マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2020年「ユーロ/米ドル」の相場がどうなるのかについて取り上げます。
世界の外国為替市場で最も多く取引されている通貨は何でしょうか。言うまでもなく米ドルです。BIS(国際決済銀行)の最新統計によれば、2019年4月時点で米ドルは為替取引のうち88.3%のシェアを占めています(※為替取引は2通貨の交換で行われるので、全通貨のシェアを合計すると200%になります)。
2番目に多く取引されている通貨はユーロでシェア32.3%、3番目が日本円で16.8%、4番目が英ポンドで12.8%となっています。
そして、世界で最も多く取引されている通貨ペアは、ユーロ/米ドルでシェアは24.0%、2番目の米ドル/円は13.2%なので、前者は後者の2倍近い取引量があるということが分かります。
さて、日本の投資家の皆さんは主に円を中心に取引されているかもしれませんが、世界的にみればユーロ/米ドルが主役です。そこで、2020年のユーロ/米ドルの行方を考えてみました。
2020年のユーロ/米ドルにやや強気
はじめに結論を申し上げると、2020年のユーロ/米ドルの変動レンジを「1ユーロ=1.0800-1.1500ドル」と予想しています。ユーロ圏と米国の景気や物価の状況からみれば、ユーロは米ドルに対してあまり強くなりそうにありません。しかし、ここへきてユーロに対してやや強気の見方に傾いています。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が利上げ方向に舵を切るというサプライズがない限り、2019年9月30日につけた1.08742ドルがユーロの当面の安値になる可能性があります。また、ユーロ圏各国が景気刺激のために協調して財政出動をしたり、ECB(欧州中央銀行)がマイナス金利の解除に向けて動き始めたりすれば、ユーロは1.15000ドルの予想上限より上を目指すかもしれません。
もう少し詳しくみてみましょう。
通貨ユーロはユーロ独自の材料で動くケースもありますが、それ以上に米ドルの裏返しとして米ドルの材料で動く傾向が強いようにみえます。上述のようにユーロ/米ドルが世界で最も多く取引されている通貨ペアということが影響していそうです。
まず、2016年秋以降のユーロ/米ドルの動きは大きく3つの局面に分けることができます。
(1)2016年秋から2018年初頭
米トランプ政権の誕生によって、米国での保護主義圧力の高まりが米ドル安を招いた局面。
(2)2018年初頭から2019年9月
米国が比較的アグレッシブな利上げを行い米ドルが堅調推移した局面。ただし、2019年春からの半年ほどは、米FRBが利下げに転じる中でも、それ以上にドイツをはじめとするユーロ圏景気の悪化やインフレ率の鈍化が意識されてユーロ安が進みました。
(3)2019年9月以降
景況の悪化に対して、ECBは9月12日にマイナス金利の深掘りや量的緩和を含む包括的金融緩和を実施。その後に追加緩和期待が後退したことがユーロ反転のきっかけになった可能性があります。
9月の決定の直後からECB内部で量的緩和に強い反対があったことが明らかになり、マイナス金利の弊害を指摘する声も強まりました。したがって、かなりの景況悪化がない限りECBが追加緩和を行うことは難しそうです。
マイナス金利の解除や財政出動の可能性は?
OIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、市場が織り込む、ECBが2020年末までに利上げする確率は20%近くあります。これはユーロ圏の景況改善を受けて利下げが必要になるというより、弊害が大きいためにマイナス金利を解除する可能性があると見込んでいるからでしょう。
ラガルドECB総裁は金融緩和がほぼ限界にきているとして、ユーロ圏各国に対して財政出動を要望しています。ただ、これにはドイツなどの主要国の政府が否定的な反応をみせています。
ユーロ圏におけるマイナス金利の解除も、協調的な財政出動も簡単には実現しないかもしれません。ただ、そうした動きが見え始めるとすれば、通貨ユーロにとってプラスに作用しそうです。