ABCテレビ・テレビ朝日系で22日に生放送され、ミルクボーイが第15代王者に輝いた『M-1グランプリ2019』。第1回大会から審査員を務める松本人志を「過去最高」とうならせるハイレベルな激戦に沸いた令和最初の漫才頂上決戦を、オンエアにはのらなかった出演者たちの表情をまじえてリポートする。
史上最多の5,040組がエントリーした今年のファイナリストは、からし蓮根、ミルクボーイ、ぺこぱ、オズワルド、すゑひろがりず、ニューヨーク、インディアンス、見取り図、かまいたち(以上、エントリー順)の9組。見取り図、かまいたちを除く7組が決勝初進出という、まさに展開の読めない戦いに。審査員席には昨年に引き続き、オール巨人、上沼恵美子、サンドウィッチマン・富澤たけし、立川志らく、ナイツ・塙宣之、中川家・礼二、そして松本の7名が顔をそろえ、700点満点でネタをジャッジ。漫才界のそうそうたるレジェンドたちが、ファイナリストたちにどんな評価を下すのかにも注目が集まった。
本番中にくじ引きでネタ順が決まる「笑神籤(えみくじ)」で選ばれたトップバッターはニューヨーク。持ち時間の4分を歌でボケ倒すネタで616点を獲得したが、「笑いながらツッコむ感じがあまり好きじゃない」という松本の評価は辛めの82点。これにツッコミの屋敷裕政が「最悪や~!」とキレてみせて笑いを誘ったことから、緊張感みなぎる会場の空気は一気に温まるなど確かな爪痕を残した。
続いて登場した2番手は、3度目の決勝となるかまいたち。ボケの山内健司が自らの“言い間違え”を誤魔化そうと、濱家隆一を理不尽に攻め立てるネタには、7人全員が90点超えの高得点をつけ、660点を獲得。その完成度は、上沼が「この人たちがグランプリ!」と早くも優勝を確信するほど。興奮冷めやらぬオール巨人が、CMに入ってからも「このネタは30回は見てるけど、今日のが一番!」と隣の塙に話しかける姿も印象的だった。
そして3番手には、敗者復活戦をぶっちぎりのトップで制した和牛が登場。3年連続で準優勝という実績を残し、優勝候補の筆頭と目されながらも、今年は準決勝でまさかの敗退を喫した実力派コンビの復活に会場は沸き返る。そんな2人の決勝ネタは、引っ越しの“部屋探し”がホラーまがいに展開していくストーリー性のある漫才で、細かい伏線を後半で回収しながら、ツッコミの川西賢志郎がボケに転じていく見事な構成。「毎年進化してる」と塙を驚かせるなど高評価をもぎ取り、652点で2位に躍り出た。
決勝常連組のかまいたち、和牛がいきなり2トップを勝ち取るなか、最終決戦へのきっぷをかけた3位争いは熾烈を極めることに。4番手のすゑひろがりずがユニークな狂言スタイルの漫才で637点を獲得し、ニューヨークに取って代われば、5番手で昨年の王者・霜降り明星と同じ“お笑い第7世代”のからし蓮根が639点で3位の座を奪取。6番目に登場した見取り図が、言葉選びの秀逸なセンスを遺憾なく発揮したネタで和牛とわずか3点差の649点を叩き出し、ベスト3に滑り込む。この段階で、1位はかまいたち、2位は和牛、3位は見取り図と、決勝経験者が上位に並んだが、この後、7番手のミルクボーイが打ち立てたドラマが、勝負をひっくり返してしまった。
ミルクボーイは結成12年にして決勝初出場。関西を拠点に活動しているが、ツッコミの内海崇が「テレビで漫才をするのはこれが今年初めて」と語った通り、メディアへの露出は決して多いとはいえない今大会のダークホースだった。そんな2人が、“おかんがどうしても思い出せない言葉”を絶妙なやりとりで探るネタに、松本は「これぞ漫才!というのを久々に見せてもらった」と圧倒され、塙のジャッジはほぼ満点の99点。審査員たちの心をわしづかみにした圧巻の漫才は、2004年に王者・アンタッチャブルが獲得した673点を凌ぐ、史上最高得点の681点を獲得。ミルクボーイは、これで一気にトップの座をもぎ取った。
8番目のオズワルドは飄々(ひょうひょう)とした味わいの漫才で638点を、9番手のインディアンスは田渕章裕がハイテンションなボケで大暴れして632点を獲ったが、3位には及ばず、惜しくも敗退。これで最終決戦の顔ぶれは、ミルクボーイ、かまいたち、和牛に決まったかに思われたが、最後の10番手・ぺこぱがまたもバトルに大波乱を巻き起こす。松本が「ノリツッコまないボケ」と評した松蔭寺太勇の新しいスタイルのツッコミで爆笑をさらった彼らは、和牛を抜く654点で3位に。最終決戦への出場権を奪い取る快挙で会場を大いに沸かせた。
そんな波乱だらけのバトルの結果、ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの3組が優勝をかけ、2本目のネタで激突することとなった。最初にステージに上がったぺこぱのネタでは笑顔も見せていた審査員たちだが、徐々に重苦しい表情に。過去の大会では2本目で惜しくもパワーダウンしてしまうコンビもあったが、今回はどの組も1本目を凌ぐクオリティー。志らくが「選びたくないですね…」と思わずもらしていたが、「選べない」というのが本音だったろう。CM中には誰も言葉を発さず、頭を抱えて考え込むレジェンドたちの姿から、審査員たちの苦悩が見て取れた。
そして審査員が1票ずつを投じる運命の最終ジャッジでは、かまいたちが1票、ミルクボーイが6票を獲得し、ミルクボーイが圧勝で王者に輝いた。内海が「ウソです、こんなん。夢、夢!」と思わず叫んだ感動の表彰式の後、オンエアの終わった会場では、鳴り止まない拍手の中、ともに激戦を戦ったファイナリストたちに祝福され、ステージでもみくちゃにされていたミルクボーイ。仲間の快挙を我がことのように喜び、号泣する見取り図・盛山晋太郎や、大阪で苦労を重ねる2人を見守ってきた司会の今田耕司が「やったな! おい! ホンマに今年1年、漫才に賭けとったもんな」と声を詰まらせる姿が胸に迫った。