2019年も残りあとわずかになりましたが、今年も携帯電話業界では大きな出来事が目白押しでした。そうした携帯電話業界の1年のトピックを振り返り、Q&A形式でわかりやすく解説していきましょう。今回はスマートフォン本体に関するトピックを紹介する「端末編」(その2)です。「端末編」(その1)はこちらからどうぞ。
トピック:折りたたみスマホ、どうやって実現できたの?
2019年、大きな注目を集めたスマートフォンの1つに、ディスプレイを直接折り曲げられる「折りたたみスマートフォン」が挙げられます。
日本でもKDDI(au)からサムスン電子製の「Galaxy Fold」が発売され、ディスプレイを折り曲げられることだけでなく、約24万円という価格的インパクトでも話題となりました。
なぜこのような形状のスマートフォンを実現できたのかといえば、それはディスプレイ素材に「有機EL」を使用しているからです。有機ELは液晶と異なり、素材自体が直接発光することからバックライトを付ける必要ないので、素材や構造の工夫で折り曲げられるワケです。
サムスン電子はその特徴を生かし、これまでにもフラッグシップモデルの「Galaxy S」「Galaxy Note」シリーズに、ディスプレイの側面がカーブした特徴的なデザインんを採用しています。ですが曲げた状態で固定しておくのと、頻繁に折り曲げるのとでは、実現するためのハードルが段違いです。それゆえ折りたたみスマートフォンの実現には、ディスプレイを鋭角に折り曲げても強度や視認性に問題ないヒンジや、折り曲げてもディスプレイの強度を保つのに必要なカバー素材などの開発に時間がかかったと言われています。
技術的ハードルの高さは、Galaxy Foldが発売直前にトラブルが相次ぎ、一度販売延期になったことからも見て取ることができるでしょう。ですがファーウェイ・テクノロジーズやモトローラ・モビリティが折り畳みスマートフォン新機種を投入するなど、このジャンルに力を入れる企業は増えているので、2020年には意外と多くのメーカーから折りたたみスマートフォンが登場し、価格も急速に下がっていくかもしれません。
トピック:Pixel 4のジェスチャ機能はなぜ使えないの?
2018年に「Pixel 3」シリーズで日本のスマートフォン市場への再参入を発表したグーグル。2019年には新機種「Pixel 4」シリーズを投入し、AI技術を活用し夜景やズーム撮影に強いカメラを搭載するなどして、注目されましたが、一方で同機種の目玉機能「モーションセンス」が、日本でだけ利用できないことも話題となりました。
モーションセンスとは、スマートフォンに手をかざし、手を振ったりするなどして、スマートフォンに触れることなくさまざまな操作ができる機能。実際Pixel 4ではモーションセンスを用いることで、スマートフォンに手をかざしてスリープから解除したり、アラームを止めたりすることが可能です。
ですがモーションセンスは、潜水艦のレーダーなどに使われている60GHz帯の電波を用い、手の動きを検出する仕組みとなっています。そして電波を発する機器を日本で利用するには、技術基準適合証明(いわゆる「技適」マーク)を取得する必要があるのですが、総務省ではこの周波数帯を、センサー向けに使われることを想定していなかったのです。
そうしたことからPixel 4はモーションセンス部分の技適を取得できず、日本ではこの機能が利用できなくなってしまったワケです。しかしながらこの技術が将来広まると総務省は判断して、現在技術基準の見直しを進めていることから、2020年春頃にはモーションセンスが使えるようになると見られています。
トピック:ゲーミングスマホは普通のスマホと何が違うの?
2018年に日本でも販売されるようになった、ゲーミングPCならぬゲーミングスマートフォン。2019年にはシャオミが出資する企業が開発した「Black Shark2」が日本で販売されたのに加え、ASUSが2機種目となるゲーミングスマートフォン「ROG Phone II」を投入するなど、ゲーミングスマホ市場は拡大傾向にあります。
ゲーミングスマートフォンは、文字通りゲームプレイに特化したスマートフォンのことを指しており、負荷のかかるゲームを快適にプレイするため非常に高い性能を備えているのに加え、専用のコントローラーを接続できるなど高い拡張性を備えているのが大きな特徴となっています。ロゴが光るなどゲーミングPCのように派手なデザインも、特徴の1つといえるでしょう。
そうしたスマートフォンが登場した背景にあるのはスマートフォンゲームの高度化です。スマートフォンではかつては暇つぶし目的のカジュアルゲームが人気でしたが、最近では「フォートナイト」「荒野行動」などのように、3DCGを用いた本格的なオンラインゲームが人気となっています。そうしたゲームを快適にプレイするには高い性能が求められることから、ゲーミングに力を入れたスマートフォンが登場するに至ったといえるでしょう。
しかもゲーミングPCが、非常に高額なものが多いにもかかわらず市場が伸びていることからも分かるように、快適なゲームプレイにお金を惜しまない人は意外と多いのです。それゆえ2019年にはハイエンドスマートフォンの多くが、ゲーミング性能に力を入れるようになっています。
実際、シャープやソニーモバイルコミュニケーションズ、サムスン電子などは、ゲーム機能に力を入れたスマートフォンを提供するだけでなく、eスポーツやゲーム関連のイベントで自社スマートフォンをアピールしています。メーカーとしては高額なスマートフォンを販売した方が儲かるので、ゲーミングに力を入れる傾向は今後も続くといえそうです。
著者プロフィール
佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。