが実情だという。
自分の口臭を確認する方法
自分の口臭は誰しも気になるところだが、その「程度」を客観視するのは普通では難しい。そんなときは、さまざまな検査方法を取りそろえる専門の口臭外来を訪問するとよい。
専門外来での主な検査法は以下の通り。
・問診……専門の医師が口臭についての悩みや訴えを詳細に聞く
・口臭測定器……口臭の原因となるガスを数値化し、自分の口臭を客観的に判断
・官能検査……検査者が口腔内のにおいを直接鼻で嗅ぎ、においの種類や強さ、においを認知できる距離を測定する
・唾液検査……分泌量、分泌能力、緩衝能力、PH、濁度、色調、沈殿物を調べる
・舌診……口臭と関連が深い舌の異常がないか診査
口臭が気にならなくなる食事のコツ
口臭予防のためには、普段の食事から気をつけておく必要があるのは明々白々。クリーンな息のためにご法度となるのはニンニクやニラ、ネギなど。これらの食べ物に含まれる強いにおい成分は、胃で消化された後に血液に取り込まれ、肺を経由して口臭となって吐き出されるという。
また、アルコール類は分解される際ににおいを発する。たばこも特有のタールのにおいがあり、ニコチンが唾液の分泌を抑制するので、口臭を放つようになるそうだ。
口臭が気になりだすと、頻繁に歯を磨こうとしてしまうが、磨きすぎは唾液の自浄作用を奪いかねないため、かえって逆効果になりかねない。江上医師によると、食事の工夫によって口臭が気にならなくなるという。
「朝食を抜くのはNGです。空腹感やそのストレスから、口臭が発生します。食事をすることで唾液が盛んに分泌され、口腔内細菌も一緒に流れていきます。しかし、柔らかいものばかり食べていると、噛むことをあまりしなくなるので、唾液の分泌が減少する原因となります。朝食は繊維質のものを摂(と)り、しっかりとよく噛(か)みましょう。肉・魚・卵・乳製品などのタンパク質は、口の中にいる細菌により分解・発酵される過程で出るガスが口臭となります」
緑茶には消臭作用や殺菌作用があり、一時的には口臭を消すことが可能。ただ、濃いお茶やコーヒーは利尿作用が働いて水分が排泄されてしまい、口の中は乾いてしまうので注意が必要だ。
「コーヒーや緑茶は食後の一服のみとし、一日に水を1リットル以上飲むようにしましょう。口の中を潤わせて乾燥を防ぎ、ベタつきを流して唾液分泌を促進するのがいいですね」
口臭を予防する方法
口の中では常に細菌が活動しているため、口腔内が無臭になることは基本的にない。口臭が少なからず出てしまう以上、重要なのは自分や第三者が不快と感じるかどうかという点だ。
口の中のネバつきや酸っぱさ、生ぐささ、渇きを感じたら、口の中で舌先を上下左右に動かして舌の運動をしてみると、唾液腺が刺激されて、唾液がたくさん出てくる。また、「水を飲む」「ガムを噛む」「歯磨き剤を使わずにブラッシングする」など、唾液の分泌促進を意識するとさらに効果的とのこと。
「日常的に、水以外のものが口に入ったら、必ず水でブクブクとゆすぎ、ゴックンと飲んで舌や粘膜をきれいに洗い流すようにしましょう。それでも、それらの症状が長く続くときには、専門の口臭外来を受診してください。検査、判定で適切な治療や専門的なアドバイスが得られると思います」
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 江上理絵(エガミ・リエ)
歯科医。江上歯科勤務。地域に密着し、お子様からご年配の方まで、お口の健康づくりのお手伝いをしています。3児の母でもあり、子供の歯並びを姿勢から考える「咬合育成法」を取り入れ、日々、治療や指導を行っています。 En女医会所属。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。