12月29日放送の『グランメゾン東京』(TBS系)を最後に、令和元年の連ドラがついに終了。

視聴率では、シリーズ作の『ドクターX~外科医・大門未知子~』『相棒』『科捜研の女』(すべてテレビ朝日系)が相変わらずの強さを見せた一方、新作ドラマで2桁を超えたのは『グランメゾン東京』と『同期のサクラ』(日本テレビ系)のみと厳しい結果に終わった。

ただ、『シャーロック』(フジテレビ系)、『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジ系)のようにタイムシフト(録画視聴率)が2桁を超えたものや、『俺の話は長い』(日テレ系)のように若年層の個人視聴率を獲得した作品もあり、決して「不作」だったわけではない。

ここでは、「“再会”できた幸せと不安」「バイオリンの音色とアートな映像」という2つのポイントから秋ドラマを検証し、主要19作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」「テレビ局や芸能事務所への忖度ゼロ」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

  • 俺の話は長い

    『俺の話は長い』(左から原田美枝子、小池栄子、安田顕、清原果耶)

■ポイント1 “再会”できた幸せと不安

今秋は過去作の続きや、似た世界観を楽しむような“再会”を思わせる作品がそろった。

続編では、定番の『ドクターX』、『相棒』、『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のほか、13年ぶりの『まだ結婚できない男』、12年ぶりの『時効警察はじめました』(テレ朝系)、舞台を航空業界に移した『おっさんずラブ―in the sky―』(テレ朝系)。さらに、コナン・ドイルの名作を現代日本版として復活させた『シャーロック』、映画『男はつらいよ』の前日譚となる『少年寅次郎』(NHK)が放送された。

その他でも、『ニッポンノワール ―刑事Yの反乱―』には『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(ともに日テレ系)と同一人物が次々に登場。また、『同期のサクラ』(日テレ系)の主人公を演じた高畑充希は同じ遊川和彦脚本の『過保護のカホコ』を彷彿させる役作りを見せ、『グランメゾン東京』の木村拓哉は過去の主演作を思い出す「これぞキムタク」という熱い男を演じるなど、“再会”という印象が強かった。

しかし、その“再会”は必ずしも幸せなものではなく、少なからず不安も伴う。慣れ親しんだ物語やキャラクターとの再会は「安心して楽しめる」というメリットがあり、上記に挙げた作品はおおむね好評だったし、『シャーロック』『同期のサクラ』らも続編が有力視されている。テレビ局にとっても計算できるコンテンツであり、ホッと胸をなでおろしているはずだ。

ただ、各局が今秋のように同じ「安全策」を選んでいたら近い将来飽きられかねない上に、何より視聴者を未知の作品でワクワク、ドキドキ、ハラハラさせることができない。最終回こそ否定的な声も多かったが、「今年最もバズったドラマ」である『あなたの番です』(日テレ系)への熱狂を見ればそれがわかるだろう。

今秋で言えば、穏やかな世界観ながら実はリスク覚悟の勝負に挑み、低視聴率ながら視聴者の熱い支持を集めた『G線上のあなたと私』(TBS系)と『俺の話は長い』(日テレ系)のような「意欲作をどう増やしていくのか」が問われている。

来年1月スタートの次クールは、刑事と医師の物語だけで10作を超えるなど「安全策」が目立つだけに、「どこかで見たような……」と再会を思わせる作品ばかりにならないことを祈りたい。

  • シャーロック

    『シャーロック』(左から岩田剛典、ディーン・フジオカ、佐々木蔵之介)

■ポイント2 バイオリンの音色とアートな映像】

今秋は「芸術の秋」にフィットする美しさを感じさせる作品が多かった。

とりわけ視聴者の耳を刺激したのは、バイオリンの音色。『シャーロック』では、誉獅子雄(ディーン・フジオカ)が「バイオリンを演奏しながら事件の推理をする」というシーンが毎話用意され、ヒントとなるカットをフラッシュで見せるという印象的な演出が採用された。さらに別バージョンのバイオリン演奏曲もあり、最後は失踪した獅子雄と若宮潤一(岩田剛典)をつなぐアイテムにバイオリンを選んだ。

『G線上のあなたと私』は、そもそも物語の舞台が大人のバイオリン教室。アラサーOLの小暮也映子(波瑠)、現役大学生の加瀬理人(中川大志)、40代主婦の北河幸恵(松下由樹)、年齢の異なる初心者3人が奏でるバイオリンが徐々にうまくなっていく……というシーンで視聴者の耳を癒した。講師の久住眞於(桜井ユキ)が奏でる美しい音色も含めて、ここまでバイオリンにフィーチャーしたドラマは見たことがない。

『ニッポンノワール』のオープニングや盛り上がるシーンで流れていたのは、扇情的なバイオリンの音色が魅力のヴィバルディ「四季 冬・第1楽章」。「誰が味方で誰が敵なのかわからない」、不穏な世界観を表現する曲であり、もろさや繊細さを芸術的に表現していた。

美しさを感じさせるだけでなく、切なさや激しさも表現できるバイオリンの音色は、ピアノとともに日本人の琴線にふれるものとして、ドラマには欠かせない劇伴パーツとなっている。近年はスマホやタブレットなどを片手に持った“ながら視聴”が増えているだけに、音の重要性がアップ。今後もバイオリンの音色を採り入れた劇伴が頻繁に聴けるだろう。


  • G線上のあなたと私

    『G線上のあなたと私』(左から中川大志、波瑠、松下由樹)

上記を踏まえた上で、夏ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『G線上のあなたと私』。年齢も性格も悩みも異なる3人が徐々に絆を深め、人生と向き合う姿をじっくり描写。人生のもどかしさと、「音を合わせるだけでも数年かかる」というバイオリンをシンクロさせるなど脚本の妙が光り、それにキャストたちも応えた。

「60分2話」「ホームドラマ回帰」という難題にチャレンジした『俺の話は長い』も文句なしの高品質。どこにでもいる家族の何気ない日常会話を淡々と描き、ニート問題の扱い方も深刻にならず、説教くささもなく、時流に合う作品だった。

主演俳優では、ハマリ役であり、バイオリン演奏もこなしたディーン・フジオカと波瑠。助演俳優では、若さに似合わぬ熟練した技術を見せた中川大志と清原果耶の存在感が際立っていた。

【最優秀作品】『G線上のあなたと私』 次点-『俺の話は長い』『シャーロック』
【最優秀脚本】『俺の話は長い』 次点-『G線上のあなたと私』
【最優秀演出】『シャーロック』 次点-『グランメゾン東京』
【最優秀主演男優】ディーン・フジオカ(『シャーロック』) 次点-阿部寛(『まだ結婚できない男』)
【最優秀主演女優】波瑠(『G線上のあなたと私』) 次点-高畑充希(『同期のサクラ』)
【最優秀助演男優】中川大志(G線上のあなたと私) 次点-沢村一樹(『グランメゾン東京』)
【最優秀助演女優】清原果耶(『俺の話は長い』) 次点-松下由樹(『G線上のあなたと私』)
【優秀若手俳優】 寛一郎(『グランメゾン東京』) 鈴木ゆうか(『4分間のマリーゴールド』)