2019年のカメラ業界を振り返ってどう感じているか、2020年のカメラ業界に何を期待するのか、どのような変化を見せてくれそうだと思っているか、業界通のカメラマンにまとめていただきました。今回は、デジタルカメラのレビューや撮影講座などでおなじみの吉村永カメラマンです。
Lマウントミラーレスは注目できる
ずっとカメラ業界で過ごしている自分にとって、2019年はなかなかおもしろい年だったと感じている。
2018年は、ニコンとキヤノンというカメラの2大巨頭がそろってフルサイズセンサー搭載のミラーレスシステムを発表。カメラ業界が一眼レフからミラーレスへ軸足を移すことが名実ともにはっきりした年だった。
2019年は、さらにパナソニックがフルサイズミラーレスへの参入を発表。レンズマウントをライカ社のものと共通とした「Lマウントシステム」として打ち出し、シグマも加えた3メーカーのアライアンスで強力に市場にアピールしてきた。
実際の製品も、パナソニックの「LUMIX S1/S1R」はボディサイズが大きすぎるという指摘はあるものの、かなり練り込まれたメカの造りで、老舗カメラメーカーの製品を凌駕するほどのフィーリングを備えてデビューした。シグマも、メカニカルシャッターを廃し、本体のサイズは最小にし、アクセサリーやリグシステムを加えて動画も写真も楽しめるシステムカメラ「fp」を投入し、新しいジャンルを提案してきた。
1億画素のGFX100に注目したワケ
僕が個人的に注目しているのが“超高画素”のジャンルで、製品は1億画素のセンサーを搭載した富士フイルムの中判ミラーレス「GFX100」だ。このカメラは、現在主流のフルサイズカメラよりもひとつ上の高画質を目指したモデルと位置づけられている。
多くの人は「1億画素なんていらない……」と感じるだろうが、ただ画素数が多く解像度が高いだけのカメラに収まらないところがおもしろいのだ。というのも、中判という大きなセンサーサイズにより、フルサイズ機と同じ画角を得るのにより長い焦点距離のレンズが必要になる。それにより、ボケの描写や同じ画角での立体感描写がフルサイズ機とはかなり異なり、独特の“味”となって現れるのだ。もちろん、高画素記録した写真をリサイズして縮小して使う場合でも、豊かな階調再現を持つ美しい写真が得られる。
また、これはメーカーが推奨している使い方ではないのだが、サードパーティーからフルサイズ一眼レフ用のレンズが使えるマウントアダプターが発売されており、これを併用すると例えばキヤノンEFレンズがAF(オートフォーカス)付きで使える。この場合は、約6000万画素のフルサイズカメラとして使えるわけだ。センサーサイズの異なるレンズシステムを使いこなして、目的に合った表現ができるということだ。
この1億画素と同じ世代のテクノロジーで生まれたフルサイズセンサーを採用するのが、ソニーの「α7R IV」。6100万画素の高解像度をそのまま活かすもよし、中央部分だけを切り出して使う「APS-Cクロップ」モードを使えば、焦点距離1.5倍相当の2620万画素機としても使える。これは望遠撮影時にとても便利で、個人的には2019年に登場したAPS-Cフォーマット用の望遠ズームレンズ「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」を使って、その便利さに唸らされた。とてもコンパクトなこのレンズが、105-525mm相当の超望遠ズームとして使え、その小ささからカメラを片手で操る「望遠スナップ撮影」という今まで体験したことのない街歩き撮影が可能になった。
フルサイズ一眼レフにAPS-C用のレンズを装着すると、ファインダーの視界が中央部分だけの小さなものになり、しかもテレ端がF6.3というレンズなのでファインダーがかなり暗くなる。しかし、EVFを搭載するミラーレスならば、撮影時のファインダー視界はフルサイズ用レンズを装着した時と何ら変わりなく、表示も暗くならないので、撮影が楽しくなるわけだ。さらに「G」レンズを名乗るだけあって、この手のF値が暗めのズームレンズにありがちなシャープさの不足もほぼ感じられない。
高感度時の画質改善も見逃せない
物理的な常識からいうと、カメラの画素数をただ増やすのは解像度が高まりこそすれ、画素ひとつあたりの面積が減るので、トータルで見れば画質が必ずしも向上するわけではない。スマホカメラでデジタル一眼をしのぐ高画素を標榜するモデルが続々登場しているが、それらが特に高画質だとは言い切れないのは多くの人が薄々感じているところだ。
先に述べた富士フイルムとソニーの高画素カメラも、実際に使ってみるとISO400くらいの感度からノイズの増加を感じさせる。だが、おもしろいのはこれまでのセンサーに比べて目障りなカラーノイズはISO25600といった超高感度域でもほとんど感じられず、輝度のノイズだけが増えていくこと。しかも、このノイズがとても細かく、粒子が整っているので、まるでフィルムの粒子を見ているかのようで不自然に感じにくいのだ。
これまでのデジタルカメラの多くは、高感度域で色の付いたカラーノイズが盛大に増えたり、ノイズが少なくても細部がとろけるように失われる「アニメ画的」な印象になりがちだったが、そのデジタルくささを感じにくい画質へと進化していると感じ取れた。現在は富士フイルムとソニーだけだが、2020年は他のメーカーもこの世代のテクノロジーを採用したセンサーを搭載した製品を出してくるだろうから、絵作りを含めて進化が楽しみだ。
また、2020年はオリンピックに向けてキヤノンとニコンから最上位の一眼レフが登場することになっている。一眼レフの技術を集大成した記念碑的なモデルとなるはずなので、この点でも2020年のカメラ業界には期待したい。