マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2019年の為替相場について振り返ります。
2019年はフラッシュクラッシュでスタート
2019年の為替相場は年明け早々の「フラッシュクラッシュ」から始まりました。日本時間の1月3日早朝、米ドルが対円で一瞬のうちに109円前後から104円台まで下落したのです。前日の米国市場でのアップル社の業績見通し悪化が引き金となり、正月休みで市場の流動性が低かったことが変動を大きくしたとされています。しかし、本当のところは分かりません。
2019年の米ドル円の変動幅は12月19日までで8円弱と、年初の「フラッシュクラッシュ」とは裏腹に歴史的に変動の小さい相場でした。ただ、米中貿易交渉、ブレグジットの混迷、世界的な金融緩和強化の動き、米国とトルコの確執など相場材料には事欠きませんでした。
予想外に米ドルが堅調を維持した2019年後半
さて、2019年前半は、世界経済や米国経済の減速を背景に、米FRBの利上げ打ち止めや利下げへの地ならしがみられ、トランプ政権による関税発動など内向きの政策もあったため、米ドルの対円でのピークアウト感が強まりました。
2019年後半はFRBが利下げに転換した後も米ドルは比較的堅調でした。米景気が持ち直したこと、株価が高値を更新し続けたこと、多くの中央銀行が利下げに動いたこと、ブレグジットなどの政治不安や景気低迷により欧州通貨が軟調だったこと、それらの要因が米ドルにプラスに作用したのです。年央には米国のイールドカーブ(長短金利差)が逆転してリセッション(景気後退)の懸念も浮上しましたが、逆転は短期間で解消されました。
米FRBは利上げ打ち止め⇒利下げ開始⇒利下げ打ち止め?
2018年に4回の利上げを実施したFRBは、トランプ大統領からの批判が強まるなか、2019年前半は様子見に終始し、7月のFOMCから3回連続で利下げに踏み切りました。そして、12月のFOMCでは「予防的利下げ」の終了を示唆し、様子見を続けるとのメッセージを発信しました。
米中通商交渉に一喜一憂
昨年に続き、トランプ大統領の通商政策が大きな相場材料となり、年前半は相次ぐ対中関税の発動など対外強硬姿勢が目立ち、市場がリスクオフに傾く場面が多くみられました。年後半は米中合意を期待させる報道もあり、資源・新興国通貨を中心に通商交渉の行方に一喜一憂。そして、12月13日には米中が第1段階で合意に達しました。
英ポンドはブレグジットに振り回され……
英議会はメイ前首相がEUと合意した離脱協定案を3度否決。ブレグジット(英国のEU離脱)の先行きが一段と混迷しました。7月にはジョンソン首相が就任しましたが、事態の混迷は続きます。10月末の期日ギリギリでEUとの新たな合意がまとまって「合意なき離脱」を回避、2020年1月末が新たな期日となりました。そして、12月の総選挙で保守党が勝利したため、離脱協定の成立と1月末でのEU離脱がほぼ確実となりました。
資源・新興国通貨は強弱まちまち
豪ドルやニュージーランドドルは、両国の景気減速や利下げの動き、さらには米中交渉の不透明感がマイナス材料となり総じて軟調。カナダドルやメキシコペソはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)発効の期待もあり、年間を通してみれば堅調でした。また、トルコリラは、2018年の大幅下落とは対照的に比較的落ち着いた展開で、年後半はTCMBの大幅な利下げを受けても底堅さを維持しました。南アランドは、エスコム(国営電力会社)の経営危機や格下げ観測が重石となりました。